(IASR Vol. 35 p. 294- 295: 2014年12月号)
2014年5月に、兵庫県内の高校で牛の飼育に携わる生徒3名が下痢、血便等の症状を呈し、無症状保菌者を含む4名および飼育する子牛1頭からVero毒素(VT)2陽性の腸管出血性大腸菌(EHEC)O121:H19を検出した。牛との接触が感染経路と推定されたこの事例の概要を述べるとともに、検出された病原体の検査結果について報告する。
発生の概要
2014年5月2日、牛の飼育に携わっている生徒3名が下痢、血便、体調不良を訴え、うち1名が入院しているとの情報を学校医から探知し、調査を開始した。当該学校は肉牛を飼育しており、その飼育に携わる生徒6名、教職員2名のうち、生徒3名に下痢、血便などの症状があり、2名が入院(1名入院中、1名軽快退院)、1名が外来受診していたことがわかった。また、子牛1頭が下痢、血便の症状のため4月29日に獣医師の診察を受け、コクシジウム病と診断され、抗生物質クロルテトラサイクリン・抗菌剤スルファジメトキシンの投与を受けていた。
有症者3名のうち医療機関で検査を行ったのは1名のみで、5月3日にEHEC O121が検出され、EHEC感染症の患者発生届が提出された。これを受けて、牛の飼育に携わる残りの生徒5名、教職員2名、およびO121が検出された生徒家族2名への検便検査を実施し、生徒3名から新たにO121を検出した。また、「牛-ヒト感染」を疑い、下痢、血便の症状のあった子牛の直腸内容物を5月9日に採取して検査した結果、子牛からもO121を検出した。
検出されたEHEC O121菌株の解析
生徒4名および子牛1頭から検出されたO121の菌株について、血清型・毒素型の精査およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を実施した。O121は既報1)と同様に乳糖遅分解性の性質を呈し、分離培地(マッコンキー寒天培地)上で、乳糖非分解の半透明コロニーと乳糖分解の赤色コロニーが混在しているように確認された。そこで、両方のコロニーが分取できた場合は、両者について検査を実施した。その結果、すべて血清型はO121:H19と同定され、VT2の毒素遺伝子がPCR法で確認できた。また、図に示したPFGEパターンでは、11コロニー中7コロニーが一致、4コロニーが1~2バンド違いの類似パターンとなり、すべてが同一由来株であると推定された。
感染原因と今後の対策
生徒および牛から検出されたO121の菌株が同一由来と推定されたことから、牛からの接触感染が強く示唆された。牛の飼育に携わる生徒は、時折、牛舎内で飲食をすることがあった。牛舎内での作業後、石鹸を使って手洗いはしたが不十分な面があり、手指消毒薬は使用していなかった。
生徒および教職員への感染防止を徹底するため、牛と接触した後の手洗い励行、下痢・血便等の症状がある牛と接触する時や汚物処理など危険な作業を行う時は、手袋、マスクを着用することなどを学校に指導した。
まとめ
今回の事例では、生徒および牛から検出されたEHEC O121のPFGEパターンがほぼ一致したことから、牛から人への感染であることが推定された。
牛等動物から人への感染が特定または疑われた症例は1996年以降12例報告され、直近では2012年2月に発生している2)。牛は人のEHEC感染症の感染源として重要であることから、牛と接触する者の感染防止の徹底および飼養者が牛の健康管理に気をつけることが感染予防に必要であると考える。