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集団胃腸炎事例からのノロウイルスGII.P16-GII.4 Sydney_2012の検出―大阪市

(IASR Vol. 37 p. 136-138: 2016年7月号)

ノロウイルス(NoV)はウイルス性胃腸炎の主な原因であり, 多様な遺伝子型が存在している。また, NoVゲノムのORF1とORF2の間のjunction領域で遺伝子組換えが頻繁に起き, 多くのキメラウイルスが発生している。このためNoVの遺伝子型は, ORF1のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)領域とORF2のVP1(capsid)領域のそれぞれで遺伝子型を決定し, 併記することが推奨されている1)。近年では遺伝子型の一つであるGII.4が主に流行しており, GII.4の新しい亜型の出現が周期的な大流行をもたらしている。最近のGII.4亜型出現は2012年のSydney_2012である。現在, GII.4 Sydney_2012には2種類(GII.PeおよびGII.P4)のRdRp領域遺伝子型が確認されている。今回, 2015/16シーズンに大阪市内で発生した集団胃腸炎2事例から, これまで報告のないRdRp領域の遺伝子型(GII.P16)を持つNoV GII.4 Sydney_2012を検出したので報告する。

最初に検出されたのは2016年1月に市内の保育所で発生した集団胃腸炎事例(事例番号OH16002)であった。患者発生は1月2日~26日の期間に合計26名認められ, 年齢は1~6歳(中央値3.0歳)であり, 症状は主に嘔吐, 下痢であった。4名の患者が既に受診した医療機関の検査でNoV陽性となっており, 当所では, 検査でNoV陽性となった患者以外の4名について, 糞便のNoV検査(リアルタイムRT-PCR法)を実施し, 2名がGII陽性となった。NoV検査結果と患者発生状況から本事例は同施設内でヒトからヒトへ感染が拡がったNoVによる集団事例であると考えられた。

他の1事例は2016年3月に市内飲食店で発生した食中毒事例(事例番号OC16023)であった。当該飲食店を利用した1グループ10名のうち8名(23~60歳, 中央値27.5歳)が喫食後17時間30分~48時間30分(平均32時間48分)で腹痛, 下痢, 嘔吐, 発熱等の食中毒様症状を呈した。発症者8名の糞便について食中毒菌およびNoVの検査を実施し, 7名がGII陽性となった。食中毒菌は陰性であった。また, 調理人5名のうち2名の糞便からもNoV GIIが検出された。検査結果, 患者発生状況, 共通食が当該施設での食事以外にないこと, 非食餌性の感染が疑われる事象がないことから, 本件は同施設を原因とするNoV食中毒と断定された。

両事例から検出されたNoVについて, capsid N/S領域(282塩基)における遺伝子型別2)を実施したところ, Norovirus Genotyping Tool Version 1.0(http://www.rivm.nl/mpf/norovirus/typingtool#/)ではOH16002株がGII.4亜型不明(could not assign), OC16023株がGII.4 Sydney_2012であったが, 近隣接合法による分子系統樹解析では2株ともこれまで報告されていたSydney_2012とは少し異なる遺伝的グループを形成した(図1)。OH16002株のGII.4亜型を決定するために, さらに全capsid領域遺伝子の塩基配列を決定・分類したところ, Sydney_2012であることが判明した。RdRp領域は両事例株ともにGII.P16に分類された(図2)。GII.P16には多様なcapsid領域の遺伝子型との組合せがあり, GII.4ではNoV GII.P16-GII.4 NewOrleans_2009がGenBankに登録されていた。NoV GII.P16-GII.4 Sydney_2012はこれまで報告例がなく, GenBankにおいても同キメラウイルス遺伝子の登録を確認することができなかった。また, 両事例株の塩基配列を比較したところ, 互いに非常に近縁であった(塩基配列相同性:RdRp領域720塩基において98.9%, capsid N/S領域282塩基において98.9%)。

NoV事例の発生状況と検出されたNoVの遺伝子解析結果から, 本キメラウイルスは子どもから成人までの幅広い年齢層に感染を起こしているが, 今のところ検出数は少ない状況であると考えられた。GII.4亜型の主流であるSydney_2012は出現から約4年が経過しており, 新たな亜型の出現が危惧されている。今回認められたキメラウイルスもNoV GII.4の変化の一つであり, 本株を含めてGII.4亜型の変化や動向を注意深く監視していく必要がある。

疫学等の情報収集にご協力いただいた関係各位に深謝いたします。

 

参考文献
  1. Kroneman A, et al., Arch Virol 158: 2059-2068, 2013
  2. 片山和彦, 他, IASR 35: 173-175, 2014

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