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パラインフルエンザウイルス2型が検出された肺炎・胃腸炎・神経症状を示した1症例

(IASR Vol. 35 p. 300: 2014年12月号)

ヒトパラインフルエンザウイルス(Human parainfluenzavirus: HPIV)は、パラミクソウイルス科パラミクソウイルス亜科に属するエンベロープを有したマイナス1本鎖のRNAウイルスである。また、小児を中心とした急性呼吸器感染症を引き起こす主要な原因ウイルスの1つであり、臨床症状としては上気道炎、気管支炎などを引き起こすほか、クループの主要な病因ウイルスであることが知られている1,2)。今回、我々は呼吸器症状、消化器症状および神経症状を伴う患者から採取された咽頭ぬぐい液および糞便から、ヒトパラインフルエンザウイルス2型(HPIV-2)を検出したので、その概要について報告する。

患者は9歳9か月の女児で、2014年8月5日に発病し、同13日に千葉市内の病院を受診した。

受診時の臨床症状は発熱(40℃)、頭痛、咽頭炎、肺炎、胃腸炎(下痢、腹痛)、意識障害、せん妄、肝機能障害であった。感染症法で規定されている1~5類感染症および指定感染症と診断はされなかったが、急性脳症を引き起こすことが懸念されたため、当研究所で検査を実施した。

検査は既報に従い、血液、咽頭ぬぐい液および糞便を検体として、呼吸器症ウイルスおよび脳炎・脳症ウイルスの遺伝子検出および分離を実施した。HPIV(1~3型)、ヒトRSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトボカウイルス、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス(6、7型)、水痘・帯状疱疹ウイルス、パルボウイルスB19についてReal-time(RT-)PCR法、ヒトライノウイルス(HRV)、ヒトエンテロウイルス、ヒトコロナウイルス、ヒトパレコウイルス、ムンプスウイルス、アデノウイルスについて(RT-)PCR法を用いてウイルス遺伝子の検出を行った。さらにTongらによるパラミクソウイルス亜科のL蛋白を標的としたRT-PCR法3)を実施した。その結果、咽頭ぬぐい液および糞便からReal-time RT-PCR法によりHPIV-2が検出された。咽頭ぬぐい液中のHPIV-2コピー数は7.42×104/5μL、糞便(10%乳剤)中のウイルスコピー数は8.81×104/5μLであった。また、RT-PCR法によりパラミクソウイルス亜科の遺伝子が検出された。RT-PCR法により得られた増幅産物についてダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し、490bpについて解析を行ったところ1)、咽頭ぬぐい液と糞便から検出されたパラミクソウイルス亜科の塩基配列は100%一致し、DDBJのBLAST検索の結果、HPIV2/V94(AF533010)と99%の相同性を示したことから、当該ウイルスをHPIV-2と決定した。なお、RD-A、VeroE6、HEp-2、CaCo-2およびMDCK細胞を用いたウイルス分離は陰性であった。

本症例は、呼吸器症状以外に消化器症状、肝機能障害および神経症状など多彩な臨床所見を示した1例であったが、ウイルス学的検索で検出されたものはHPIV-2のみであった。一般にHPIVは呼吸器感染症に関与する病原体であり、合併症として中耳炎を比較的高率に併発することが知られているが、胃腸炎や神経症状など他の症状を併発することは少ないと考えられる2,4)。一方、血性下痢症を呈した成人の直腸ぬぐい液から、HPIV-3が分離された1症例が報告されており5)、本症例においても、ウイルス学的検索により、患者の咽頭ぬぐい液および糞便からHPIV-2が検出された。症例数が1例のみであるため、検出されたHPIV-2が胃腸炎や神経症状に関与していたか否かについて断定することは難しいが、呼吸器症状に伴い胃腸炎を併発している場合は、糞便に対してもHPIVの検索を行い、症例を集積することが必要であると考えられた。

 
参考文献
  1. 国立感染症研究所, パラインフルエンザウイルス検査マニュアル, 2009
  2. Karron RA and Collins PL, Parainfluenza Viruses, Vol.1, 1498-1526, Fields Virology, 2007
  3. Tong S, et al., J Clin Microbiol 46: 2652-2658, 2008
  4. Reed G, et al., J Infect Dis 175: 807-813, 1997
  5. Aronson MD, et al., Ann Intern Med 81(6): 856-867, 1974
  6. 錫谷達夫, 臨床と微生物 33(増刊号): 543-568, 2006
 
千葉市環境保健研究所
    土井妙子 水村綾乃 田中俊光 元吉まさ子 都竹豊茂 本橋 忠
国立感染症研究所感染症疫学センター 木村博一
 

 

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