国立感染症研究所

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インフルエンザ 2021/22シーズン

(IASR Vol. 43 p243-245: 2022年11月号)
 

 2021/22シーズン(2021年第36週~2022年第35週)のインフルエンザは, 例年の流行期(第45週~翌年第19週頃)に患者報告数の増加を認めず, また他の複数の指標も低いレベルで推移したことから, 前シーズン同様, 明らかな流行はなかったと考えられた。しかし2022年第27週頃から過去2シーズンを上回る患者報告数が継続し, 再流行が懸念される。

 2021/22シーズン患者発生状況(2022年10月5日現在): 感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)から毎週, インフルエンザ患者数が報告される。2021/22シーズンの各週の定点当たりの報告数は, 2022年第29週の184人(定点当たり0.038人/週)が最大で, 前シーズンに続き, 定点当たり報告数が全国的な流行開始の指標である1.00を超えた週はなかった(図1)。なお, 2022年第27週頃から前シーズンを上回る報告数が継続している。

 定点報告を基に, 全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数の推計では, 累積推計受診者数約0.3万人(2021年第36週~2022年第17週)と, 前々シーズン同期間患者推計数(約728.9万人)から顕著に減少した前シーズン同期間患者推計数(1.4万人)をさらに下回った。

 基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスによる入院患者総数は44人で, 例年から大きく減少した前シーズン(278人)よりさらに少なかった。

 全数把握5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)にインフルエンザ脳症として届け出られたのは1例で, 昨シーズン(0例)に続き例年より大幅に減少した。

 これらから, 2021/22シーズンも前シーズンに続きインフルエンザの流行はなかったと考えられた。

 2021/22シーズンウイルス分離・検出状況(2022年10月17日現在): 全国の地方衛生研究所が分離・検出し, インフルエンザ病原体サーベイランスに報告したインフルエンザウイルス数は45(表1), うちインフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は17, 定点以外の検体からの分離・検出数は28であった(表2)。型・亜型別ではA/H1pdm09亜型が3株, A/H3亜型が42株で, B型山形系統, Victoria系統, C型の報告はなかった(表2)。例年の流行期における分離報告(検出を含まず)はA/H3亜型4株であったが, 2022年第25週以降にA/H3亜型17株が報告されている(図1&図2)。

 2021/22シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析: 国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析, およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号5ページ)。A/H1pdm09亜型ウイルスのヘマグルチニン(HA)遺伝子系統樹解析の結果, 6B.1A.5a.1あるいは6B.1A.5a.2に属した。抗原性解析では, 6B.1A.5a.2に属する株は2021/22シーズン世界保健機関(WHO)推奨ワクチン株A/Victoria/2570/2019(6B.1A.5a.2)の卵分離株に対するフェレット感染血清とよく反応したが, 6B.1A.5a.1に属するウイルスの反応性はよくなかった。ワクチン接種後のヒト血清を用いた解析では, 6B.1A.5a.2に属するウイルスとの反応性はよく, 6B.1A.5a.1に属するウイルスに対しても概して反応性はよかった。A/H3亜型ウイルスのHA遺伝子系統樹解析の結果, 解析した株はすべて3C.2a1b.2a.2に属した。抗原性解析の結果, 解析したすべての株は3C.2a1b.2a.2に属するウイルスに対するフェレット感染血清とよく反応した。WHO推奨ワクチン株のA/Cambodia/e0826360/2020 (3C.2a1b.2a.1)を接種したヒト血清との反応性はよくなかった。B/Victoria系統ウイルスのHA遺伝子解析では, 多くのウイルスは1A.3a.2に属した。抗原性解析では試験したすべての株が, WHO推奨ワクチン株のB/Washington/02/2019 (1A.3)に対するフェレット感染血清との反応性はよくなく, 1A.3a.2に属するウイルスに対するフェレット感染血清とはよく反応した。ワクチン接種後のヒト血清については, 1A.3a.1および1A.3a.2に属するウイルスとの反応性は, ともに低い傾向にあった。B/山形系統は解析された株がなかった。

 2021/22シーズン分離ウイルスの薬剤耐性(本号5ページ): 日本ではノイラミニダーゼ(NA)阻害剤4種(オセルタミビル, ザナミビル, ぺラミビル, ラニナミビル), キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤(バロキサビル), M2阻害剤(アマンタジン)が抗インフルエンザウイルス薬として使用されている。2021/22シーズンに国内で分離されたA/H1pdm09亜型ウイルス1株は, NA阻害剤, バロキサビルに対する耐性株ではなかったが, アマンタジン耐性であった。国内外で分離されたA/H3亜型ウイルス23株は, NA阻害剤, バロキサビルに対する耐性株ではなかったが, アマンタジン耐性であった。海外で分離されたB型ウイルス5株からは, NA阻害剤およびバロキサビルに対する耐性株は検出されなかった。

 2021/22シーズン前の抗体保有状況: 予防接種法に基づく感染症流行予測調査事業により, 2021年7~9月に採取された血清(3,448名)を用いて, 2021/22シーズンの国内のインフルエンザウイルスワクチン株に対する年齢群別の抗体保有率(HI価≧1:40)を調査した(本号10ページ)。A/H1pdm09亜型ワクチン株, A/Victoria/1/2020(IVR-217)に対する抗体保有率は10~14歳群で38%と最も高く, 30~59歳の年齢群は10-18%であった。A/H3N2亜型のA/Tasmania/503/2020(IVR-221)に対しては20~24歳群(54%)が最も高く, 他は41%以下であった。B/山形系統のB/Phuket/3073/2013に対しては20~39歳の各年齢群で60%以上であったが, 70歳以上は18%以下であった。B/Victoria系統のB/Victoria/705/2018(BVR-11)に対しては, 40~54歳の各年齢群で40%以上と他年齢群より高かった。

 インフルエンザワクチン: 2021/22シーズンはA型2亜型とB型2系統による4価ワクチンとして約2,867万本(1mL/本として, 1回接種当たり0.5mL, 以下同様)が製造され, 約2,597万本(推計値)が使用された。2022/23シーズンワクチン製造株は, A/H1pdm09亜型:A/Victoria/1/2020(IVR-217), A/H3亜型: A/Darwin/9/2021(SAN-010), B/山形系統: B/Phuket/3073/2013, B/Victoria系統: B/Austria/1359417/2021(BVR-26)が選定された(https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrd/11145-507s03.html)。世界的にインフルエンザの流行がみられている中(本号13ページ), 国内での流行が懸念され, 来シーズンは残存する記録上, 過去最多となる3,521万本のワクチン製造が見込まれている。

 鳥・ブタインフルエンザウイルスの流行状況およびヒト感染例: A(H5N1)ウイルスのヒト感染例は2003年以降, 主にアジア, アフリカから報告されてきたが, 2022年1月に英国, 4月に米国から, それぞれ初のヒト感染例が1例ずつ報告され, 通算865例(456例死亡)となった。A(H5N6)ウイルスのヒト感染例は2013年以降, 81例が主に中国で確認され, うち36例は2021年9月以降に発生した。A(H7N9)ウイルスのヒト感染例は2013年以降, 1,568例(616例死亡)が確認されたが, 2019年3月の例を最後に報告はない。A(H9N2)ウイルスのヒト感染例は2021年9月以降, 21例が中国で確認されている。A(H3N8)ウイルスのヒト感染例が2022年4, 5月に1例ずつ報告されたが, ヒト-ヒト感染は確認されていない。

 ブタには哺乳類由来だけでなく鳥類由来のインフルエンザウイルスも感染するため, ブタの体内でウイルス遺伝子再集合が起こり, 新たなウイルスが出現することがある。2021年8月以降, A(H1N1)v, A(H1N2)v, A(H3N2)v, A/H1v(NA型不明)等のヒト感染が北米, 中国, 欧州等で確認された。日本では2009年以降, A(H1N1)pdm09ウイルスと遺伝子再集合をしたA(H1N2)ウイルスや A(H3N2)ウイルスがブタから検出されており, 注視していく必要がある。(本号15ページ)。また, A(H5N1)高病原性鳥インフルエンザウイルスが野鳥, 野生動物から検出されたことから, ウイルスの疫学の変化にも注意が必要である(本号17ページ)。

 おわりに: 2021/22シーズンのインフルエンザは, 前シーズンと同様, 流行はなかったと考えられた。一方, 2022年第27週頃から, 過去2シーズンを上回る報告数が継続し, 今後の流行が危惧される。その場合, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との同時流行も考えられ, 医療の逼迫も懸念される。インフルエンザの流行に備えてハイリスクグループへのワクチン接種等の公衆衛生上の対策の実施とともに, 患者サーベイランス等による流行の把握, 病原体サーベイランスに基づく流行株の遺伝子解析, 抗原性解析, 薬剤耐性調査等による流行ウイルスの監視, ならびに国民の抗体保有状況の調査等を含む, 包括的なインフルエンザの監視体制の強化が求められる。

 

 注)IASRのインフルエンザウイルス型, 亜型, 株名の記載方法は, 赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と, さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものである。

 ・N型別まで実施されている場合:A(H1N1)pdm09, A(H3N2), A(H5N1)など

 ・N型別未実施のものが含まれる場合:A/H1pdm09, A/H3など

 ・株名については, 主に国内の地名は漢字, 国外は英語表記(例:B/山形系統, B/Victoria系統など)

 ・ヒトに感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために, variant virusesと総称し, 亜型の後に “v” を表記: A(H3N2)vなど

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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