1.B型肝炎ウイルスとは

 

 B型肝炎はヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)に属するB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)の感染によって引き起こされます1)。世界中で20億人のHBV感染者が存在し、そのうち35千万人が持続感染者で、年間50万〜70万人がB型肝炎やB型肝炎に起因する疾病(肝硬変・肝がんなど)で死亡していると推定されています。

 

感染症法における取り扱い (2012年7月更新)


 「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」は全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。届出基準はこちら

治療・予防

 HCV感染の予防はまず感染経路を遮断する事であり、以前はHCVの感染経路のうち輸血によるものが5割を占めていたが、我が国では1989年世界に先駆けて献血時にHCV抗体をスクリーニングするようになってから激減した。しかし、極めて稀であるが抗体を調べる方法では検出できない肝炎ウイルスの存在が問題となった。これらの輸血後肝炎の原因の多くは、血清学的検査法の「ウインドウ期」に献血された血液によるものである可能性が指摘されたため、「ウインドウ期」血液に含まれる極めて微量のウイルスを検出する高感度な検査法として、核酸増幅検査(nucleic acid amplification test; NAT)が導入された。1999年、日本赤十字 社はHCVHBVHIVの遺伝子を調べるNATセンターを設立した。全国で献血された血液は各地の血液センターでスクリーニングされた後、血清学的反応で陰性の血液すべてを東京(大田区)、京都(福知山)、北海道(千歳)のNATセンターで核酸レベルの検査を行っている。 献血後24時間以内に各血液センターに通知し、陽性血液は輸血用血液から除外して安全性を高めている。

 C型肝炎の治療は、病気の活動度や進行状態によって方法や効果が異なるため、治療薬や治療方針の選択については専門医による判断が必要である。最も有効性が確立している抗HCV薬はインターフェロン(IFN)である。1992年にIFN単独 24週療法にて著効率(SVR)10%程度であったが、200112月からリバビリンとの併用療法に医療保険が適用されるようになり、2004年のPEG-IFN製剤・RBV併用療法の導入により、著効率は50%となった。さらに201111月に国内承認された最初のプロテアーゼ阻害であるテラプレビルが使用可能となり、PEG-IFN+リバビリン+テラプレビルの3剤併用療法により、初回治療のSVR率は約70%と向上した。201311月には、第2世代プロテアーゼ阻害剤であるシメプレビルが認可され、シメプレビル+Peg-IFN +リバビリンの3剤併用療法により、初回治療のSVR 率は約90%まで向上した。現在、IFN freeであるプロ テアーゼ阻害剤/NS5A 阻害剤の内服剤による抗ウイルス療法などの臨床試験が進んでおり、こうした次世代 DAAs (direct anti-viral agents)は、副作用が非常に少なく、これまで以上の抗ウイルス効果が報告されており期待されている。

 予防法として最も有効と思われるC型肝炎ワクチンは、依然として実用化されていない。C型慢性肝炎患者の血液中には、HCV蛋白に対する様々な特異的抗体が産生されるものの、ゲノムの多様性やエンベロープ蛋白にアミノ酸が変異しやすい領域が存在することなどから、中和抗体は産生されにくい。また、感染に伴ってT細胞応答も惹起されるが、例えばB型肝炎などの場合と比べてウイルス特異的な細胞性免疫は誘導されにくいと考えられる。このようなことが要因となって、HCVは宿主の免疫監視機構から逃れ、高率に持続感染が成立するものと考えられている。

 

病原診断

 C型肝炎の診断には血清抗体の検出と核酸・抗原の検出の2種類がある。一般的には、初めにHCV抗体検査が行われる。以前は非構造領域のNS4領域 (C100-3)を抗原とする抗体アッセイ系(第一世代)が用いられていたが、後にC100-3抗原、コア抗原、NS3領域の抗原を組み合わせて検出感度を上げた第二世代、さらにNS5領域の抗原も含めた第三世代の抗体アッセイ系が開発され、利用されている。抗体検出方法としては凝集法(PHAPA 法)、酵素抗体法 (EIA法)、化学発光酵素抗体法(CLEIA法)などが用いられている。これらの抗体検査で陽性となった場合、(1HCVに感染しているキャリア状態、(2)過去に感染し、現在ウイルスは排除された状態、の2つの可能性が考えられる。このようなHCVキャリアと感染既往者とを適切に区別するため、HCV抗体価を測定することと、HCV-RNAの検出検査を組み合わせて判断する方法が一般的に行われている。また、急性C型肝炎においてもHCV 抗体の陽性化には感染後通常13カ月を要する(ウインドウ期)ため、この時期の確定診断にはHCV-RNA定性検査が行われる。急性期にHCV抗体が検出されるのは50%以下であり、発症後3カ月目に90%6カ月目にはほぼ100%陽性となる。HCV-RNA定性検査法としては、reverse transcription-polymerase chain reactionRT-PCR)を利用したアンプリコアHCV-RNA定性法がある。本法は102 コピー/ml程度の感度を有する。また、ウイルスの増殖状態や治療の効果判定、経過観察などのためにHCV-RNAの定量を行う。方法としては、RNAの内部標準を使用したリアルタイムRT-PCR法、アンプリコアモニター法や分枝鎖標識DNAプローブを用いて定量する分枝鎖DNAプローブ(bDNA)法などが開発実用化されている。感度はリアルタイムRT-PCR法、アンプリコアモニター法、分枝鎖標識DNAプローブ法の順に低くなる。また、HCVコア抗原を検査する方法もあり、感度は分枝鎖標識DNAプローブ法と同等である。これはHCV粒子の構成蛋白を直接測定する方法である。

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