国立感染症研究所

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Kudoa iwataiが原因と疑われた有症苦情事例について―長野県

(IASR Vol. 39 p224-225: 2018年12月号)

Kudoa iwatai(以下K. iwatai)はクドア属粘液胞子虫の1種で, タイやスズキ等の筋肉中にシストを形成, 寄生し, 宿主範囲が広いとされている1)。同じクドア属のKudoa septempunctata(以下K. septempunctata)は, 2011(平成23)年6月17日付け生食安発0617第3号通知 「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について」 により, 食中毒の病因物質として指定されているが, K. iwataiは病原性が明らかにされていないことから, 食中毒の病因物質として指定されていない。

今回, 長野県で発生した食中毒疑い事例においてK. iwataiがスズキ残品から検出され, 関与を疑う事例を経験したので, その概要を報告する。

本事例の発症者は, 2018(平成30)年8月25日~27日にかけてA市内の飲食店Yを利用した6グループ21名中の4グループ8名であった()。喫食調査の結果, 発症者はいずれもスズキの握りずしを食べており, 主な臨床症状は, 下痢(100%), 吐き気(63%), 嘔吐(50%)であった。各グループの喫食開始時刻を起点とした潜伏時間は, 4~9時間(平均6時間13分) であった。また, 調理従事者2名中1名はスズキを味見しており, 同様の症状を呈していた。

発症者6名および調理従事者2名の検便を実施したところ, 既知の食中毒起因細菌およびノロウイルスは検出されなかった。一方, 発症者へ提供されたスズキ切り身の残品(冷蔵保存)を, 2016(平成28)年4月27日付け生食監発0427第3号通知「Kudoa septempunctataの検査法について」に準じ顕微鏡検査および胞子数の計測をしたところ, 4つの極嚢を有した胞子が多数確認され, その胞子数は8.25×107個/gであった。

さらに, スズキ切り身, 発症者便4検体および調理従事者便2検体の検査を国立医薬品食品衛生研究所に依頼した。その結果, スズキ切り身からは鏡検により4極嚢を持つ胞子が観察され, また, スズキ切り身および調理従事者便1検体からK. iwatai特異的遺伝子が検出されたとの報告があった。

なお, 調理従事者への聞き取りでは, スズキは8月23日に仕入れ, 同日に3枚におろした際には, シストの存在は確認できなかったと申告があった。ところが, 8月28日に当所に搬入されたスズキ切り身には, 直径1mm程度の白色粒状シストが多数あり, 肉眼で確認された()。

本事例では, 疫学的にK. iwataiが原因である可能性が強く示唆されたが, 本寄生虫はヒトに対する病原性が不明であるため食中毒の病因物質に指定されていないことから, 病因物質不明の有症苦情事例として判断された。

現在, ヒラメのK. septempunctata以外の粘液胞子虫は食中毒病因物質として指定されていないものの, K. iwatai,Kudoa hexapunctata, Unicapsula seriolaeなどの粘液胞子虫の関与が疑われる有症事例が多く報告されている2-4)

これらの病原性を明らかにするための基礎データとして, 今後も有症苦情事例での疫学情報の蓄積が重要と考える。

 

参考文献
  1. 佐藤ら, Jpn J Vet Parasitol 15(2): 111-138, 2016
  2. 新潟県保健環境科学研究所ら, IASR 37: 238, 2016
  3. 中堂園ら, Ann Rep Kagoshima Pref Inst For ER and PH 16: 60-62, 2015
  4. 大西ら, 日本食品微生物学会雑誌 33(3): 150-154, 2016

 

長野県環境保全研究所
 塚田竜介 井川由樹子 小野諭子 和田純子
長野県飯田保健福祉事務所(飯田保健所)
 北條博夫 小平 満
国立医薬品食品衛生研究所 大西貴弘

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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