鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染事例の状況について

鳥インフルエンザウイルス

A/H5亜型ウイルス

2022年9月以降, 家禽または野鳥・愛玩鳥等でのA/H5亜型ウイルス（N3を除くN1-N6 NA亜型, NA亜型不明も含む）による高病原性鳥インフルエンザ（HPAI）の発生が欧州, アフリカ, アジア, 北米, 中南米から報告されている。NA亜型別ではN1が欧州36カ国／地域, アフリカ7カ国, アジア12カ国／地域, 北米2カ国, 中南米13カ国で, N2が日本, 台湾, 南アフリカで, N4が米国で, N5がノルウェー, フィンランド, 台湾で, N6がフィリピンで, それぞれ検出されている（2023年8月17日時点）^1）。このうちN1とN6亜型でヒト感染が報告されている^2）。A（H5N1）ウイルスについては2003年以降, アジア, アフリカを中心に世界23カ国で死亡460例を含む880例のヒト感染が確認されているが, 2022年9月以降では, 中国で2022年9月に1例（死亡）と2023年1月に1例, ベトナムで2022年10月に1例, スペインで2022年9月に1例と2022年10月に1例, エクアドルで2022年12月に1例, チリで2023年3月に1例, 英国で2023年5月に2例と2023年6月に1例と2023年7月に1例, カンボジアで2023年2月に2例（1名死亡）, 2023年10月に2例（2名死亡）のヒト感染が確認され, スペイン, エクアドル, チリでは初のヒト感染報告となった（2023年10月16日時点）^2-4）。これらヒト感染を起こしたA（H5N1）ウイルスのHAのクレードは, カンボジアの事例では2.3.2.1c, それ以外の事例では2021年以降に鳥類で世界的に大流行している2.3.4.4bに分類されることが確認されている^5）。A（H5N6）ウイルスについては2014年以降, 中国で87例, ラオスで1例のヒト感染が確認されており, 2022年9月以降は, 中国広西チワン族自治区と重慶市で2例ずつ, 広東省, 湖南省, 四川省でそれぞれ1例のヒト感染（2.3.4.4b）が確認されている（2023年10月16日時点）^4）。

日本では昨（2022/23）シーズンの2022年9月～2023年5月に, A（H5N1）もしくはA（H5N2）ウイルスによるHPAIの発生が, 家禽で84事例（26道県）, 野鳥･環境試料で242事例（1道27県）, 飼養鳥で10事例（1都5県）が確認された^1,6）（詳細は別報^7））。さらに今シーズン初となるA（H5N1）ウイルスが, 2023年10月4日に北海道で回収された死亡したハシブトガラスから検出されている^6）。

2021年3月以降, A（H5N1）ウイルスは, 鳥類以外にもキツネ, クマ, ネコ, イヌなどの陸棲哺乳動物やカワウソ, イルカ, アザラシなどの水棲哺乳動物など様々な哺乳動物にも拡がり, 20カ国で国際獣疫事務局（WOAH）に報告された（2023年9月5日時点）^8）。国内においても2022年2月と4月に, 北海道で死亡した野生キタキツネからそれぞれA（H5N1）ウイルスが検出されている^6）。

A/H7亜型ウイルス

2013年3月に低病原性H7N9亜型鳥インフルエンザウイルスの初のヒト感染が中国で報告され, 第5波（2016年10月～2017年9月）以降は, 家禽に対して高病原性を示すように変異したHPAI A（H7N9）ウイルスのヒト感染も報告された。2013年以降で1,568例のヒト感染, 616例の死亡例が確認されたが, 家禽へのワクチン接種開始による鳥インフルエンザ発生数の減少にともない, 2017年9月以降のヒト感染例の報告数は激減した^9）。2019年3月の中国内モンゴル自治区での事例以降は, ヒト感染例は報告されていない（2023年10月2日現在）^10）。

A/H9亜型ウイルス

A（H9N2）ウイルスのヒト感染は2022年9月以降, 中国で13例（直近では2023年1月に江西省で1例, 2月月に四川省で1例が報告）が確認され, 12例（9か月齢～10歳の子供）は軽症例, 1例（58歳）は重症例であった^2）。それ以前にはエジプト, バングラデシュ, インド, セネガル, オマーン, カンボジアでもヒト感染が確認されており, 1998年以降のヒト感染は100例以上となった^2,11,12）。現在もアジア, アフリカを中心に家禽の間での流行が確認されている^2）。

その他亜型ウイルス

中国広東省において, 2023年3月に, 中国で3例目のA（H3N8）ウイルスのヒト感染死亡例（56歳女性）が報告された^2）。この患者は発症前に家禽との接触が確認され, 複数の基礎疾患を有していた。また中国浙江省において, 中国で（世界でも）2例目のA（H10N3）ウイルスによるヒト感染例（33歳男性）が報告された（2022年6月発症後, 重度の肺炎と呼吸不全を発症）^2）。これらウイルスのヒト-ヒト感染は確認されていない。

世界各地では, 家禽や野鳥から様々な亜型の鳥インフルエンザウイルスが検出され, ウイルス流行の拡大とともにヒト感染リスクは高まるため, 引き続きこれらのウイルスを注視していく必要がある。

ブタインフルエンザウイルス

ブタは, ブタインフルエンザウイルス（IAV-S）に加え, 鳥やヒト由来のインフルエンザウイルスにも感染するため, 異なるウイルスに同時に感染した場合に遺伝子再集合体（A型インフルエンザウイルスの8本の遺伝子分節の組み合わせが異なるウイルス）を産出することがある^13）。2009年にパンデミックを引き起こしたA（H1N1）pdm09ウイルスは, 北米で流行していたtriple reassortantウイルス（ブタ, 鳥, ヒトインフルエンザウイルスの遺伝子再集合体）とユーラシアで流行していた鳥型豚系統H1N1ウイルスとの遺伝子再集合体である^14）。A（H1N1）pdm09ウイルスは, 世界各地でブタに再侵入し, IAV-Sとの間で様々な遺伝子再集合体を産生している^13）。

2022/23シーズンは, 米国ではA（H1N2）v, A（H3N2）v, A（H3）v（NA亜型不明）ウイルスのヒト感染が, それぞれ2例, 1例, 1例報告されている〔ヒト感染したIAV-Sは“variant（v）virus”と総称され, 亜型の後ろにvが追記される〕^15）。その他, 2022年9月以降に, A（H1N1）vウイルスのヒト感染が中国で2例, ブラジルで2例, オランダで1例, A（H1N2）vウイルスのヒト感染がオランダで1例, 台湾で2例確認されている（2023年10月16日時点）^2）。

日本では, 2009年以降にヒトからブタに再侵入したA（H1N1）pdm09ウイルスや, A（H1N1）pdm09ウイルスと遺伝子再集合したA（H1N2）ウイルスやA（H3N2）ウイルスなどが現在も流行している^16,17）。2019年にはA（H1N1）pdm09ウイルスのブタ-ヒト間の感染を疑う事例も確認され^18）, 引き続きIAV-Sを注視していく必要がある。

参考文献