国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.5(No.423)

腸管出血性大腸菌感染症 2015年4月現在

(IASR Vol. 36 p. 73-74: 2015年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、Vero毒素(Vero toxin : VT または Shiga toxin: Stx)を産生またはVT遺伝子を保有するEHECの感染によって起こる全身性疾病で、主訴は腹痛、水様性下痢および血便である。嘔吐や38℃台の高熱を伴うこともある。VT等の作用により血小板減少、溶血性貧血、急性腎不全をきたし、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、小児や高齢者では脳症などを併発して死に至ることがある。

EHEC感染症を診断した医師は感染症法に基づき3類感染症として保健所に全数届出を行い(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)、保健所はその情報を感染症サーベイランスシステム(NESID)に報告する。それらのうち、医師が食中毒として保健所に届け出た場合や、保健所長が食中毒と認めた場合は、食品衛生法に基づき、各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚生労働省(厚労省)へ報告する(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO233.html)。地方衛生研究所(地衛研)はEHECの検出、血清型別、毒素型(産生性が確認されたVT型またはVT遺伝子型)別等を行い、その結果をNESIDに報告する(本号3ページ)。国立感染症研究所(感染研)・細菌第一部は必要に応じて地衛研から送付された菌株の血清型、毒素型の確認を行うと同時に、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法や反復配列多型解析(MLVA)法による分子疫学的解析を行っている(本号11ページ)。これらの解析結果は各地衛研へ還元されるとともに、食中毒調査支援システム(NESFD)で各自治体等へ情報提供されている。

感染症発生動向調査: NESIDの集計によると、2014年にはEHEC感染症患者(有症者)2,839例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される) 1,314例、計4,153例が報告された(表1)。大規模な食中毒事例が発生し、2014年の総報告数は2009年以降で最多となった。2014年も例年同様に夏期に報告が多かった(図1)。都道府県別報告数(無症状を含む)は静岡県、東京都、神奈川県、埼玉県、北海道、大阪府の上位6都道府県で全体の41%を占めた。人口10万対では大規模食中毒事例(本号8ページ)のあった静岡県(10.26)が最も多く、長崎県(10.24)、岩手県(10.19)がそれに次いだ(図2)。0~4歳の人口10万対報告数では、保育所等で集団発生がみられた長崎県、岩手県、熊本県が多かった(図2)。例年同様有症者の割合は男女とも30歳未満、60歳以上で高かった(図3)。

HUSを合併した症例は102例(有症者の3.6%)で、そのうち70例からEHECが分離された(本号12ページ)。O血清群の内訳はO157が56例、O26とO121が各3例、O111とO165が各2例、O115が1例、O不明(型別不能あるいは情報なし)が3例で、毒素型はVT2 陽性株(VT2単独またはVT1&VT2)が61例、VT1単独陽性株が5例、VT型不明が4例であった。死亡例は2例であった。有症者のうちHUS発症例の割合が最も高かったのは5歳未満の低年齢群で7.2%であった。

地衛研からのEHEC検出報告:地衛研から報告された2014年のEHECの菌検出数は2,289であった。この検出数はEHEC感染者報告数(表1)より少ないが、医療機関や民間検査機関で検出された株の一部が地衛研に届いていないためである。全検出数における上位のO血清群の割合は、O157が59%、O26 が22%、O145とO103が4.1%であった(本号3ページ)。毒素型でみると、2014年も例年同様O157ではVT1&VT2 が最も多く、O157の76%を占めた。O26、O145、O103 ではVT1 単独が最も多く、それぞれのO血清群で97%、67%、100%を占めた。O157が検出された1,355例中、不詳を除く1,244例の主な症状は腹痛62%、下痢62%、血便47%、発熱22%であった。 

集団発生:2014年に地衛研からNESIDに報告されたEHEC感染症集団発生のうち、主な菌陽性者10人以上の事例およびその他の主な食中毒事例を表2に示す。15事例は保育所における人から人への感染によるものと推定された(本号9ページ)。

一方、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2014年のEHEC食中毒は25事例、患者数766名(菌陰性例を含む)であった(2011年は25事例714名、2012年は16事例392名、2013年は13事例105名)(本号4ページ)。2014年に発生した主な食中毒事例は以下のものがある: 3月末~4月に馬刺しが原因となったO157による広域集団食中毒事例が福島県を中心とした11都県で発生(本号4ページ); 5~6月に飲食チェーン店での加工食肉が原因となったO26による広域散発食中毒事例が3県で発生(本号7ページ); 7月に千葉県で飲食店での食事が原因となったO157による食中毒事例が発生(本号5ページ); 8月に静岡県で花火大会の露店で提供された冷やしキュウリが原因となったO157による患者数510名の食中毒事例が発生(本号8ページ)。これら以外にも感染研・細菌第一部での解析から、疫学的関連が不明な散発事例間で同一のPFGE型またはMLVA型を示す菌株が広域で分離されており、地理的には散発的に発生しているが、実際には集団発生が疑われる事例がいくつか判明している(本号11ページ)。

予防と対策:牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した(2011年10月、告示第321号)。さらに、牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月、告示第404号)(IASR 34: 123-124, 2013)。これらの措置後、牛の生肉・生レバーの喫食が原因と推定されるO157感染事例の報告数は減少している(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000041452.pdf)。しかし、全体のEHEC感染者数は減少しておらず、EHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本を守ることが重要であり、特に生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続ける必要がある(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html)。2014年には飲食店等を原因とする食中毒事例が複数発生していることから、今後も食品および調理従事者の適切な衛生管理を徹底する必要がある。また、EHECは少量の菌数(100個程度)でも感染が成立するため、人から人への経路、または人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすい。2014年も2013年同様保育所での集団発生が多数発生しており(表2&本号9ページ)、その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(2012年改訂版・保育所における感染症対策ガイドライン, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02_1.pdf)。 患者が出た場合には、家族内や福祉施設内等での二次感染を防ぐため、保健所等は、感染予防の指導を徹底する必要がある。

 

 

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