注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆直近の新型コロナウイルス感染症およびRSウイルス感染症の状況(2021年6月18日現在)
新型コロナウイルス感染症:
2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年6月18日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で177,371,775例(3,840,747例)、196カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19357.html)。
国内では、厚生労働省により公表されている、各自治体がプレスリリースしている個別の症例数(再陽性例を含む)を積み上げた情報によると、2021年6月18日0時現在、新型コロナウイルス感染症の検査陽性者数は780,898例、死亡者数は14,320例と報告されている。累積のPCR検査実施人数は、暫定値として15,698,345例であった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19357.html)。2021年第10週(3月8〜14日)〜第18週(5月3〜9日)にかけては、全国の新規陽性者数、検査陽性率(検査数に対する陽性者数の割合)がともに毎週増加したが、その後は傾向が変わり、第20週(5月17〜23日)〜第23週(6月7〜13日)は、新規陽性者数と検査陽性率がともに毎週減少した。直近の第23週は、第22週(5月31日〜6月6日)と比べて、検査数(第23週:451,409、第22週:583,013)、新規陽性者数(第23週:12,688、第22週:17,532)、検査陽性率(第23週:2.8%、第22週:3.0%)のいずれも減少した(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)。
COVID-19による全国の入院治療等を要する者の数の推移については(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)、2021年5月16日以降は減少し、6月18日0時現在の入院患者数は22,969例であった。また、全国の入院治療等を要する者のうち重症者数においても、5月26日0時現在の1,413例をピークに、6月1日0時現在の1,323例から6月17日0時現在の763例まで継続して毎日、減少したが(重症患者数については、一部の都道府県においては、都道府県独自の基準にのっとって発表された数値を用いて算出されているため、地域毎の比較には注意が必要である)、6月18日0時現在においては、775例と前日より微増した。日本COVID-19対策ECMOnetが集計するECMO/人工呼吸器装着数の推移(https://crisis.ecmonet.jp/)においては、5月9日頃から高止まりで推移していたが、5月末から減少に転じた(2021年6月18日現在)。
感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株の感染者が世界各地から報告され、これらの変異株による感染者の割合が上昇している。国内においても渡航歴のない者や、渡航者と疫学的関連がない者からの新規変異株感染者が報告されており、報告数と割合が多くの地域でともに増加傾向である。国内において、これまでに確認されている懸念される変異株、注目すべき変異株の件数については、本号11ページ「国立感染症研究所および地方衛生研究所等における全ゲノム解析により確認されたVOCs,VOIs」を参照いただきたい。これらの変異株の検出には検査体制の拡充が不可欠であり、全国で整備が進みつつある。変異株が検出された症例を含む事例への公衆衛生上の対応は、従来のSARS-CoV-2感染症例への対応と原則、同様であるが、広域事例を含め、積極的疫学調査によりクラスターを検出し丹念に対応していくこと、面的な対応を強力に行うことが重要である。また、変異株に関する詳細な解析結果については、以下を参照いただきたい:
●空港検疫所における新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)また、感染症発生動向調査(NESID)病原体サーベイランスには、医療機関、保健所等で採取された検体から、各都道府県市の地方衛生研究所、保健所、ならびに検疫所で検出された病原体の情報が、陰性の結果を含め、任意ではあるが報告されている。2021年6月18日現在、地方衛生研究所および保健所から報告された、新型コロナウイルス感染症/新型コロナウイルス感染症疑い症例から検出された病原体は、SARS-CoV-2が18,231件、陰性が115,561件であった。これ以外にも検疫所で検出されたSARS-CoV-2が424件報告されている。なお、詳細な内訳については、病原微生物検出情報(IASR)を参照いただきたい(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2021/5/495s03.gif)。
2020年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、移行可能な自治体から順次、移行を実施し、現時点で全国の自治体で利用されている。
RSウイルス感染症:
RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)を病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症である。潜伏期は2〜8日であり、典型的には4〜6日とされている。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の人がRSウイルスの初感染を受けるが、再感染によるRSウイルス感染症も普遍的に認められる。初感染の場合、発熱、鼻汁などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされる。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50〜90%がRSウイルス感染症によるとされる。また、早産の新生児や早産の生後6カ月以内の乳児、月齢24カ月以内で免疫不全を伴う、あるいは血流異常を伴う先天性心疾患や肺の基礎疾患を有する、あるいはダウン症候群の児は重症化しやすい傾向がある。さらに、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者におけるRSウイルス感染症では、肺炎の合併が認められることも明らかになっている。ただし、年長の児や成人における再感染は、重症となることが少ない。
感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスの付着した手指や物品等を介した接触感染が主なものである。特に、家族内では、飛沫感染、接触感染を介して、RSウイルスが伝播しやすいことも報告されている。よって、家族内にハイリスク者(乳幼児や慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者)が存在する場合、罹患により重症となる可能性があるため、適切な飛沫感染や接触感染に対する感染予防策を講じることが重要である。飛沫感染対策としてのマスク着用や咳エチケット、接触感染対策としての手洗いや手指衛生といった基本的な対策を徹底することが求められる。
RSウイルス感染症が重症化した場合には、酸素投与、輸液や呼吸器管理などの対症療法が主体となる。また、早産児、気管支肺異形成症や先天性心疾患等を持つハイリスク児を対象に、RSウイルス感染の重症化予防のため、ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体であるパリビズマブの公的医療保険の適応が認められている。
RSウイルス感染症は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている。定点医療機関において、医師により症状や所見からRSウイルス感染症が疑われ、かつ検査診断がなされた者が報告の対象となる。本疾患の発生動向調査は小児科定点医療機関のみからの報告であることから、成人における本疾患の動向の評価は困難である。また、検査診断のための公的医療保険の適応が拡大されてきたこと等により、RSウイルス感染症の報告数と、報告した小児科定点医療機関数は、2006年以降年々増加していたが、2013年以降は安定している(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/12/466r01f01.gif)。
2018年、2019年は、いずれも第37週にRSウイルス感染症の定点当たり報告数のピーク値がみられたが(2018年は2.46、2019年は3.45)、2020年には同様な流行はみられなかった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html)。2020年の9月から年末までの定点当たり報告数は、低いレベルであるものの徐々に増加し、2021年第2週(1月11〜17日)〜第16週(4月19〜25日)は、第11週を除いて継続して増加した。第16週以降の定点当たり報告数は、第16週が1.39、第17週が1.20、第18週が0.86、第19週が1.00、第20週が1.82、第21週が2.49、第22週が2.56、第23週が2.62で、第20週以降は再び増加し、第16週の値を上回った(6月16日現在。第17〜18週はゴールデンウイーク)。また、第10〜23週は、毎週、当該週の過去3年間の値を上回り、第21〜23週は2018年のピーク値を上回った。
2021年第11〜16週までの週毎の定点当たり報告数上位5位の都道府県は、第16週の富山県以外は全て九州からであった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/coronavirus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10308-idwrc-2113r.html)、(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10360-idwrc-2116r.html)が、第17週以降の定点当たり報告数上位5位の都道府県は、九州以外が増加した(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/10433-idwrc-2121r.html)。定点当たり報告数上位5位の都道府県は、第21週が山口県(11.04)、奈良県(10.65)、石川県(8.10)、富山県(7.10)、福井県(6.87)、第22週が山口県(11.72)、福井県(9.61)、石川県(8.41)、奈良県(7.38)、山形県(7.17)、第23週が福井県(13.17)、山口県(9.41)、富山県(7.66)、大分県(6.78)、石川県(6.55)であった。第23週現在、RSウイルス感染症は全国的に多く報告されており、鳥取県以外全ての都道府県から報告があった。2021年第21週と第23週の定点当たり報告数を比べると、27都県で増加した。
2021年第21〜23週までの総報告数については、例年と同様に男性(53%)が女性に比べて若干多かった。一方、年齢分布は、例年と比較して異なる傾向がみられた。年齢群別では、3歳以下が全体の88%、5歳以下が全体の99%を占めた。1歳が30%(男性:53%)と最も多く、次に2歳が26%(男性:53%)、0歳が17%(男性:54%)であった。2021年第1週以降の累積報告数の分布においても、同様な傾向であった〔男性が53%で、3歳以下が全体の91%、5歳以下が全体の99%。1歳が33%(男性:53%)、次に2歳が26%(男性:52%)、0歳が18%(男性:54%)〕。例年の年齢分布(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/8274-idwrc-1832.html)、(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/12/466tf03.gif)と比較して、全体に占める3歳以下の割合が減少し、特に0歳が占める割合の減少傾向がみられている。2018年〜2020年の年齢分布は以下であった:
2018年:3歳以下が全体の95%で、0歳が37%、1歳が37%、2歳が15%
2019年:3歳以下が全体の94%で、0歳が33%、1歳が37%、2歳が16%
2020年:3歳以下が全体の93%で、0歳が32%、1歳が35%、2歳が18%
まとめ:
新型コロナウイルス感染症は、全国的には2021年3月以降継続して増加傾向であった検査数、新規陽性者数、検査陽性率、入院患者数、重症患者数、ECMO/人工呼吸器装着数が、2021年6月18日現在、概ね減少傾向である。一方、新規陽性者数と検査陽性率の減少が鈍化しており、重症患者数の6月1日以降の継続した減少が6月17日で止まった。引き続き、変化を早期に探知するためにも、複数の情報源と指標を用いて傾向を監視する必要がある。RSウイルス感染症は、2020年と2021年第23週までの定点当たり報告数の傾向は2018年、2019年と大きく異なり、第23週現在、多くの地域で定点当たり報告数が高いレベルで推移しており、年齢分布も例年と異なっている。いずれの感染症においても、引き続き発生動向を注視する必要がある。また、これらの感染症に共通する個人の予防策として、マスクの適切な使用(乳幼児以外)、手洗い・手指衛生の徹底、適切な換気等の実施に努めていただきたい。
国立感染症研究所 感染症疫学センター