はじめに

 B型肝炎の原因ウイルスであるB型肝炎ウイルス(HBV)は、1964Blumbergらによるオーストラリア抗原として発見された。発見当初は免疫血清学的手法を用いて研究されてきたが、1970年にHBVの本態であるDane粒子が同定され、さらに1979年ウイルス粒子から、そこに含まれるウイルスゲノムがクローニングされ、HBVおよびB型肝炎に関する知見は飛躍的に進展した。B型肝炎に対しては1985年に母子感染予防対策が確立し、2000年には核酸アナログ製剤が治療法として導入され、現在ではインターフェロン(IFN)製剤と核酸アナログ製剤を用いることで、B型肝炎はウイルス増殖を抑え、肝疾患の進展を防ぐことが可能になってきている。しかし、我が国でも欧米に多い遺伝子型Ae株の症例が増加しており、免疫・化学療法によってB型肝炎が再活性化する問題も明らかになっている。

●家庭医向け;E型肝炎
 HEVのウイルスゲノムは1989年、HCVとほぼ時期を同じくして同定されました。直径約30nmのウイルス外被を持たない小型のRNAウイルスです。患者あるいは感染サル糞便を用いた免疫電子顕微鏡では27-34nmの粒子として観察されます。HEVゲノムは約7.2kbのプラス一本鎖RNAで3’末端にポリアデニル基を持っています。この中には、5’末端からORF1, ORF3, ORF2の順にORFが一部重複しながら配列しています。ORF1は非構造蛋白質をコードし、N末端側からメチルトランスフェラーゼ、システインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼ、RNA依存RNAポリメラーゼのモチーフがあります。ORF2は構造蛋白をコードしています。
●家庭医向け;A型肝炎
 1947年にMacCallumらが潜伏期の異なる2種類のウイルス肝炎を区別し、潜伏期の短い方をA型肝炎、長い方をB型肝炎と命名しました。その後、KrugmannらはHAVを含む感染性血漿MS-1を分離、さらにBoggsらはMS-1の経口継代に成功し、1973年にFeinstoneらが糞便中に排泄されたMS-1ウイルス粒子を検出しました。HAVは直径27nmの正20面体粒子で、ウイルス遺伝子は1個の読みとり枠(ORF)を持つ約7500塩基長のプラス鎖RNAです。HAV粒子の蛋白質には4種類のキャプシド蛋白質(VP1, VP2, VP3, VP4)とゲノムRNAの5'末端に共有結合する蛋白質VPgがあります。ピコルナウイルス科、ヘパトウイルス属に分類されています。一部特定の培養細胞に感染、増殖しますが、その増殖速度は他のピコルナウイルスに比べ極端に遅いことが知られています。

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