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富山県で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群の1例

(IASR Vol.44 p42-43: 2023年3月号)
 

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with throm­bocytopenia syndrome: SFTS)が国内で報告されてから10年が経過した。この間に当初, 西日本で発生していた本疾患の患者発生地域が徐々に中日本, 東日本地域へと拡大しており, 北陸地域では, 福井県, 石川県で患者発生が報告されている1)。本疾患はSFTSウイルスを原因とする人獣共通感染症であり, 本ウイルスを保有するマダニの刺咬により発症する。また, 最近ではSFTSを発症したイヌやネコなどの愛玩動物等からの接触感染も報告されている2)。富山県では, 2022年5月に県内で飼育されている同居イヌの複数同時発生が確認された3)。今回, 富山県で初めてSFTSウイルスのヒト感染事例が確認されたので報告する。

患者は60代女性で, 2022年11月9日に発症し, 同12日に発熱および食欲不振, 倦怠感を主訴として近医を受診し, 解熱剤を処方された。3日経過しても症状が改善しないことから, 11月15日に厚生連高岡病院を受診した。受診時に発熱(38.6℃), 関節痛に加え, 下痢, 肝機能検査値の異常も認められた。本人にダニ咬傷の自覚はなかったものの, 右大腿屈側基部に虫刺様の皮疹(15×10mmの楕円形紅斑の中心に径1mmの点状痂皮をともなう)を認めた。このため, 当初はつつが虫病, 日本紅斑熱が疑われ, 発症から6日目の全血および痂皮検体が富山県衛生研究所(富山衛研)に検体搬入された。つつが虫病リケッチアおよび紅斑熱群リケッチアの遺伝子を同時検出できるreal-time PCR検査系4)では, つつが虫病および日本紅斑熱リケッチアは陰性であった。近医受診時の臨床症状に加え, 同患者の末梢血検査で白血球数2,600/μL, 血小板数9.6×104/μLであったことから, 富山衛研はSFTSウイルスのreal-time RT-PCR遺伝子検査5)を実施した。その結果, 患者の血漿および白血球成分からSFTSウイルスのNP遺伝子を検出した。一方, 痂皮からはNP遺伝子は検出されなかった。次に, 患者の血漿中のSFTSウイルス特異IgMおよびIgG抗体価について間接蛍光抗体法により判定した結果, IgMは320倍, IgGは160倍の陽性であった。しかし, VeroE6細胞を用いたウイルス分離試験ではSFTSウイルスは分離されなかった。

今回, 本症例のウイルス診断が確定した後, 本患者の居住地域管轄の厚生センター(保健所)と連携して, 患者が野外活動をした地域の環境調査を行った。患者は農業に従事しており, 推定感染時期には連日山間部で野外活動をしていた。活動時には皮膚を露出しない服装であった。10月下旬~11月初旬の富山県山間部では, 最低気温が10℃を下回ることもあり, マダニの活動もかなり低下していると推定されことから, 本症例の原因となったマダニ刺咬の機会は稀と考えられた。

これまでにもリケッチア症疑い例からSFTS症例が見つかる例は数多く報告されている6-10)。本症例では, リケッチア診断の検査陰性確定後にSFTSの検査診断を行ったために, SFTS陽性判定時には発症してから13日が経過していた。この時点で, 患者は既に軽快しており, 軽症のSFTS症例であったと考えられた。しかし, SFTSの高い致命率(10-30%)を鑑みると, 早期検査診断を可能にする診療・検査体制の必要性が示唆された。医療機関の医師, 獣医師に対して, リケッチア症の鑑別疾患としてSFTSの存在を周知する一方, SFTSを疑ったものの日本紅斑熱やつつが虫病である例も考えられるため, マダニ媒介感染症を疑う場合は, 鑑別診断をしっかり行ってもらうことが重要である。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/sa/sfts.html
  2. Kobayashi Y, et al., Emerg Infect Dis 72: 356-358, 2020
  3. 佐賀由美子ら, IASR 43: 218-219, 2022
  4. Kawamori F, et al., Jpn J Infect Dis 71: 267-273, 2018
  5. Yoshikawa T, et al., J Clin Microbiol 52: 3325-3333, 2014
  6. Uehara N, et al., Intern Med 55: 831-838, 2016
  7. Satoh M, et al., J Infect Chemother 23: 45-50, 2017
  8. 寺杣文男ら, IASR 38: 116-117, 2017
  9. 川口 剛ら, IASR 41: 137, 2020
  10. 平良雅克ら, IASR 42: 150-152, 2021
厚生連高岡病院          
 呼吸器内科 坂東彬人      
 皮膚科 村田久仁男       
 総合診療科・感染症内科 村井佑至 狩野惠彦      
高岡厚生センター         
 垣内孝子 林 江美 越坂裕子  
富山県厚生部健康対策室      
 三井千恵子 宮島重憲 守田万寿夫
富山県衛生研究所         
 谷 英樹 佐賀由美子 稲崎倫子 矢澤俊輔 嶌田嵩久
 板持雅恵 大石和徳

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