国立感染症研究所

腸管凝集付着性大腸菌O126:H27による有症苦情事例―浜松市
(Vol. 33 p. 7-8: 2012年1月号)
腸管凝集付着性大腸菌(EAggEC)は、下痢原性大腸菌のうち最も新しく分類されたカテゴリーであり、「既知の毒素を産生せず、培養細胞に凝集付着性を示す」大腸菌と定義される。多くは耐熱性腸管毒素(EAST1)を産生する。今回、浜松市内の飲食店で食事をした患者から、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生性EAggEC O126:H27が分離されたので、その概要を報告する。

2011年4月21日19時頃、浜松市内の飲食店において宴会料理を喫食した23人中19人が、当日19時30分~4月24日17時にかけて水様性下痢、腹痛、嘔吐などの症状を呈し、うち2人が受診した。病院での検査の結果、受診した患者2人からEscherichia coli O126が分離されたとの報告があった。なお、当日この飲食店で食事をしたのはこのグループのみであり、他に苦情等の届出はなかった。

当研究所には、患者便3検体、病院から搬入されたE. coli O126菌株2検体、飲食店従事者便3検体、食品1検体、ふきとり検体10検体、計19検体が搬入され、患者菌株を除く17検体を常法に従い食中毒菌全般について検査した。分離された大腸菌を疑う菌株および患者菌株は、病原性大腸菌免疫血清により血清型を決定し、さらに病原性関連遺伝子(invE 、STp、STh、LT、VT1、VT2、astA )、および細胞付着関連遺伝子(eae aggR )をPCR法にて検査した。PCR法によりEAggECと判定された株については、Clump形成試験およびHEp-2細胞付着試験を実施し、病原性の確認を行った。

ESBL産生性確認試験は国際臨床標準化委員会(CLSI)に準拠した方法で実施した。薬剤感受性試験用ディスクは、セフポドキシム(CPX)、セフォタキシム(CTX)およびセフタジジム(CAZ)、およびそれぞれにクラブラン酸10μgを添加したCPXC、CTXCおよびCAZCの6種類を用いた。また、それぞれの薬剤についてEtestを用いてMIC値を測定した。ディスク法でESBL産生菌と判定された菌株は、PCR法でESBL産生遺伝子の検出を行い、検出された遺伝子はダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、BLAST検索により遺伝子型を調べた。

また、分離された菌株は、制限酵素Xba I を用いてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施し、遺伝子解析を行った。

その結果、患者便3検体、患者菌株2検体および従事者便1検体よりE. coli O126:H27が分離され、患者便1検体から黄色ブドウ球菌が検出されたほかは、既知の食中毒菌は分離されなかった。分離されたE. coli O126:H27 6株は、PCR法によりaggR 遺伝子およびastA 遺伝子が検出され、いずれもClump形成試験陽性で、HEp-2細胞に対し凝集性(AA)付着を示した。一方、ESBL産生性確認試験では、ディスク法によりすべてがESBL産生菌であると判定され、すべての株がbla TEM-1bla CTX-M-14aを保有していた。また、各薬剤に対するMIC値は、CPXはすべての株で256μg/ml以上、CTXは24~64μg/ml、CAZは 1.5~2μg/mlであった。PFGEによる遺伝子解析では、制限酵素Xba I による切断パターンは5株が一致し、残り1株もバンド1本の違いであったため、この6株は同一由来であると推定された()。

しかしながら、患者の発症時間が喫食後30分~70時間と多峰性を示し、施設のふきとりおよび食品から菌が検出されなかったことから、当該飲食店を原因施設とは断定できなかった。

今回の事例では、受診後の患者の症状回復が比較的長時間を要していたことから、EAggEC O126:H27の薬剤耐性化を疑い、ESBL産生性についても検査した。その結果、分離菌のすべてがbla TEM-1blaCTX-M-14a遺伝子を保有したESBL産生菌であることがわかり、Etestを用いたMIC値の測定では、CPXおよびCTXに耐性であることが判明した。このことから、本菌による下痢症状の治療に際し、薬剤の選択によっては効果が弱くなることが予想された。ESBL産生遺伝子はプラスミドに存在し、菌の分裂・接合により菌間を移行することが知られている。また、2011年5月にドイツを中心としたヨーロッパ各国において大流行したEHEC O104:H4は、その後の調査で、元来EAggECであった菌がVT遺伝子を獲得したと推定されている。さらに、このEHEC O104:H4は、今回のEAggEC O126:H27と同様にESBL産生遺伝子であるbla TEM-1bla CTX-M-15遺伝子を保有していた。近年薬剤耐性遺伝子や毒素産生遺伝子の拡散が問題視されており、これからの検出動向を注視していく必要があると思われた。

浜松市保健環境研究所
土屋祐司 秦 なな 加藤和子 紅野芳典 小粥敏弘 小杉国宏
浜松市保健所浜北支所 林 浩孝
国立感染症研究所感染症情報センター 伊藤健一郎

 



 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version