国立感染症研究所

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Kudoa iwataiが原因と疑われる有症事例の背景と啓発の必要性について

(IASR Vol. 43 p97-99: 2022年4月号)

 
はじめに

 Kudoa iwataiK. iwatai)は, 寄生した魚の身に, 目視できる大きさのシストを形成するクドア属の粘液胞子虫である。当市で発生した, 当該寄生虫が原因と疑われる3件の有症事例から, 事案発生の背景と再発防止策について検討する。

調査結果

 事例の概要を表1に示す。

 (1)発症状況

 患者の発症状況を表2に示す。下痢が最も共通する症状であったが, 吐き気も半数以上の患者にみられた。事例3は, 症状が比較的重く, 回復に数日を要した患者もおり, 一過性とはいえなかった。

 (2)原因食品

 事例1の原因食品は, 「スズキの寿司」と推定された。従事者は, 魚の仕込みの際に, 身にシストがあることを認識していた。取り除いたと証言したが, 残品をみると, 直径1-2㎜の大小不同のシストが散在しており(図-1), 完全に取り除けていなかった可能性がある。

 事例2は「スズキのカルパッチョ」, 事例3は「サワラの寿司」が原因と考えられた。従事者らは, シストに気づいていなかった。事例2は残品がなかったが, 患者が撮影した料理の写真を観察すると, 魚の身にシスト様の斑点が確認できた(図-2)。事例3の残品には, 約1㎜のシストが確認できた(図-3)。事例2, 3も, シストを含む食品が提供されたと考えられる。

 (3)検査結果

 いずれの事例でも, 複数の患者便からK. iwataiの遺伝子が検出され, 事例1, 3のシストはK. iwataiであると同定された。シスト1個あたりの胞子数は, 事例1は5.3×106個, 事例3は6.1×105個であった。また, 事例3で, シストを含まない部位の魚の身から平均3.1×105個/gの胞子が検出された。なお, 遺伝子検査は, 「患者便からのKudoa septempunctata遺伝子検出法」に準じたKudoa iwatai 18S rDNAを標的としたリアルタイムPCR法により実施し, 顕微鏡検査は, 「Kudoa septempunctataの検査法について」に準じて実施した。

考 察

 当市の事例は, 有症事例の最大の要因が「従事者がシストを見逃す」ことであることを示唆する。事例1では, 気づきながら提供を止めず, 事例2, 3では, 魚の目利きが確かな経験豊富な従事者が, 鮮度や身質に関しては十分に見ていながら, シストは見落としていた。当市が2021(令和3)年2~6月に実施したアンケート調査では, 魚介類販売業者34人のうち, 「シストを見たことがある」と回答した者が19人(56%)であったが, 「病原性を有する可能性」を知っていた者はわずか2人(6%)であった。このことから, K. iwataiが「危害要因として認識されていないこと」が, シストが見逃される背景にあることがうかがわれた。

 K. iwataiの胞子の摂取量と発症との関係については科学的な知見が乏しいが, 食中毒の病因物質として指定されているKudoa septempunctataの胞子の発症摂取量が1071)といわれており, 1つの目安とすることができる。K. iwataiでは, 胞子の大半はシストに含有されていることから, 第一には, シストを喫食しないことが肝要である。そして, 寄生が軽度であれば, シストだけを取り除いて提供したくなるような場合もあると思われるが, シスト以外の身にも胞子が散在している可能性があり, 生食用に供するのは避けたほうがよい。安全性の観点からは, 寄生の程度にかかわらず廃棄により対応することが望ましく, 少なくとも加熱または冷凍して提供するべきである。

 病原性が疑われる他の近縁の寄生虫と異なり, 目視できるシストを形成することがK. iwataiの最大の特徴である。シストをメルクマールとして食品事業者へ寄生された魚を「見逃さない」よう啓発し, 再発防止に努めたい。

 

参考文献
  1. 食品安全委員会, ヒラメのKudoa septempunctataに係る食品健康影響評価について(2015)

静岡市保健所食品衛生課
 浅沼貴文 竹原裕代 柴田瑞葉 佐藤葉子
 島村好彦 永井幹美 山本秀樹      
静岡市環境保健研究所 
 髙橋直人 小野田早恵 鈴木史恵 金澤裕司
 木下 純 八木謙二

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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