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沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告(続報)

(速報掲載日 2022/2/18) (IASR Vol. 43 p70-72: 2022年3月号)
 
はじめに

 2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)へ最初の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規変異株B.1.1.529 系統SARS-CoV-2(オミクロン)感染例が報告された。以降、日本を含め世界各地から感染例が報告され、各地でオミクロン株の感染拡大がみられている1)

 沖縄県においては、2021年12月16日に在沖縄米軍基地キャンプ・ハンセンの従業員から初めてオミクロン株感染例が確認され2)、以降新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者数の急増、さらにL452R変異陰性割合の急峻な上昇が認められている3,4)

 沖縄県における初期のオミクロン株感染例50例についての記述疫学の結果を第一報として報告した4)。今般、続報として、オミクロン株感染例105例(第一報の解析症例数50例含む)およびその濃厚接触者に関する記述疫学の結果および知見を報告する。

対象と方法

 オミクロン株確定例(確定例)の症例定義は、2021年12月1日~2022年1月1日に沖縄県で確認されたSARS-CoV-2検査陽性例(COVID-19症例407例)のうち、1月3日までに変異株PCR検査によりL452R変異陰性かつゲノム解析によりオミクロン株が確定した症例(135例)とした。

 確定例135例のうち1月7日までに詳細な疫学情報が得られた105例、さらにその確定例の濃厚接触者で健康観察期間が14日間経過(1月15日時点)した305人のうち、経過観察中にSARS-CoV-2陽性が確認された93例に関して、県内の保健所が実施した積極的疫学調査結果(調査票)、県衛生環境研究所における検査結果、関係者からの聞き取りによる情報を収集し、記述疫学を行った。

結 果

 沖縄県内におけるCOVID-19症例687例と、詳細な疫学情報が得られた確定例105例の2021年12月1日~2022年1月1日までの発症日に基づいた流行曲線をに示す。確定例において、発熱、咽頭痛、頭痛、咳、全身倦怠感など、いずれか1つ以上の症状を最も早く発症したのは12月12日発症の症例であった。以降確定例の報告数が増え、COVID-19症例の急増が認められている。

 確定例の基本属性(性別、年齢、ワクチン接種歴)を表1に示す。性差はなく、幅広い年齢層で認められ、69人(71%)が2回ワクチン接種完了者であった。

 診断時または積極的疫学調査時点での有症状者は、98例(93%)であった。症状の内訳は、37.0℃以上の発熱92%、咳61%、全身倦怠感56%、咽頭痛46%、頭痛41%、鼻水・鼻閉31%、関節痛28%、呼吸困難5%、嗅覚・味覚障害3%であった(重複あり)。なお、この105例について、その後重症や死亡に至った例は、発症後の平均観察期間が21日経過した1月15日時点で確認されていない。

 推定感染機会は、会食(自宅や飲食店等)が28%、職場内が22%、家庭内が17%であった(表2)。

 行動歴や確定例との接触情報から、推定曝露機会が特定できた69例について、潜伏期間(有症状のみ)の中央値は3日[範囲1-5日](ただし同居内二次感染事例においては最も早く発症した人のみを含めた)であった。

 濃厚接触者における陽性例93例の基本属性を表1に示す。性差はみられず、確定例と比較し10歳未満の割合が増加し、63%が2回ワクチン接種完了者であった。

 推定感染機会は、会食(自宅や飲食店等)が46%、家庭内が42%であった(表2)。

 濃厚接触者における陽性例の割合Attack rate(AR)は、全体では30%(93/305人)であった。主な確定例との関係別では、別居家族(親族等)43%(16/37人)、同居家族35%(43/122人)、職場同僚31%(27/86人)、友人やパートナーは17%(5/30人)であった。

 行動歴や確定例との接触情報から、二次感染者の発端症例(有症状のみ)が明らかな24例(同居家庭内二次感染事例においては最も早く発症した人のみを含む。家族や親族関係で複数発生しており家庭内初発例が感染源ではない可能性、明らかな曝露イベントがある症例は除く。)の発症間隔(発端症例の発症から二次感染者の発症までの時間)の中央値は3日[範囲1-5日]であった。

 感染源となったと推定され、家庭内で最も発症日が早い症例39例の同居家庭内濃厚接触者のうち、健康観察期間に検査陽性となった人の割合(同居家族の二次感染割合:経過観察中に検査陽性となった人数÷健康観察期間14日経過した同居家庭内の全濃厚接触者数)は、32%(31/97人)であった。なお、対象となった初発症例39例の18%に当たる7例において同居家庭内濃厚接触者全員が感染しており(計13例)、さらにそのうち5例(71%)は2回ワクチン接種完了者であった。

考 察

 県内のオミクロン株確定例の潜伏期間は、第一報4)よりサンプルサイズを増やして解析した結果、3日[範囲1-5日]となり、これまで報告されているオミクロン株以外の株による潜伏期間5,6)よりも、県内におけるこの期間のオミクロン株の潜伏期間が短い状況は変わらず、既報4)と同様の結果となった。短い潜伏期間は、患者数と濃厚接触者数の増加、それに伴う宿泊施設や医療機関の急速な逼迫、保健所や医療機関の負荷の増大、欠勤率の増加に伴う社会機能維持に影響を及ぼしたと考えられた。

 推定感染機会として、確定例では職場内、家庭内、会食(自宅や飲食店等)がそれぞれ約20-30%であったが、職場内感染の大半は米軍基地関係者であった。濃厚接触者における陽性例では家庭内と会食(自宅や飲食店等)が合わせて88%と大部分を占めていた。確定例、濃厚接触者における陽性例ともに年末の職場同僚との忘年会や新年の家族・親類との会食などで感染している割合が高く、長時間のマスク未着用での会話や三密(密集・密接・密閉)など、感染リスクの高い環境はこれまでと同様と考えられ、ワクチン接種の有無を問わず、基本的な感染対策(マスクの着用、三密回避、換気等)の重要性が改めて示唆された。

 第一報同様、ワクチン接種完了者でも感染を認め、発症間隔の中央値3日[範囲1-5日]と、これまで報告されているオミクロン株以前の従来株、変異株よりも短く7)、さらに濃厚接触者における陽性例の高いAR(30%)が短期間での患者急増の一因と想定される。このため、保健所の積極的疫学調査を基にした封じ込めによる感染拡大阻止は困難な状況が予想される。特に、濃厚接触者における陽性例は、同居家庭内での感染が高率で確認されていることから、同居人の調査、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を有する者等を中心とした検査の実施や健康観察対応に注力する等、より流行状況に応じた調査の実施が重要になると考えられる。

注意事項

 本稿は、迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。

 謝辞:調査にご協力いただいた沖縄県内の自治体関係者、医療機関の皆様、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの皆様に深く感謝致します。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10900-sars-cov-2-b-1-1-530.html
  2. 厚生労働省, 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22894.html
  3. 沖縄県, 感染症関連情報 
    https://www.pref.okinawa.jp/site/chijiko/kohokoryu/kansenshou_kanrenjoho.html
  4. 沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学 調査報告 IASR速報(2022/1/11)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10885-504p01.html
  5. IASR 42: 131-132, 2021
  6. Lauer SA, et al., Ann Intern Med 172(9): 577-582, 2020
  7. WS Hart, et al., Generation time of the Alpha and Delta SARS-CoV-2 variants , 2021

沖縄県保健医療部
 平良勝也 大濱克行 原 和浩 渡慶次彩子 森近省吾 糸数 公
沖縄県新型コロナウイルス対策本部医療コーディネーター
 佐々木秀章 米盛輝武   
沖縄県各保健所 那覇市保健所
沖縄県衛生環境研究所 
 仁平 稔 髙良武俊 久場由真仁 柿田徹也 久手堅 剛 眞榮城徳之
 喜屋武向子 新垣あや子 宮城智恵子 具志堅菜央 山内美幸
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)
 塚田敬子 中下愛実            
同実地疫学研究センター      
 神谷 元 小林祐介 土橋酉紀 島田智恵 砂川富正  

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