注目すべき感染症 ◆ 保育所における腸管出血性大腸菌感染症集団発生事例の増加
2013年の感染症発生動向調査において、腸管出血性大腸菌感染症の保育所における集団発生*の増加が観察されている。第32週(8月5~11日)時点で、北海道、静岡県、埼玉県、福岡県、熊本県の5つの道県において、保育所に関連した集団事例が新たに発生、またはその報告が継続していた。また、8月13日には千葉県海匝保健所管内幼稚園でのO157 VT2事例(患者および患者家族計5名、うち2名が溶血性尿毒症症候群:HUS)が公表された1)。過去の保育所に関連した菌陽性者10名以上の集団発生事例は、2010年7例2)、2011年4例3)、2012年9例4)(病原体検出情報:IASR参照)であったが、我々の感染症発生動向調査に基づく検索によると、今年の発生事例数は第31週時点で過去3年の各年間発生事例数を上回っていた。厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課は8月21日付で通知を発出し、全国各自治体の児童福祉主管課保育担当者に対し、流行状況と感染経路に関する情報提供、感染拡大防止策の周知徹底を図った5)。翌日には、厚生労働省健康局結核感染症課および医薬食品局食品安全部監視安全課は全国治体の衛生主管部(局)に対し、このような集団発生事例の増加を周知するとともに、腸管出血性大腸菌感染症の発生動向に十分留意し、集団発生事例の厚生労働省への報告や感染症発生動向調査システム(NESID)への記載を徹底する旨の通知を発出するに至った6, 7)。
その後も保育所における集団発生事例は続き、第49週現在、保育所に関連した10名以上の集団発生は23例に上っている**(図1)。その発生時期は、全国の全ての腸管出血性大腸菌感染症報告数の週別推移と同様の傾向を示した(図2)。なお、得られた情報の範囲内では、1例についてはプールでの感染が示唆された。
原因菌の血清群としては、O26が検出された事例が23例中13例(56.5%)と最多で、O157、O103、O111と続いた(図3)(重複あり)。O26が約半数を占める傾向は、過去数年にわたって続いている。
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図1. 腸管出血性大腸菌感染症の累積報告数、保育所における集団発生事例数の年別推移(2010~2013年第49週) |
図2. 腸管出血性大腸菌感染症の報告数と保育所における集団発生事例数の週別推移(2013年第1~49週) |
図3. 腸管出血性大腸菌感染症の保育所における集団発生事例数・菌株の血清型・毒素型割合(2013年第1~49週) |
また、集団発生の規模を報告数で層別化すると、1事例あたり10~19名が14例と最も多く、20~29名が5例、30~39名が2例と続き、80~89名と突出して多い事例が1例あった(図4)。この事例については、初発患者の発生(6月26日)から1カ月以上を経過した時点でも患者発生が継続していた。
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図4. 腸管出血性大腸菌感染症の保育所における集団発生事例あたりの報告数(2013年第1~49週) |
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腸管出血性大腸菌感染症は、HUSなどを合併し、小児の生命を脅かす全身感染症である。平成25年は保育所における集団発生事例の発生数が近年で最も多く推移したと考えられ、流行が速やかに終息しない事例もみられた。保育所においては、経口感染ではなく園児同士の接触感染により感染拡大する傾向がある8)。したがって、保育所は接触感染対策を念頭に園児の健康状態を一層注意深く把握する必要がある。保健所は、保育所に対し日頃から接触感染対策などに関する情報提供を行う一方、集団発生時には保育所と連携して調査・感染拡大防止を迅速に進めることが重要である。
* 保育所における腸管出血性大腸菌感染症集団発生の定義: 感染症発生動向調査において、同一保育所に通う園児、その家族(同一姓、同一住所)、および職業などから当該保育所の関係者と考えられる症例が10名以上届出られていた場合に集団発生とした。
** 保育所における集団発生事例数の過去数年間の比較について: 2013年の集団発生事例数はNESIDの情報、自治体への問合せ、自治体の記者発表に基づくものである。一方、2010~2012年の集団発生事例数は、地方衛生研究所からの「集団発生病原体票」および「病原体個票」速報(病原微生物検出情報)とIASR記事によるものである。今回、少なくとも2012年に関してはNESID情報に基づいた検索で9例を検出し、病原体に基づいた検索数と同数であることを確認した。
1)https://www.pref.chiba.lg.jp/shippei/press/2012/o157-20130813.html 2)https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/375/graph/t3752j.gif 3)http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/33/387/graph/t3872j.gif 4)http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/34/399/graph/t3992j.gif 5)「保育所等における腸管出血性大腸菌感染症集団発生事例の増加に伴う対応等について」(平成25年8月21日付 厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課 通知) 6)「最近の腸管出血性大腸菌感染症事例の特徴について(情報提供)」(平成25年8月21日国立感染症研究所感染症疫学センター) 7)「腸管出血性大腸菌感染症による集団発生事例について」(平成25年8月22日厚生労働省健康局結核感染症課・厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 通知) 8)「2012年改訂版保育所における感染症対策ガイドライン」(平成24年11月厚生労働省)
国立感染症研究所感染症疫学センター 金山敦宏 齊藤剛仁 八幡裕一郎 中島一敏 高橋琢理 加納和彦 砂川富正 大石和徳
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