国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.34 No.5(No.399)

腸管出血性大腸菌感染症 2013年4月現在

(IASR Vol. 34 p. 123-124: 2013年5月号)

 

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、感染症法および食品衛生法のそれぞれに基づいた2通りの報告がなされている。感染症法では3類感染症として、診断した医師の全数届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。また、医師から食中毒として保健所に届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には食品衛生法に基づき、各都道府県等において調査および厚生労働省への報告が行われる。さらに、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所感染症疫学センター(IDSC)に報告している。国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行いパルスネットで情報提供している(本号17ページ)。 

感染症発生動向調査:2012年にはEHEC感染症患者2,362例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される) 1,406例、計 3,768例のEHEC感染者が報告された(表1)。2012年の報告数は、例年同様夏季にピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別報告数は佐賀(9.21)が最も多く、岡山(8.71)、岩手(8.14)がそれに次いだ(図2左)。2012年の感染者は例年同様0~4歳が最も多く、5~9歳がこれに次いだ(図3)。0~4歳について人口10万対報告数を都道府県別にみると、岡山、鹿児島、宮崎が多かった(図2右)。例年同様有症者の割合は男女とも若年層と高齢者で高く、30代、40代、50代では低かった(図3)。

また、溶血性尿毒症症候群(HUS)症例は94例あり(抗体検出例を含む)、有症者のうちで 4.0%であった(本号18ページ)。HUS 症例70例から菌が分離され(血清群はO157が58例、O111が4例、O26が2例、O145が2例、O25、O165、O174、O183が各1例)、VT2 陽性株(VT2単独またはVT1&2)は、菌分離70例中、66例(94%)であった。届出時およびその後に情報が得られた死亡例は15例(うちHUS 発症3例、脳症2例)あった。

地研からのEHEC検出報告:2012年のEHEC検出数は1,957であった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現行システムでは医療機関や民間検査機関で検出された株が地研に一部しか届かないことによる。全検出数における上位3位のO血清群の割合は、O157が53%、O26 が27%、O103が 5.2%であった(本号3ページ)。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2012年も例年同様O157ではVT1&2 が68%を占めた(1997~2011年は53~78%)。O26 ではVT1 単独が94%で、O103ではVT1 単独が97%であった。O157が検出された1,040例中、不詳を除く 973例の主な症状は腹痛64%、下痢62%、血便46%、発熱21%であった(本号3ページ)。 

集団発生:2012年に地研からIDSCに報告されたEHEC感染症集団発生は23事例あり、うち6事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の16事例を表2に示す。5事例では伝播経路が食品媒介と推定され、10事例では人→人感染と推定された。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2012年のEHEC食中毒は17事例、患者数398名(菌陰性例を含む)であった(2011年は25事例714名)(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html)。

2012年には、野菜の浅漬を原因食品とするEHEC O157集団食中毒事例が発生した(本号5ページ)。本事例は、札幌市等における、主に高齢者施設での発生であったが、原因食品がスーパーやホテル、飲食店にも流通していたため、169名の患者が発生し8名が死亡した。

予防と対策:EHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本を守り、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないことが重要である(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html)。牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚生労働省では生食用食肉の規格基準を見直し、2011年10月より告示第321号が施行されている(http://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/2r9852000001bbdz.html)。また、牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから、2012年7月より告示第404号を施行し、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した。生食用食肉の規格基準改正と生食用牛生レバーの提供禁止により、生肉・生レバーの喫食が原因と推定されるO157感染事例の報告数は2011年以降に減少した(本号7ページ)。

厚生労働省はさらに、漬物によるO157の集団発生を受けて、漬物の衛生規範を改正した(食安監発1012第1号、平成24年10月12日)(本号6ページ)。

EHECは赤痢菌同様、微量の菌でも感染が成立するため、人→人の経路で感染が拡大しやすい。2012年も保育所での集団発生が複数発生しており(表2)、その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02_1.pdf)。さらに、家族内感染を低減させるため、保健所等は、患者の家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

2013年速報:本年第1~15週までのEHEC感染者届出数は188例である(表1)。夏季にはEHEC感染症の増加が予想されるので、今後一層の注意が必要である。

 

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