IASR-logo

HPVワクチンに関するWHOポジションペーパー 2017

(IASR Vol. 38 p.150: 2017年7月号)

ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus: HPV)は感染しても70~90%が無症状で1~2年以内に自然消退する。一般人口でHPVが検出される割合は, 正常子宮頚部11.7%, 男性の陰茎・睾丸・会陰部21.0%と報告されている。しかしHPVは持続感染により20年以上経て浸潤性子宮頸癌の原因となると考えられており, 肛門癌や尖圭コンジローマの原因にもなり得る。HPV関連子宮頚癌は, 2012年には53万例が発生し, 26.6万例が死亡したと見積られている。癌に関連する12の型がハイリスクとされており, 特にHPV-16とHPV-18は子宮頸癌全体の71%に関与していた(HPV-16: 60.6%, HPV-18: 10.2%)。

 HPVワクチンは2価(HPV-16, 18: 2007年承認), 4価(加えてHPV-6, 11: 同2006年), 9価(加えて31, 33, 45, 52, 58: 同2014年)が市場に出ている。ワクチンは生きている生物由来成分, ウイルスDNAを含まないため感染性がなく, また抗菌薬, 保存剤を含まない。三角筋部への3回の筋肉内注射で100%陽転化し, その抗体価は, 2価と4価では最低ほぼ10年, 9価では最低5年は持続する。3種のワクチンとも高い子宮頸癌予防効果があると考えられており(4価ワクチンによる型特異的CIN2+予防効果98.2%, 等), 性的デビュー前の接種が最も効果的とされている。若年者では2回接種も3回接種に劣らない効果があるとされている。安全性に関しては, 副反応の多くが局所反応で, 9価ワクチンでは僅かに多く(90.7% vs 84.9%: 4価), また9~15歳では男性は女性より少なかった。複合性局所疼痛症候群・体位性頻脈症候群は, 承認前後の報告でワクチン接種との直接の関連を認めなかった。HPVワクチンは接種率が40%程度でも集団免疫が期待でき, 女性で80%以上の接種率があると男性でのHPV感染のリスクも下げる。男女の区別のない接種は女性のみの接種に比べ費用対効果が低く, 女性の接種率が50%以上ある場合, 男女の区別のない接種は費用対効果に見合わない。2017年3月末現在, 女児に対し71カ国(37%), うち男児に対しても11カ国(6%)がHPVワクチンを国の予防接種として導入している。

子宮頸癌や他のHPV関連疾患は重要な公衆衛生上の課題であり, HPVワクチンは各国の定期予防接種プログラムに取り入れられるべきである。第一次接種対象は9~14歳の女児であり, 次いで実施可能で費用対効果が良く第一次接種対象の接種や子宮頸癌スクリーニングの活動が妨げられない場合にのみ, 二次接種対象として男性や15歳以上の女性を考慮する。使用ワクチンの決定には, 地域のHPV関連疾患の負荷, 接種対象人口, 価格, プログラム実施上の問題を考慮する。ワクチン間の相互使用は有効性や安全性が不明であり, できる限り同一の種類を用いるべきである。接種スケジュールは9~14歳では6か月間隔で2回接種, 15歳以上および免疫不全者では3回接種(0, 1~2か月, 6か月)が推奨される。他のワクチン(生および不活化)との同時接種も可能である。接種に伴う有害事象は軽微である。妊娠中の接種は有効性と安全性が不明であり, 妊娠中の接種開始は避け, 追加接種は分娩後に延期すべきである。性的活動年齢の若年女性におけるHPV型別の検出割合の監視がワクチンの早期効果判定に重要であるが, 最低5~10年の継続が必要なため, すべての国で実施が必要というわけではない。また, 長期の臨床上の効果, 予防可能期間, 1回接種の有効性, 9歳未満の小児に対する接種の有効性と安全性についてはさらなる研究が必要である。

 

〔WHO, WER 92(19): 241-268, 2017〕
〔抄訳担当:感染研感染症疫学センター・新橋玲子(FETP), 山岸拓也, 砂川富正〕

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan