国立感染症研究所

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆直近の新型コロナウイルス感染症およびRSウイルス感染症の状況(2021年5月7日現在)

 

新型コロナウイルス感染症:

 2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年5月7日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で155,654,575例(3,252,142例)、194カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18450.html)。

 国内では、厚生労働省により公表されている、各自治体がプレスリリースしている個別の症例数(再陽性例を含む)を積み上げた情報によると、2021年5月7日0時現在、新型コロナウイルス感染症の検査陽性者数は620,994例、死亡者数は10,589例と報告されている。累積のPCR検査実施人数は、暫定値として12,241,999 例であった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18450.html)。2021年第4週(1月25〜31日)以降、全国の報告日別新規陽性者数、検査数、検査陽性率(検査数に対する陽性者数の割合)はいずれも減少傾向であった。しかし、3月以降は、新規陽性者数、検査陽性率がともに増加傾向に転じ、第17週(4月26日〜5月2日)は、第16週(4月19〜25日)と比べて、検査数(第17週:494,034、第16週:533,725)が減少したにもかかわらず、新規陽性者数(第17週:35,836、第16週:32,914)が増加し、検査陽性率(第17週:7.3%、第16週:6.2%)が増加した(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html)。

 COVID-19による全国の入院治療等を要する者の数の推移については(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)、2021年1月18日(71,129例)をピークに、3月9日(11,581例)まで減少傾向であったが、3月10日以降、再び増加傾向に転じた(62,453例:2021年5月7日0時現在)。また、全国の入院治療等を要する者のうち重症者数においても、2021年1月26日(1,043例)をピークに減少が続いていたが、3月26日(331例)以降増加傾向に転じた(1,131例:2021年5月7日0時現在。重症患者数については、一部の都道府県においては、都道府県独自の基準にのっとって発表された数値を用いて算出されているため、地域毎の比較には注意が必要である)。同様に、日本COVID-19対策ECMOnetが集計するECMO/人工呼吸器装着数の推移(https://crisis.ecmonet.jp/)においても、2021年1月20日(628例)をピークに、減少傾向に転じていたが、3月下旬から継続して増加している(2021年5月7日現在)。

 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株の感染者が世界各地から報告され、いくつかの国ではこれらの変異株による感染者の割合が上昇している。懸念される変異株としては、イギリスで最初に確認されたB1.1.7(VOC-202012/01)、南アフリカで最初に確認されたB.1.351(501Y.V2)、ブラジルからの帰国者において日本で最初に確認されたP.1(501Y.V3)等が挙げられる。国内においても渡航歴のない者や、渡航者と疫学的関連がない者からの新規変異株感染者が報告されており、報告数と割合がともに増加傾向である。国内において、これまでに確認されているこれらの件数については、本号11ページ「国立感染症研究所の全ゲノム解析により確認されたVOC, VOI」を参照頂きたい。これらの変異株の検出には検査体制の拡充が不可欠であり、全国で整備が進みつつある。変異株が検出された症例を含む事例への公衆衛生上の対応は、通常のSARS-CoV-2感染症例への対応と原則、同様であるが、広域事例を含め、積極的疫学調査によりクラスターを検出し丹念に対応していくこと、面的な対応を強力に行うことが重要である。また、変異株に関する詳細な解析結果については、以下を参照いただきたい:「空港検疫所における新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10282-covid19-42.html、「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10279-covid19-40.html、「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第2報)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/coronavirus/2019-ncov/2551-lab-2/10354-covid19-45.html

 また、感染症発生動向調査(NESID)病原体サーベイランスには、医療機関、保健所等で採取された検体から、各都道府県市の地方衛生研究所、保健所、ならびに検疫所で検出された病原体の情報が陰性の結果を含めて、任意ではあるが報告されている。2021年5月7日現在、地方衛生研究所および保健所から報告された、新型コロナウイルス感染症/新型コロナウイルス感染症疑い症例から検出された病原体は、SARS-CoV-2が17,238件、陰性が108,916件であった。これ以外にも検疫所で検出されたSARS-CoV-2が388件報告されている。

 2020年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、移行可能な自治体から順次、移行を実施し、現時点で全国の自治体で利用されている。

 

RSウイルス感染症:

 RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)を病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症である。潜伏期は2〜8日であり、典型的には4〜6日とされている。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の人がRSウイルスの初感染を受けるが、再感染によるRSウイルス感染症も普遍的に認められる。初感染の場合、発熱、鼻汁などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされる。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50〜90%がRSウイルス感染症によるとされる。また、早産で新生児や生後6カ月以内の乳児、月齢24カ月以内で免疫不全を伴う、あるいは血流異常を伴う先天性心疾患や肺の基礎疾患を有する、あるいはダウン症候群の児は重症化しやすい傾向がある。さらに、慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者におけるRSウイルス感染症では、肺炎の合併が認められることも明らかになっている。ただし、年長の児や成人における再感染は、重症となることが少ない。

 感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスの付着した手指や物品等を介した接触感染が主なものである。特に、家族内では、飛沫感染、接触感染を介して、RSウイルスが伝播しやすいことも報告されている。よって、家族内にハイリスク者(乳幼児や慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者)が存在する場合、罹患により重症となる可能性があるため、適切な飛沫感染や接触感染に対する感染予防策を講じることが重要である。飛沫感染対策としてのマスク着用や咳エチケット、接触感染対策としての手洗いや手指衛生といった基本的な対策を徹底することが求められる。

 RSウイルス感染症が重症化した場合には、酸素投与、輸液や呼吸器管理などの対症療法が主体となる。また、早産児、気管支肺異形成症や先天性心疾患等を持つハイリスク児を対象に、RSウイルス感染の重症化予防のため、ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体であるパリビズマブの公的医療保険の適応が認められている。

 RSウイルス感染症は、感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている。定点医療機関において、医師により症状や所見からRSウイルス感染症が疑われ、かつ検査診断がなされた者が報告の対象となる。本疾患の発生動向調査は小児科定点医療機関のみからの報告であることから、成人における本疾患の動向の評価は困難である。また、検査診断のための公的医療保険の適応が拡大されてきたこと等により、RSウイルス感染症の報告数と、報告した小児科定点医療機関数は、年々増加していたが(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/35/412/graph/f4121j.gif)、2014年以降は安定している。

 2018年、2019年は、いずれも第37週にRSウイルス感染症の定点当たり報告数のピーク値がみられたが(2018年は2.46、2019年は3.45)、2020年には同様な流行はみられなかった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html)。2020年の9月から年末までの定点当たり報告数は、低いレベルであるものの徐々に増加し〔第37週(9月7〜13日)と第52週(12月21〜27日)の定点当たり報告数は、それぞれ0.05と0.14〕、2021年第2週(1月11〜17日)以降は、第11週を除いて継続して増加し、第16週(4月19〜25日:4月28日現在)の定点当たり報告数は1.39であった。第10〜16週は、毎週、当該週の過去3年間の値を上回った。

 2021年第14〜16週までの、週毎の定点当たり報告数上位5位の都道府県は、宮崎県、佐賀県、熊本県、福岡県、長崎県、富山県のいずれかであり、週毎の定点当たり報告数が3.55〜8.57と高いレベルで推移していた(第14週:3.55〜8.25、第15週:3.98〜7.52、第16週:5.24〜8.57)。第11〜13週(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10308-idwrc-2113r.html)と同様に、九州で多い傾向がみられたが、九州以外の21府県で第14〜16週に継続した増加がみられた。第16週の定点当たり報告数上位10位の都道府県は、佐賀県(8.57)、宮崎県(7.50)、福岡県(6.46)、熊本県(5.76)、富山県(5.24)、大阪府(3.86)、長崎県(3.16)、山口県(2.65)、岩手県(2.63)、奈良県(2.15)であり、RSウイルスが全国的に多く報告された。

 2021年第14〜16週までの総報告数については、例年と同様に男性が53%と女性に比べて若干多かった。年齢群別では、3歳以下が全体の93%、5歳以下が全体の99%を占めた。1歳が36%(男性:54%)と最も多く、次に2歳が27%(男性:51%)、0歳が18%(男性:55%)であった。過去数シーズンの年齢分布と比較して、3歳以下が全体に占める割合が減少し、特に0歳が占める割合が減少した傾向がみられた。2021年第1週以降の累積報告数の分布においても、同様であった〔男性が52%で、3歳以下が全体の92%、5歳以下が全体の99%。1歳が36%(男性:54%)、次に2歳が27%(男性:51%)、0歳が18%(男性:54%)〕。

 

まとめ:

 新型コロナウイルス感染症においては、2021年5月7日現在、全国的には検査数、新規陽性者数、検査陽性率がいずれも増加しており、入院患者数、重症患者数、ECMO/人工呼吸器装着数も全て増加傾向である。全国的に、医療機関や介護施設等での事例を含む集団感染(クラスター)の発生も継続している。引き続き、複数の情報源と指標を用いて、発生動向を注視する必要がある。RSウイルス感染症においては、2020年と2021年第16週までの定点当たり報告数の傾向は近年と異なり、第16週現在、多くの地域で定点当たり報告数が高いレベルで推移している。いずれの感染症においても、引き続き発生動向を注視する必要がある。また、二つの感染症に共通する個人の予防策として、マスクの適切な使用、手洗い・手指衛生の徹底、適切な換気等の実施に努めていただきたい。

 

   国立感染症研究所 感染症疫学センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version