国立感染症研究所

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インフルエンザ 2018/19シーズン

(IASR Vol. 40 p177-179:2019年11月号)

2018/19シーズン(2018年第36週/9月~2019年第35週/8月)の国内のインフルエンザウイルスの流行はA/H1pdm09に始まり, A/H3へと推移したが, B型ウイルスもVictoria系統を中心に2019年第10週頃から増加した。

2018/19シーズン患者発生状況:感染症発生動向調査では, 全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000, 内科約2,000)からインフルエンザ患者数が毎週報告される。2018年第49週に定点当たり報告数が全国レベルの流行開始の通常の指標である1.0人/週を超え(図1 & https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html), 2019年第2週には全都道府県で注意報レベルである10.0人/週を超えた。報告のピークは2019年第4週(57.09人)で, この定点当たり報告数は, 1999年4月の感染症法施行開始以降最高値であった。

定点報告を基に全国医療機関を受診したインフルエンザ患者数を推計すると, 累積推計受診者数約1,200万人であった(2018年第36週~2019年第17週)。なお, 2018/19シーズンからは受診者数の推計方法が改良され, 従来の推計値のおおよそ0.66倍になると考えられている。基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスにおける入院患者総数は20,389人(2018年第36週~2019年第17週)であった。全数把握5類感染症である急性脳炎(脳症を含む)の届出のうち, インフルエンザ脳症報告数は223人であった(2018年第36週~2019年第17週)。また, 2018/19シーズンは, 全国的には例年と同程度と推定される約3,400人の超過死亡が観察された(本号16ページ)。

2018/19シーズンウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所が分離・検出したインフルエンザウイルス報告総数は8,382(分離6,105, 検出のみ2,277)であった(表1)。うち, インフルエンザ定点で採取された検体からの分離・検出数は7,704, 同定点以外の検体からの分離・検出数は678であった(表2)。型・亜型別ではA/H3が56%, A/H1pdm09が36%, B型が8% (山形系統7%, Victoria系統91%, 系統不明2%), であった(表2)。分離されたA/H1pdm09は2018年第48週から増加したが, 2019年第2週からはA/H3の報告数が上回った。B型の分離・検出数は2019年第10週から増加し, 第17週以降A型を上回った(図1 & 図2)。2019年初夏にかけて, 沖縄県では例年より多くのA/H1pdm09, A/H3の増加がみられた(図2, 本号10ページ)。海外においても, A型を主体とする流行がみられ, B型の流行は小さかった。

2018/19シーズン分離ウイルスの遺伝子および抗原性解析:国立感染症研究所で国内・アジア地域分離株の遺伝子解析およびフェレット感染血清を用いた抗原性解析を行った(本号4ページ)。A/H1pdm09は, 全解析株がヘマグルチニン(HA)遺伝子系統樹上6B.1A群に属し, さらにHAの183番目のアミノ酸に変異をもつ株が多かった。抗原性解析ではワクチン接種を受けたヒトの血清との反応性は低下している傾向がみられた。A/H3はHA遺伝子系統樹上3C.2aおよび3C.3aの2群に大別されるが, 2018/19シーズンの全解析株は, 3C.2aに属した。抗原性解析では, 解析株の9割以上が2018/19シーズンワクチン株であるA/Singapore/INFIMH-16-0019/2016(H3N2)(3C.2a1群)の細胞分離株に対するフェレット血清とよく反応したが, 卵馴化による抗原変異を受けた卵分離株に対するフェレット血清とは, ほとんど反応しなかった。B/山形系統株はすべてHA遺伝子系統樹上3群に属し, 抗原性解析株の9割以上がB/Phuket/3073/2013(2018/19シーズンワクチン株)と抗原性が類似していた。B/Victoria系統株はすべてがHA遺伝子系統樹上1A群に属し, そのうち74%はHAに3アミノ酸欠損をもつ株であった。抗原性解析では, 約7割の解析株がHAに2アミノ酸欠損をもつB/Colorado/06/2017〔2018/19シーズンの世界保健機関(WHO)ワクチン推奨株〕に対するフェレット感染血清とよく反応した。

2018/19シーズン分離ウイルスの薬剤耐性:A/H1pdm09については, 国内分離2,163株のうちオセルタミビル・ペラミビル耐性変異株が21株(1.0%)で検出された。うち4株は同剤未投与の患者から分離された株であった。また, 国内分離331株のうち, バロキサビル耐性変異株が6株(1.8%), 同剤投与例から検出された。A/H3については解析した国内分離331株すべてが, B型については解析した国内分離161株のうちペラミビル耐性変異株1株以外は, オセルタミビル, ペラミビル, ザナミビル, ラニナミビルに感受性であった。バロキサビルについては, A/H3において, 国内分離356株のうちバロキサビル耐性変異株が34株(9.6%)検出された。うち5株は同剤未投与の患者から分離された株であった。B型でのバロキサビル耐性変異株は検出されなかった(本号9ページ)。

2018/19シーズン前の抗体保有状況:予防接種法に基づく感染症流行予測事業により, 2018年7~9月採血の血清(6,569検体)を用いて免疫獲得状況が調査された(本号12ページ)。抗体保有率(HI価≧1:40)はそれぞれ, A/Singapore/GP1908/2015[A(H1N1)pdm09]に対しては10~24歳が68~71%で他年齢群より高く, A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016[A(H3N2)]に対しては5~19歳が71~82%で他年齢群より高く, B/Phuket/3073/2013(B/山形系統)に対しては20~34歳が66~70%で他年齢群より高かった。B/Maryland/15/2016(B/Victoria系統)に対する抗体保有率は35~54歳の41~57%を除き, 全年齢群で40%未満であった。

インフルエンザワクチン:2018/19シーズンはA型2亜型とB型の2系統による4価ワクチンとして約2,717万本(1mL換算, 以下同様)が製造, 約2,630万本(推計値)が使用された。

2019/20シーズンワクチン製造株は, A/H1はA/Bris-bane/02/2018(IVR-190)が, A/H3はA/Kansas/14/ 2017(X-327) が選定された。B型についてはいずれも2018/19シーズンに引き続き, B/山形系統はB/Phuket/ 3073/2013が, B/Victoria系統はB/Maryland/15/2016(NYMC BX-69A)が選定された(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_545793.htmlおよび本号20ページ)。

6歳未満児でのインフルエンザワクチン2回接種の有効性に関して多施設共同症例・対照研究が行われ, 2013/14~2017/18の5シーズンで有意な発病予防効果が示されている(本号18ページ)。引き続き積極的なワクチン接種が推奨される。

鳥・ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例(本号14ページ:家禽に対する高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスのヒト感染例は, ネパールにおいては初めてとなる2019年3月の事例を含め, 2003年以降17カ国で861例(うち455例死亡)が確認された。A(H5N6)ウイルスは2014年以降, 2019年3月と8月にそれぞれ1例のヒト感染事例を含め, 中国では24例の報告がある(2019年9月27日現在)。一方, 2013年から低病原性鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染例も中国で多数報告され, 感染者総数は1,568例(うち616例死亡)となっている(2019年9月27日現在)。2016年10月~2017年9月の第5波では, 家禽に対して高病原性に変異したA(H7N9)ウイルスも出現し, ヒト感染例も報告されたが, 2017年10月以降, ヒト感染例の報告は高病原性ウイルスによる3例であり, 2019年4月以降, このウイルスによるヒト感染例は報告されていない。これまで, 鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスのヒト感染例は, 中国, エジプト, バングラデシュ, オマーンで散発的に報告されている。

ブタインフルエンザウイルスのヒト感染例は, これまでに, 米国の農業フェア等での曝露によるA(H3N2)v, A(H1N1)v, A(H1N2)vが報告されている(本号14ページ)。

おわりに:患者発生動向, 通年的なウイルス分離, 流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析, 薬剤耐性ウイルス出現, 国民の抗体保有率等の包括的な監視が今後の新型インフルエンザを含むインフルエンザ対策に引き続き重要である。 

 

注)IASRのインフルエンザウイルス型, 亜型, 株名の記載方法は, 赤血球凝集素(HA)の分類を調べた情報を主とする場合と, さらにノイラミニダーゼ(NA)の型別まで実施された場合などの違いによるものである。

・N型別まで実施されている場合:A(H1N1)pdm09, A(H3N2), A(H5N1)など

・N型別未実施のものが含まれる場合:A/H1pdm09, A/H3など

・株名については, 主に国内の地名は漢字, 国外は英語表記(例:B/山形系統, B/Victoria系統など)

・ヒトに感染したブタインフルエンザウイルスはヒトの季節性インフルエンザウイルスと区別するために, variant virusesと総称し, 亜型の後に “v” を表記: A(H3N2)vなど

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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