国内における小児の原因不明の急性肝炎について 
(第3報) 
2023年2月16日時点の事例報告集計

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

実地疫学研究センター

感染症疫学センター

 

背景や症例定義、急性肝不全の診断基準などについては「国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点」を参照

要旨

・2023年2月16日までに暫定症例定義を満たす小児の原因不明の急性肝炎の可能性例が156例報告された。肝移植を要した症例が3例報告され、死亡例は1例報告された。

・これまでの報告と同様、症例の発症時期、居住地域、検出された病原体について、特定の傾向は確認されていない。

・アデノウイルス検査陽性例16例のうち、欧米諸国で多く報告されている41型が検出された症例は2例であった。

・アデノウイルスを含め関連する感染症発生動向調査においても特段の懸念のある動向は見られていない。

小児の原因不明の急性肝炎報告例の概要

厚生労働省(および国立感染症研究所)の調査における暫定症例定義を満たす可能性例は、2023年2月16日(第7週)までに、国内で156例報告された。原因となる病原体、発症の時期については明らかな傾向は認められていない。また、症例は全国から報告されており、地域的な偏りはみられていない。

 2021年第40週から2023年第6週までの、疫学週ごとの発症者数の推移を示す(図1)。直近の発症者については遅れて報告される可能性があること、また、事務連絡の発出以前の発症者は、医療機関が遡って確認する必要があり十分に報告されていない場合があると推定されることから、解釈には注意を要する。発症から入院までの期間は情報のある149例において、中央値[四分位範囲]は4日[2-8日]、入院期間は情報のある132例において、中央値[四分位範囲]は10日[7-15日]であった(表1)。

156例のうち、84例(54%)は男性、72例(46%)は女性で、年齢中央値[四分位範囲]は4歳6か月[1歳4か月-9歳2か月]であった。情報が得られた症例のうち(以下、分母は各情報が得られた症例数を表す)、基礎疾患を有する者の割合は25%(39例/155例)であった(表1、表2)。

 少なくとも1回以上の新型コロナワクチン接種歴がある者の割合は17%(24例/145例)、肝炎発症の前に明らかに新型コロナウイルス感染症の既往歴があった者の割合は15%(22例/148例)であった(表1)。

 最もよく見られた症状は発熱、消化器症状であり、これまでの報告と同様であった。肝機能の指標となるAST、ALT、総ビリルビン、PT-INRの中央値[四分位範囲]についても、これまでの報告と同様の傾向であった(表1)。

 全血、血清、便、呼吸器由来検体を主な対象とした病原体検査の結果を示す(表3)。7%(11例/150例)からSARS-CoV-2が検出された。また、アデノウイルスの検査が実施され、結果が判明した症例のうち、11%(16例/151例)からアデノウイルスが検出された(表3)。欧米で重症急性肝炎との関連について注目されているアデノウイルス41型は2例から検出された。現時点では、症例から検出された病原体について特徴的な傾向を認めない。

ICU/HCU入室例は17%(18例/103例)であり、急性肝不全の診断基準を満たす者は、PT-INRに関する情報の得られた99例のうち17例(17%)であった(図1、表1)。これらの割合は第2報と同様であった。急性肝不全の診断基準を満たす者17例のうち、肝移植を要した症例は、第2報から2例増加し3例 (18%) であった。急性肝不全の診断を満たす者17例のうち、死亡例が1例報告された。転帰については、さらなる観察期間を要する可能性に注意が必要である。

図1.暫定症例定義に該当する国内の症例の発症状況(n=150*1, 2023年2月16日10時時点)

*1 発症日不明の6名を除いている

*2発症日不明の1名を除いている

*3発症日事務連絡発出以前の遡り調査や、直近数週の報告については解釈に注意(本文参照)

表1. 暫定症例定義に該当する国内の入院症例の基本情報(n=156, 2023年2月16日10時時点)

*1重複あり

*2腹痛、下痢、嘔吐・嘔気のいずれかを呈する者

*3AST、ALT、総ビリルビン、PT-INRは報告時点までの最大値

*4AST、ALT、総ビリルビン、PT-INR は、それぞれ情報が得られた153例、153例、115例、99例の情報に基づく

表2.基礎疾患の分類(n=39, 2023年2月16日10時時点)

*1重複あり

表3.検出した微生物の基本情報*1

*1重複あり

*216例のうち12例がPCR法での検出、1例がウイルス培養での検出、2例が迅速抗原検査での検出であり、1例は検査方法不明である

*39例のうち6例は院内検査でアデノウイルスを検出したが、地方衛生研究所での検査が陰性であったため、型判定が不能であった

*4地方衛生研究所での検査で検出した微生物

関連する感染症発生動向調査の状況の概要

•「ウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)」の小児の症例数の報告が増えている兆候は見られていない(2023年3月7日時点)。

感染症法に基づくサーベイランス対象疾患としてのウイルス性肝炎(E型肝炎・A型肝炎を除く)(全数報告対象:5類感染症)では、小児の報告は稀である。2017~2019年と比べて、2020年以降の年間報告数は減少している。

2021年以降、一貫してB型肝炎が最も多く、B型・C型肝炎が当疾患の7割以上を占めている(D型肝炎の報告は0例)。それら以外のウイルス性肝炎の症例報告数はわずかに増加したが、大半が成人からであり、その起因ウイルスの大半はサイトメガロウイルスとEBウイルスである。

 

•アデノウイルスに起因する症候群が流行している兆候は見られない。

アデノウイルスに起因する症候群には、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎などがある。しかし、感染症発生動向調査から、アデノウイルスの流行状況を反映すると考えられる上記の症候群の発生傾向に異常は見られない。

 

•病原体検出情報システム(病原体サーベイランス)における報告状況から、アデノウイルスが大きく流行している兆候は見られていない(3月17日時点)。

 地方衛生研究所等が病原体サーベイランスに報告した病原体の検出情報(感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報)によれば、2023年2月においてアデノウイルス報告数が増加している、あるいは高いレベルで推移している兆候は見られていない。

 なお、小児科定点における胃腸炎症状(下痢、嘔気・嘔吐、腹痛)を認めた症例に限定しても、アデノウイルス報告数の増加や高いレベルでの推移は見られていない。アデノウイルスの検出は、2020~2021年は低いレベルで推移し、2022年以降にやや増加したが、2019年以前と比較すると少ない報告数で推移している。

 

病原体サーベイランスにおいては、検出から報告までの日数に規定がないため、報告が遅れる可能性があり、特に直近の情報については、解釈に注意が必要である。

 

 

当該事例の調査報告、及び日頃より感染症発生動向調査にご参加、ご協力をいただいている全国の医療機関、保健所、自治体本庁、そして地方衛生研究所の関係各位に心より感謝申し上げます。

 

参考資料

・国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第2報) 2022年10月20日時点

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/11623-2-2022-10-20.html

・国内における小児の原因不明の急性肝炎について(第1報) 2022年6月23日時点

https://www.niid.go.jp/niid/ja/jissekijpn/11255-fetp-3.html

・複数国で報告されている小児の急性肝炎について (第4報)

https://www.niid.go.jp/niid/en/from-lab-e/2521-cepr/11262-hepatitis-children-0704.html

・日本の感染症サーベイランス(2018年2月現在)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/nesid-program-summary.html

・国立感染症研究所 病原微生物検出情報(IASR) https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr.html

 

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