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侵襲性髄膜炎菌感染症 2013年4月~2017年10月

(IASR Vol. 39 p1-2: 2018年1月号)

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)はグラム陰性の双球菌で, 健康なヒトの鼻咽頭からも低頻度ながら分離される。保菌者・患者から飛沫感染で伝播し, 侵襲性感染症としては, 菌血症(敗血症なし), 髄膜炎を伴わない敗血症, 髄膜炎, 髄膜脳炎の4つの病型がある。敗血症を発症すると予後が悪い。急性劇症型として副腎出血や全身のショック状態を呈するWaterhouse-Friderichsen症候群がある。非侵襲性感染症としては, 肺炎・尿道炎など多彩な病像がある。潜伏期間は2~10日(平均4日)で発症は突発的である。

髄膜炎菌に関連する届出疾患の変遷:髄膜炎菌に関連する疾患としては, 日本では戦前より伝染病予防法に基づく「流行性脳脊髄膜炎」の患者届出が行われ, 1945年前後には年間4,000例を超える患者が報告された。その後患者報告数は激減し, 1969年以降年間100例未満, 1978年以降は30例未満となった。1999年4月施行の感染症法において, 「髄膜炎菌性髄膜炎」が全数把握の4類感染症となり(2003年11月に5類感染症に変更), 1999年以降2013年3月まで, 毎年7~21例の報告があった(IASR 34: 361-362, 2013)。なお, 2011年5月に宮崎県の高校の学生寮で血清群Bによる集団発生の際, 髄膜炎の他, 敗血症など非髄膜炎症例が多発した(IASR 32: 298-299, 2011およびIASR 34: 367-368, 2013)。本事例をきっかけとして, 2012年4月, 学校保健安全法施行規則改正により, 髄膜炎菌性髄膜炎が新たに学校保健安全法の第2種感染症に規定された。

侵襲性髄膜炎菌感染症届出改正(2013年)と, その後の発生動向(2013年4月~):上記の状況を踏まえ, 2013年4月に, 髄膜炎菌による髄膜炎および敗血症は「侵襲性髄膜炎菌感染症」として, 全数把握の5類感染症に分類されることとなった(届出基準は)。

2013年4月~2017年10月までに160例が報告された(図1)。はっきりとした季節性は認めないが, 11月~3月における報告数がやや多い(図2)。なお, 2015年5月21日より, 届出方法が診断後「7日以内」から「直ちに」, へ変更となった。さらに2016年11月21日以降, 血液, 髄液以外に「その他無菌部位」から病原体が検出された症例も届出対象となった。

性別年齢分布図3):2013年4月~2017年10月までの報告例の男女比はほぼ3:2である。患者報告数は, 4歳までの乳幼児と15~19歳, 40~70代前半に多い。届出時死亡例の中で, 10~50代が全体の2/3を占める。侵襲性髄膜炎菌感染症としての2013年以降の届出時致命率は15.0%(24/160)である。

血清群別発生状況:髄膜炎菌は莢膜多糖体の糖鎖の違いにより12血清群に分類されており, 流行地におけるワクチンの選択に臨床分離株の血清群の情報は不可欠である。侵襲性感染のほとんどはA, B, C, Y, Wの5つの血清群によるものである。2013年4月~2017年10月までの「侵襲性髄膜炎菌感染症」160例中, 116(72.5%)の検体に対して血清群に関する情報が得られた(図4)。このうち, Y群が75例と最も多く, 次いでB群の15例, C群の13例, W群が5例となっている。このほかY群またはW群かを群別できなかったもの, 型別不能(莢膜多糖体非産生株)であったものがそれぞれ4例認められた(図4)。これまで国内ではB群が多いとされてきたが, 近年はY群が多い(本号3ページ)。

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では, MLST(multilocus sequence typing)法による精度の高い分子疫学的解析を実施し, 国際的なデータベースへの照合による国際的な疫学解析を実施している。2013年4月~2017年10月の間に77株が収集された。解析済の国内分離株の多くがST-23 complexやST-41/44 complex等既知の遺伝子型に属する一方, 型別不能の株も分離され, 従来とは異なった侵襲性髄膜炎菌感染症出現の兆候があり, 分子疫学的解析の必要性が示唆された (本号3ページ)。

治療とワクチン:治療にはペニシリンGまたはアンピシリン, 第三世代セフェム系抗菌薬を経静脈的に投与する。感染拡大防止策として, 侵襲性髄膜炎菌感染症の患者の発生時は迅速に保健所に報告し, 速やかに接触者調査を行い, 可能な限り早期の濃厚接触者への抗菌薬による曝露後の予防投与が推奨されている(IASR 34: 366-367, 2013)。曝露後予防投薬としては, これまで国内では, 検出される髄膜炎菌は基本的には多くの抗菌薬に対して感受性であることが知られ, シプロフロキサシン, リファンピシンもしくはセフトリアキソンが多く用いられてきたが, 国内からキノロン耐性株も検出されており(IASR 38: 83-84, 2017), 今後の抗菌薬の選択には注意が必要である。12種類ある血清群のうち, 4つの血清群(A/C/Y/W群) に対するワクチン(4価髄膜炎菌結合型ワクチン)が2014年7月に国内製造認可を受け, 2015年5月18日より販売開始され, 国内でも血清群によっては髄膜炎菌感染症予防, ならびに濃厚接触者に対してワクチンを用いて対応することが可能となった。国内で接種可能なワクチンはB群には効果がないため, 侵襲性髄膜炎菌感染症患者からの血清群調査情報は, 対策上の重要性が増している。

海外での発生状況とリスク因子:サハラ以南アフリカの「髄膜炎ベルト」ではA群が多かったが, ワクチンキャンペーン実施後は他の群も散見されている。ヨーロッパ諸国やアメリカ, オーストラリアではB, C, Y群がほとんどを占める(本号8ページ)。髄膜炎ベルトでは髄膜炎菌感染症の周期的な流行が継続する一方, 先進国では散発的患者発生や学生寮での集団発生事例が報告されている。国際保健規則(International Health Regulations: IHR)では, 「髄膜炎菌感染症は, その公衆衛生上の懸念は通常は地域限定的だが, 短期間で世界に伝播する可能性ある」ものとしてAnnex2にリストされている(http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241580410_eng.pdf)。

侵襲性髄膜炎菌感染症のリスク因子は, イスラム教の聖地巡礼(Hajj)や参加者の多い国際的な大会など多くの人が集うイベント, 学生寮など共同生活を行っている場などとされている(本号4ページ)。これまでに国内で届け出られた患者には海外渡航歴がないことも多く(本号7ページ), 国内でも感染が発生する疾患であるとの認識が必要である。患者発生時には, 速やかな発生報告と疫学調査の実施が, 感染予防措置のために必要である(本号5ページ)。

海外の流行株の流入経路や, 潜在的な国内での菌の伝播を把握し, 対策を立案するうえで菌株解析が重要であり, このために, 臨床現場や自治体との連携, 地方衛生研究所・感染研のネットワークの強化が必要である。

 

お知らせ:2018年1月号から, 英文特集ページについては, ウェブ版への掲載のみに変更いたします。

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