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重症熱性血小板減少症候群疑い症例における陽性例と陰性例の比較

(IASR Vol. 40 p46-48: 2019年3月号)

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)はSFTSウイルス(SFTSV)感染によって生じる, 発熱, 消化管症状, 出血症状等を起こす致命率の高い急性感染症で, 2013年1月に日本で初めて報告された。同年3月に感染症発生動向調査の対象疾患となって以降, 国内で毎年40~90例が報告されている1)。同じく流行地である中国や韓国からは, 高齢, 農業, 放牧, ヤギ飼育, 屋外でのキャンプやハイキング等がSFTS罹患のリスク因子とされており2,3), 医療関連感染も報告されている4-6)。ただし, 日本での罹患に関わる因子に関しては不明である。そこで, 臨床的にSFTS等が疑われ, 行政検査が実施された患者のうち, SFTSV陽性例と陰性例との比較(test-negative design)を行い, 検査陽性に関わる因子を検討した。

方法は, 山口県環境保健センターにおいて, 質問紙により検体収集時に臨床医から収集している情報を用いた後方視的研究とした。2013年3月~2017年12月の間にSFTS疑いで検査依頼された58例中の基本情報, 症状, 血液生化学検査結果をSFTSV陽性例と陰性例とで比較した。陽性例はPCRによる血清中のSFTSV遺伝子検出とした。比較はWilcoxon順位和検定とFisher正確検定を適宜用い, 0.05未満を有意とした。

SFTSV陽性は28例であった(表1, 2)。SFTSV陽性例は陰性例に比べ, ダニ咬傷(含既往)が多く(オッズ比6.8, 95%信頼区間1.5-41.5, p=0.01), 全身倦怠感を呈する割合が高く(オッズ比21.8, 95%信頼区間2.6-960.7, p<0.01), 末梢白血球数が低かった(p=0.03)。年齢は高齢者が多く, 両群に有意な差を認めなかった。発症日から症状確認までのタイミングは不明であった。両群とも末梢血小板数は正常値より低く, 血清AST値, ALT値, LDH値は正常より高かった。

SFTS疑いで検査された患者の中でSFTSV陽性例と陰性例とを比較することで, SFTSをより一層疑わせる特徴が把握された。ダニ咬傷痕やダニ咬傷の既往はSFTSV陽性例に多く認められた。SFTSV陰性例の中には, SFTSの鑑別診断に挙げられる他のダニ媒介疾患が含まれていたと考えられる。それらと比較してもSFTS症例にダニ咬傷が多く確認されていた理由は不明であるが, 医師はダニ咬傷を認めた場合に, よりSFTSを疑い検査を依頼するという診療上の選択が大きく影響していると考えられた7)。今回の解析ではこの選択基準が不明であった。SFTSが他のダニ媒介疾患に比べ致命率が高いことから8), 全身倦怠感を呈する頻度が高いことは, 全身状態の重篤さが倦怠感に反映されていると考えれば, 理解できる結果であった。今回の比較では, 韓国におけるSFTSとつつが虫病との比較研究でSFTSに多いと報告された高齢, 食欲低下, 血清LDH高値については明らかな差を認めず, 他に関連を認めていたリンパ球数, 血清アルブミン値, CRPについては検査結果が不明であったために検討できなかった9)。本研究結果の解釈にはいくつかの制約がある。まず, 前述のように, 臨床医がSFTSを疑い, 検査依頼となった基準が一律でないと考えられ, サンプリングバイアスがあり得る。次に, 検査実施と発症・受診・入院との時間関係が不明で, 経過中の症状変化が十分反映されていない可能性があることから, 症状の偽陰性があり得る。また, 罹患前の行動に関わる因子は評価しておらず, 各因子間の調整は行っていない。

SFTSの抗体陽性率は日本と中国や韓国とは異なる10-13)。この理由には検査方法が異なるなどいくつかの原因が考えられるが, 罹患リスクに関わる因子が異なる可能性もある。SFTSの罹患リスク因子は, 市中におけるよくデザインされた観察研究により明らかにすることができるが, 国内発生例が限られるため日本での検討が困難である。今後は, SFTSV感染のリスクが高い集団におけるコホート研究など, サンプリングバイアスを極力少なくしたうえでtest-negative designが実施できれば, 日本における罹患のリスク因子を明らかにする一つの方法になると考えられた。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 重症熱性血小板減少症候群
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html(2019年1月28日閲覧)
  2. Liu Q, et al., Lancet Infect Dis 14: 763-772, 2014
  3. Liang S, et al., Am J Trop Med Hyg 90: 256-259, 2014
  4. Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249-252, 2012
  5. Choi SJ, et al., PLoS Negl Trop Dis 10: e0005264, 2016
  6. Huang D, et al., Am J Trop Med Hyg 97: 396-401, 2017
  7. Fukushima W & Hirota Y, Vaccine 35: 4796-4800, 2017
  8. Li H, et al., Lancet Infect Dis 18: 1127-1137, 2018
  9. Wi YM, et al., Emerg Infect Dis 22: 1992-1995, 2016
  10. Gokuden M, et al., Jpn J Infect Dis 71: 225-228, 2018
  11. Kimura MA, et al., J Infect Chemother 24: 802-806, 2014
  12. Li P, et al., PLoS ONE 12: 0175592, 2017
  13. Han MA, et al., Emerg Infect Dis 24: 872-874, 2014

 

国立感染症研究所感染症疫学センター
 山岸拓也 島田智恵 松井珠乃 大石和徳
同 実地疫学専門家養成コース(FETP)
 川上千晶 土井育子
山口県環境保健センター
 戸田昌一 松行博文 調 恒明

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