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2016年の長崎県対馬市における日本脳炎患者発生に伴う媒介蚊およびイノシシの調査

(IASR Vol. 38 p.157-158: 2017年8月号)

はじめに

日本脳炎は, 日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus, 以下JEV)の感染により引き起こされる急性ウイルス感染症である。本疾患は, 主にコガタアカイエカCulex tritaeniorhynchusが媒介する蚊媒介感染症として知られており, 蚊からブタ(ときに野鳥), ブタから蚊の感染サイクルを形成している1)。本邦における感染症発生動向調査に基づく患者報告数は, 1990年代以降, 10名以下で推移しており, 長崎県においても2001~2009年まで患者報告がない状態が続いた。しかしながら2010年以降は, 2010年に1例, 2011年に2例, 2013年に1例(死亡例)が報告されている。このような中, 2016年8月中旬~9月中旬にかけて, 長崎県の離島である対馬市において4名の日本脳炎患者が続発するという稀有な事例が発生した(本号5ページ参照)。対馬市にはウイルス増幅動物となるブタが飼育されておらず, また媒介蚊に関する継続的な調査資料がないことから, 原因究明を目的に媒介蚊およびブタ非飼育地域における増幅動物として可能性のあるイノシシについて, JEVの感染状況, 特にウイルス分離を主とした調査を行ったのでその概要を報告する。

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