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The Topic of This Month Vol.34 No.1(No.395)

真菌症 2012年現在

(Vol. 34 p. 1-2: 2013年1月号)

 

病原体の種類と頻度
真菌症は病変の局在により分類され、表皮や粘膜面に病変が限局する表在性真菌症と、臓器の病変、あるいは、播種性病変を形成した深在性真菌症がある。真菌が原因となる病態としては、感染症に限らずアレルギー性疾患やアフラトキシン等のマイコトキシンによる中毒があり、これらも真菌症に含めることがある。本稿では、致死率が高い深在性真菌症を中心に概説する。

深在性真菌症の原因真菌は健常者に感染症を起こすものと、免疫不全宿主に感染症を起こすものに大別できる。前者は高病原性真菌であり、コクシジオイデス属の他にヒストプラスマ属やクリプトコックス属などが知られており、従来からクリプトコックス属以外は海外においてのみ感染する渡航者真菌症(輸入真菌症)とされている(IASR 23: 55-56, 2002)。

感染症法に基づく感染症発生動向調査では、コクシジオイデス症のみが4類感染症とされており、診断した医師に全数届出が義務づけられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-12.html)。

1999年4月~2012年12月までにコクシジオイデス症患者31例が報告された(表1図1)。性別は男性23例、女性8例と男性が多く、年齢別では30代が13例と最も多かった(図2)。推定感染地域は米国が27例(うち、14例がアリゾナ州との記載あり)と大部分を占めた。

渡航者真菌症としては上記のコクシジオイデス症の他にヒストプラスマ症が多く(本号3ページ)、年間数例であるが徐々に増加傾向にある。

他方、国内で健常者にも感染するクリプトコックス症は中枢神経系に播種しやすい致死的感染症である。厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)(http://www.nih-janis.jp/)の2011年検査部門集計によれば、免疫不全の有無にかかわらず、脳髄膜炎において髄液検体から分離された病原体のうち、クリプトコックス属が2.8%を占め、肺炎球菌や腸球菌、大腸菌とほぼ同じ頻度であった。

一方、易感染性の患者における日和見真菌症の病原体として頻度が高いものは、カンジダ属とアスペルギルス属と報告されている。臨床における深在性真菌症の頻度ではカンジダ症が最多と報告されている(Horn DL, et al., Clin Infect Dis 48: 1695-1703, 2009)。しかし、日本剖検輯報を解析した病理診断報告によると、カンジダ症やアスペルギルス症の頻度はそれぞれ全剖検例の2%前後で推移している(Kume H, et al., Med Mycol J 52: 117-127, 2011)。アスペルギルス症などの糸状菌感染症は難治性のため、死亡に至った例では相対的にアスペルギルス症が多く、カンジダ症と同様の頻度となっていると推定される。

病原体の同定や検査法
病原真菌の分離株の真菌学的同定は一般的には形態学的、生化学的に行われるが、確定には遺伝学的同定法が用いられることが多い。ただし、患者検体から真菌を分離培養する際に、患者の渡航歴や居住歴からバイオセーフティレベル(BSL)3のコクシジオイデス属真菌症が疑われる場合には取り扱いに注意が必要である(本号3ページ)(実験室内感染例も起きている)。特に、寒天培地に発育したコクシジオイデス属のコロニーでは、胞子飛散による検査室内感染のリスクが高いため、コクシジオイデス症疑いの段階で検査を国立感染症研究所、あるいは、千葉大学真菌医学研究センターに依頼することが望ましい。

真菌が分離同定されない場合でも、病理組織学的に特徴的な所見があれば臨床的診断が可能な場合もある。

補助的な診断方法としては特異抗原検出が用いられ、信頼度の高い検査としてクリプトコックス属のグルクロノキシロマンナン抗原検出(血清・髄液)がある。血液悪性疾患の患者においては、アスペルギルス属のガラクトマンナン抗原検出(血清)も感度が高い方法として用いられる。抗体価の上昇も診断の指標になる。

抗真菌薬耐性の真菌
深在性真菌症に対する新世代抗真菌薬が開発され(本号4ページ)、臨床研究による治療法のエビデンスが蓄積されたことにより、抗真菌薬による標準的治療法が確立されている。標準的な治療においても抗真菌薬の投与期間は数カ月から年余に及ぶことがあり、耐性真菌の出現リスクがある。深在性真菌症における耐性真菌(遺伝学的変異が認められたもの)としては、アゾール系抗真菌薬耐性のカンジダ属やアスペルギルス属(Tashiro M, et al., Antimicrob Agents Chemother 56: 4870-4875, 2012)、エキノキャンディン系抗真菌薬耐性のカンジダ属の報告(乾佐知子ほか, 感染症誌 85: 49-53, 2011)があるが、現在のところ稀である。

公衆衛生学的に重要な新興真菌症
前述以外の真菌症で対応が急務なものとして、致死率が高く、北米で感染例が増え、わが国でも患者が発生しているCryptococcus gattii 感染症(本号4ページ)、若年者の間で頭部白癬の感染が拡大しているTrichophyton tonsurans 症(本号5ページ)とがあり、厚生労働省の研究班によって、それぞれ調査が実施されている。

 

(注)Coccidioides immitis は感染症法に基づく特定病原体等の三種病原体であるため、分離を行う場合には、病原体の種類等について厚生労働大臣への事後届出(7日以内)および運搬に際しては公安委員会への届出が必要となる。
 

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