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複数のパラインフルエンザウイルス(HPIV3型および4b型)が原因と推定された呼吸器感染症の集団発生事例について―千葉市

(IASR Vol. 35 p. 157-159: 2014年6月号)

ヒトパラインフルエンザウイルス(HPIV)は、乳幼児を中心とした呼吸器感染症の原因ウイルスとして重要であるが、検出報告数が最も多いのはHPIV3型で、毎年初夏~秋にかけて検出報告が増加する傾向にある1)。また、国内におけるHPIV4型感染例の報告は他のウイルスと比較して少ないものと思われる。今回我々は2013年10月下旬~11月下旬にかけて、複数のHPIV(HPIV3型および4b型)が原因と考えられる集団発生事例を経験したので、その概要を報告する。

2013年11月7日、市内A病院の医師から、院内で発熱等の集団発生があるとの連絡を保健所が受け、現地調査を行った。その結果、10月27日~11月6日までにB病棟(入院患者60名、職員47名)の入院患者14名、職員3名の計17名が、発熱、鼻汁・鼻閉、咽頭痛などの呼吸器症状を示していた。また、発症者はB病棟の入院患者と職員に限られ、入院患者の発症者14名のうち7名は発熱のみで呼吸器症状がなく、職員の発症者は咽頭痛のみの軽度症状を呈する者が多かった。なお、A病院にて入院患者の発症者に対してインフルエンザウイルス、アデノウイルスおよびA群β溶連菌について検査を実施したがすべて陰性であった。さらに、11月25日まで上記症状を示す患者が発生し、最終的にB病棟の入院患者30名および職員22名の計52名が発熱あるいは何らかの呼吸器症状を呈した(図1)。入院患者の発症者の年齢は4~50歳(平均25.6歳)で、臨床症状は発熱(93.3%)、鼻汁・鼻閉(36.7%)、咳嗽(33.3%)、喀痰(30%)および喘鳴(10%)であった。また、発熱日数は1~18日(平均4.0日)で最高体温は37.5~40.7℃(平均38.8℃)であった。職員の発症者の臨床症状は咽頭痛(72.7%)、鼻汁・鼻閉(31.8%)、発咳(18.2%)および発熱(9.1%)で、発熱日数は1日、最高体温は37.6℃であった。

当研究所で、11症例(入院患者8名、職員3名)から採取された鼻咽頭ぬぐい液について呼吸器症ウイルスの遺伝子検出および分離を実施した。HPIV(1~3型)、ヒトRSウイルス2)、ヒトボカウイルスについてはReal-time(RT-)PCR法、ヒトライノウイルス(HRV)3)、ヒトエンテロウイルス3)、ヒトメタニューモウイルス4)、ヒトコロナウイルス5)についてはRT-PCR法を用いてウイルス遺伝子の検出を行った。さらにTongらによるパラミクソウイルス亜科のL蛋白を標的としたRT-PCR法6)を実施した。その結果、Real-time RT-PCR法により7症例からHPIV3型、RT-PCR法により1症例からHRV、9症例からパラミクソウイルス亜科の遺伝子が検出された。

なお、RD-A、VeroE6、HEp-2、CaCo-2およびMDCK細胞を用いてウイルス分離を行ったが、ウイルスは分離されなかった。

RT-PCR法により得られた増幅産物について、ダイレクトシークエンスを実施し、塩基配列解析を行ったところ、パラミクソウイルス亜科ウイルス陽性9症例のうち、7症例がHPIV3型、2症例がHPIV4b型であった。また、職員1症例から検出されたHRVはHRV-Aであった(表1)。検出されたHPIV3型(429bp)とHPIV4b型(463bp)のそれぞれの塩基配列はすべて一致し、BLAST検索の結果、HPIV3型はHPIV3/MEX/2841/2006(KF687326)株と99%、HPIV4b型はHPIV4b/strain04-13(JQ241176)株と98%の相同性を示した。

発症者がB病棟の入院患者と当該病棟職員に限られており、病室の異なる入院患者の発症者8名中6名からHPIV3型、2名からHPIV4b型が検出されたこと、職員の発症者3名中1名からHPIV3型が検出されたことから、本事例はHPIV3型および4b型を主な原因とする呼吸器感染症の集団発生事例であることが判明した。

次に、本事例においては、B病棟の患者は運動機能障害などの基礎疾患を有しており、自立歩行が困難であったことから、職員などを介してHPIVの感染が拡大した集団発生事例であることが示唆された。HPIV3型は通常初夏に流行し1)、集団発生事例も夏季に報告されているものが多いが7,8)、本事例においては秋季に発生したことが特徴である。

また、感染者のうち職員(健康成人)は臨床症状が比較的軽度であったが、基礎疾患を有する患者の中にはHPIVの感染により人工呼吸器管理が必要になるなど、職員と入院患者の間で臨床所見や重症度に大きな差がみられた。HPIV感染症は、乳児の場合は肺炎や気管支炎などの重篤な症状を示す場合もあるが、一般に幼児期までに初感染を経験した後は、症状も軽度であることが多い7-9)。しかし、本事例のような基礎疾患を有する成人や高齢者の場合、呼吸障害を引き起こし、重症化することもあるので医療機関や老人施設などでの発生には注意が必要であると思われる。

参考文献
  1. IDWR, 通巻第15巻, 第33号: 14-15, 2013
  2. 横井ら, 感染症誌 86: 569-576, 2012
  3. 石古ら, 臨床とウイルス 27: 283-293, 1999
  4. Peret TC, et al., J Infect Dis 185: 1660-1663, 2002
  5. Vijgen L, et al., Methods Mol Biol 454: 3-12, 2008
  6. Tong S, et al., J Clin Microbiol 46: 2652-2658, 2008
  7. 山腰ら, 感染症誌 73: 298-304, 1999
  8. 尾西ら, IASR 20: 223-224, 1999
  9. 矢野ら, IASR 33: 244-245, 2012

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