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公開講座

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造血幹細胞移植における致死的病原体としてのAdenovirus

(IASR Vol. 38 p.147: 2017年7月号)

緒 言

造血幹細胞移植は白血病などの造血器悪性疾患に対する最終的な治療手段である。近年では骨髄不全, 免疫不全, 自己免疫疾患などにも適応が拡大し, 移植前処置の軽減により比較的高齢者患者にも施行可能となったことや, 臍帯血, HLA不一致ドナーを代替ドナーとして用いることなど移植技術の進歩により, 現在本邦では年間約5,000人の患者が造血幹細胞移植を受けており, 移植施行件数は年々増加傾向にある。一方, 造血幹細胞移植において患者予後を左右する重要な問題は原病の再発と移植関連疾患である。移植関連疾患における感染症は移植片対宿主病とともに死亡につながる危険な合併症である。一部の感染症に対しては新規薬剤やモニタリング法が開発され, 克服されつつあるが, 造血幹細胞移植におけるアデノウイルス(Ad)感染症に対しては現在十分な対策が構築されていない。本稿では造血幹細胞移植におけるAd感染について概説する。

 造血幹細胞移植とアデノウイルス感染

好発時期は造血幹細胞生着後から移植後100日の間, すなわちドナー由来造血幹細胞の造血が始まり, 好中球数の回復は来したもののリンパ球機能の回復していない時期である。感染経路は主として既感染患者の免疫不全状態が引き起こす再活性化であるが, 水平感染も起こるため移植病棟では集団発生の報告がある。

Adには50以上の血清型の存在が報告されているが, 移植後感染症としてはsubspecies B2の11型が本邦において特に高頻度である。発症型式は出血性膀胱炎としてあらわれることが多く, 他に肺炎や腎炎等として認められることもある。

感染率, 発症率は報告によりさまざまである。これには検査法の違いや対象とする患者背景の違いが大きく関与している。また近年, 検査法の進歩により, より鋭敏かつ頻回に観察できるようになっている一方で, 臍帯血移植などAd感染高リスク移植が頻繁に行われるようになっている。

1985年の米国からの報告では1,051件の骨髄移植患者の51例にAdがウイルス分離され5例が死亡, 原因は肺炎4例, 腎障害1例であった。この当時の研究では, 診断のため尿, 咽頭, 直腸よりウイルス分離検査が行われている1)。一方, 近年になるとPCR法, イムノクロマト法やEIA法が用いられるようになっている。2012年の本邦で行われた同種造血幹細胞移植におけるウイルス性出血性膀胱炎についての研究では, 266例のうち15.8%でウイルス性出血性膀胱炎が発症, 原因ウイルスとしてAdは9.8%, BKウイルスは6.0%であったと報告されている2)。2016年のドイツからの造血幹細胞移植後Ad感染患者の頻度や予後についての報告では, 成人399人について検討されており, Ad感染は10.5%に認め, 無症候患者は4.5%, 局所感染症状を有する患者は4.5%, 播種性感染症状を有する患者は1.5%であった。治療にかかわらずAd感染有症状患者の予後は無症候Ad感染患者より有意差をもって悪かった3)。また, これまで小児患者, 移植ソースのT細胞除去やHLA不一致移植, 臍帯血移植, 移植片対宿主病の合併がAd感染症発症のリスク因子であると報告されている。

治 療

感染症治療には早期発見, 有効な治療介入が重要であるが, 本邦では造血幹細胞移植後, Ad感染に有用な検出検査, 抗ウイルス剤は保険収載されていない。海外での第一選択薬はCidofovirであるが未承認薬であるため, 本邦の造血幹細胞を専門としている多くの施設では個々で輸入し, 臨床研究として使用している。現在, Cidofovirの移植後Ad感染に対する適用法・用量に関するエビデンスは存在しない。薬剤添付文書では5mg/kg週1回が標準投与法であるが, 腎毒性が強い薬剤であるため, 既報では1mg/kgを週3回投与されていることが多い。

また, 発症原因が移植後免疫不全であるため, 当科ではCidofovir投与とドナーのリンパ球を輸注することにより患者免疫力を強化する治療を行っており, 播種性Ad感染患者4例がこの方法により救命できたと報告した4)

結 語

造血幹細胞移植後Ad感染症は致死的合併症であり, 現在Ad感染高リスク造血幹細胞移植を行う患者は増加傾向にある。しかし, Ad感染に対し, 有効な検査法や治療法が構築されておらず早急な対策が必要と考える。

 

参考文献
  1. Shields AF, et al., N Engl J Med 312(9): 529-533, 1985
  2. Mori Y, et al., Biol Blood Marrow Transplant, 18: 458-465, 2012
  3. Hubmann M, et al., J Clin Virol 82: 33-40, 2016
  4. Taniguchi K, et al., Ann Hematol 91(8): 1305- 1312, 2012

 

兵庫医科大学血液内科 岡田昌也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan