国立感染症研究所

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ノロウイルスGII.17型の流行とその特徴について-三重県

(IASR Vol. 36 p. 91-92: 2015年5月号)

2014/15シーズンのノロウイルスを原因とする食中毒などの健康被害事例と小児の感染性胃腸炎では、検出される遺伝子型に明らかな違いがみられた。健康被害事例からは、これまで検出例の少ない遺伝子型(GII.17)のノロウイルスが相次いで検出され、GII.17陽性検体には、市販のノロウイルス簡易検査キットでは陽性を示さないものもあった。以下にその概要を報告する。

ノロウイルス検出状況
2014年11月~2015年3月上旬までに三重県で発生した食中毒事例、有症苦情事例等の健康被害事例および三重県感染症発生動向調査により小児の感染性胃腸炎の患者から採取された糞便から検出されたノロウイルスの遺伝子型別検出数を表1にまとめた。遺伝子型別は、SKプライマーで増幅されるN/S領域の塩基配列をもとに、Norovirus Genotyping Tool Version1.0(http://www.rivm.nl/mpf/norovirus/typingtool)を用いて決定した。

ノロウイルスを原因とする健康被害事例は、2014年11月に1事例、12月に2事例、2015年1月に5事例、2月に9事例、3月は7日までに3事例発生した。検出されたウイルスの遺伝子型は、2015年に入ってからの2事例を除きすべてGII.17が関連しており、そのうち2事例はGI.2との混合感染がみられたカキの喫食事例であった。一方、小児定点医療機関より検査依頼のあった感染性胃腸炎の検体数は59検体で、そのうち19検体からノロウイルスの遺伝子が検出された。解析可能であった18例の遺伝子型はGII.3が7例と最も多く、次いでGII.4_Sydney_2012が6例、GII.4_2006bとGII.17が各2例、GII.2が1例であった。以上のように、2014/15シーズンにおいては健康被害事例と小児の感染性胃腸炎で検出されたノロウイルス遺伝子型には違いが認められた。

市販の簡易検査キットによるノロウイルスGII.17の検出
ノロウイルス簡易検査キットでGII.17が検出可能であるかを調べるため、市販の簡易検査キット2社製品(A・B)について検討した。検体はノロウイルスのリアルタイムPCR法で陽性と判定され、かつ遺伝子のコピー数が確認されている検体を用い、各製品の添付文書に従い検査を実施した。結果を表2に示した。

GII.4_2012の検体は両キットで明瞭なラインを示し、遺伝子コピー数に関係なく容易に陽性と判定することができた。一方、GII.17の検体は、遺伝子コピー数が108コピー以上の検体でも検出できない場合があり、GII.4_2012と比較し検出されにくい傾向が認められた。このことから、簡易検査キットではGII.17のノロウイルスは十分なウイルス量があるにもかかわらず陰性となりやすく、その使用には注意が必要であると考えられた。

考 察
2012/13シーズンは、本県では健康被害事例および小児感染性胃腸炎から同時期にノロウイルスGII.4_2012が検出され、いずれの事例においてもGII.4_2012が主流株であった。しかし今シーズンは、健康被害事例からはGII.17が多く検出されたが、小児感染性胃腸炎からの検出は少なく、原因となるノロウイルス遺伝子型に差が認められた。今回、複数の健康被害事例において飲食店の従業員からもノロウイルスGII.17が検出されている。このことから、成人の間でノロウイルスGII.17が流行していたと推測され、食品を介した健康被害の拡大につながっていると考えられる。今後、小児の感染性胃腸炎の原因として流行する可能性もあり、引き続き動向を監視する必要がある。

簡易検査キットによる検出の可否については、GII.17はGII.4_2012と比較して感度が低い傾向がみられた。遺伝子のコピー数やキットの種類に相関した傾向がみられないため、さらに検体数を増やしてデータを蓄積するとともに、ウイルス抗原の解析が必要であると考えられる。簡易検査キットは利便性が高く、多くの医療現場で汎用されているため、これらの情報はキットを製造しているメーカーやそれを使用する医療現場とも共有し、ノロウイルス対策を進めていくことが望まれる。

三重県では、次シーズンに向けたノロウイルス対策に活かすために、県内の関係機関に対してこれらの情報を積極的に提供しているところである。

 

三重県保健環境研究所
  楠原 一 赤地重宏 小林隆司 西中隆道
三重県津保健所総合検査室
  小林真美 山口江里 岩出義人 田沼正路
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛

 

 

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