2012/6/18Update

最終評価結果

 

9月末・12月末現在

2012年新型コロナウイルス(MERS-CoV)に関する「よくあるご質問」

(原文) http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/faq/en/index.html

2012年12月3日更新版はこちら

2013年5月23日

世界保健機関(WHO)

 日本語訳:国立感染症研究所感染症疫学センター

 

Q1. 新型のコロナウイルス(MERS-CoV)とは何ですか?

新しい種類のコロナウイルスで、これまでヒトに感染がみられたことありませんでした。コロナウイルスとは、ウイルスの種類の一つで、ヒトや動物に病気を引き起こします。ヒトに罹った場合、普通の風邪から、重症急性呼吸器症候群(SARS)まで様々な病気を起こします。現在、新型コロナウイルスによる疾患の固有名称として、中東呼吸器症候群コロナウイルスという名称が提案されています。

 

Q2. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)の感染はどこで起きています?

ヨルダン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など、中東のいくつかの国で新型コロナウイルスに感染したヒトが報告されています。また、ヨーロッパの3か国-フランス、ドイツ、イギリス-やチュニジアからも患者が報告されています。ヨーロッパやチュニジアで報告された患者はすべて、中東と何らかの関連(直接か間接かを問わず)がありました。しかし、フランス、チュニジア、イギリスでは、中東への渡航歴はないけれど、最近中東へ渡航したことのある患者と密接に接する機会があった人々の間で、限局的な感染が起きています。

 

Q3. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)はどのくらい広がっていますか?

このウイルスがどの程度、広範囲に存在しているかはまだ分かっていません。WHOは加盟各国に引き続き重症急性呼吸器感染症(SARI)の把握と、特にSARIや肺炎の発生状況に異常がないか注意深く検討するように奨励しています。引き続きWHOは、情報が入手され次第共有を行います。

 

Q4. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)はどんな症状を起こしますか?

新型コロナウイルス(MERS-CoV)の患者に共通している症状は、急性の重症な呼吸器症状で、発熱、せき、息切れや呼吸困難を伴います。ほとんどの患者が肺炎を起こします。また、多くの患者が下痢などの消化器症状を伴います。一部の患者は腎不全をきたしました。新型コロナウイルスに感染した人の約半数が死亡しました。免疫不全の人では、病気が型にはまらない表れ方をすることがあります。現在のこの感染症の情報は、ごくわずかな症例に基づいており、ウイルスについての知見が増えるにつれて変わる可能性があることに留意しておく必要があります。

 

Q5. 人はどのようにして、このウイルスに感染するのですか?

人がこのウイルスにどのようにして感染するか分かっていません。ウイルスの自然界での存在場所、感染につながる曝露の種類、感染する経路、臨床的な病像と経過について現在調査を行っています。

 

Q6. ウイルスはヒトからヒトに感染しますか?

はい。現在、複数の患者の集団(クラスター)で、ヒト-ヒト感染が強く疑われたり立証されたりしています。このような感染はすべて、医療機関や近親者の中で起きています。しかし、これらの集団の中で感染が起きる機序は、呼吸器を介するのか(例えば、咳、くしゃみ)、接触(患者による環境の汚染)によるのか、分かっていません。

 

Q7. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)に対するワクチンはありますか?

現在、ワクチンはありません。

 

Q8. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)に対する治療法はありますか?

新型コロナウイルス(MERS-CoV)によって起こる病気への特異的な治療方法はありません。患者の症状に合わせて治療を行うことになります。支持療法も非常に有効と考えられます。

 

Q9. 感染するのを避けるために何かできることがありますか?

正確には、どのようにして人間が感染するかわかっていません。ウイルスの感染源も感染経路も分かっていないので、感染予防について明確な助言をすることはできません。しかし、呼吸器感染を予防するための賢明な方法は、症状(咳やくしゃみ)がある患者さんとの濃厚接触をできるだけ避け、手指衛生を保つことです。他に有効な予防策は、未加熱又は加熱不十分な肉、未洗浄の果物や野菜、殺菌された水を使わずに作られた飲料を避けることです。旅先で病気になった時は、症状がある期間他の人と濃厚な接触を避け、例えば、咳やくしゃみをする時には、袖や肘を曲げて口に当てたり、医療用マスクやティッシュペーパーで口を覆ったりし、使ったティッシュペーパーは使用後すぐに密閉できるゴミ箱に捨てるなど、呼吸器衛生を行う必要があります。

ウイルスに感染する可能性は少ないですが、次の基準を満たす人はできるだけ早く医師の診断を受けるべきです。

-他の病気やウイルスで説明が付かない呼吸困難を起こしている者で、最近中東へ行ったことがある者。

-患者が免疫不全を有している者で、最近中東へ行ったことがある場合には、病気の種類に関わらず直ちに医師の診察を受けるべきです。

 

Q10. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)に感染した人は何人いますか?

症例についての最新の情報は次のサイトをご覧ください(英語)。 http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/.

 

Q11. 医療従事者は新型コロナウイルス(MERS-CoV)の感染リスクに曝されていますか?

はい。感染が医療機関で起こっており、患者から医療従事者へ広がっています。WHOは医療従事者の方々は、常に適切な感染制御対策を実施する様に勧めます。 次のサイトをご覧ください。http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/prevention_control/en/index.html.

 

Q12. 新型コロナウイルス(MRES-CoV)はSARSに似ていますか?

SARSは2003年に発見されたコロナウイルスの1つで、新型コロナウイルスと遠縁にあたります。しかし、両方のウイルスとも重篤な感染症を引き起こしえますが、今分かっている情報では、両者には決定的な違いがあります。なによりも、SARSウイルスがより感染伝播しやすかったことに比べて、新型コロナウイルスはヒトの間で簡単に感染が広がる様子を示してはいません。

 

Q13. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)はコウモリ由来ですか?

コウモリ由来の可能性がありますが、このウイルスの由来はまだ確認されていません。

 

Q14. 動物からヒトに感染しますか?

現時点では、動物との接触でヒトが感染したという証拠はありません。

 

Q15. 新型コロナウイルス(MERS-CoV)の出現にWHOはどのような対応をとっていますか?

このウイルスの出現以来、WHOは国際保健規則に従って、加盟各国へ情報提供を行ってきました。WHOは関係各国や国際的な協力機関と協力して、地球規模の健康危機管理を調整しています。具体的には、現在までに分かっている新型コロナウイルスとヒトの感染者についての情報に基づいて、最新の状況の更新、保健当局や保健に関する専門機関へ暫定的なサーベイランス方法についての指導、患者の検査診断、感染管理、患者管理などを行っています。WHOは引き続き加盟各国および国際的な協力機関と情報が提供され次第共有していきます。

 

Q16. WHOが各国に推奨している活動は?

WHOはすべての加盟国に対して、重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランスの強化と、SARIや肺炎の発生状況に異常がないか注意深く検討するように勧奨しています。WHOは、新型コロナウイルスの感染の可能性がある、あるいは確認された患者について、WHOに届け出るあるいは確認することを強くお願いしています。サーベイランスのための最新の提言がWHOのウェブサイトでご覧になれます。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/index.html.

 

Q17. この新型ウイルス(MERS-CoV)に関して、現在WHOは渡航や貿易の制限を勧告していますか?

いいえ、出していません。WHOは、新型コロナウイルス(MERS-CoV)に関して渡航や貿易が制限されるようには勧奨しておりません。WHOは、さらなる情報が入手でき次第、すべての勧奨を再検討していきます。

2012年新型コロナウイルス(nCoV)の概要と文献に関する更新(2013年5月17日)

Novel coronavirus summary and literature update – as of 17 May 2013

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/update_20130517/en/index.html

2013年5月8日更新版はこちら

世界保健機関(WHO)

 日本語訳:国立感染症研究所感染症疫学センター

 

2012年4 月以来、40例の新型のコロナウイルス(nCoV)ヒト感染の検査診断例が発生した。発生地域はヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを含む中東の国々である。欧州からもフランス、ドイツおよび英国から報告されている。すべて中東との直接または間接的な関係がある。フランスおよび英国では直近に中東からやってきた者に接触したが、本人は中東への渡航歴を有さない者の間での濃厚接触による限局的な感染が見られた。

 

直近の報告は2013年5月10日に発症した。患者の多くは男性で(79%、性別の報告された39名中31名)、年齢は24歳から94歳(中央値56歳)であった。すべての検査確定例は呼吸器疾患を来たし、ほとんどは入院の必要な重症急性呼吸器症状を示した。報告されている臨床的特徴には急性呼吸速迫症候群(ARDS)、血液透析を要する腎不全、消費性凝血障害、心膜炎が見られた。多くの症例は下痢などの消化器症状も来たした。免疫不全を伴った一例は発熱、下痢と腹痛を訴えたものの当初は呼吸器症状を示さず、レントゲン写真で偶然に肺炎が見つかった。40例中20例が死亡した。

 

 2013年4月6日以来、21症例がサウジアラビア東部のAl-Ahsa地区にて確定され報告された(男性16、女性5、年齢中央値56歳)。9例が死亡し、6例は依然として重症である。殆どの症例に少なくとも一つの基礎疾患があった。当初の症例の大多数はAl-Ahsaにある一つの医療機関と関連していた。引き続き見つかった症例はこの医療機関の患者ではなかった。当該医療機関と関連した症例の家族3例、およびこの医療機関とは関係ないものの確定症例と接触した2人の医療従事者が感染した。この医療機関の症例とリンクの辿れない2症例が地域内で確認された。発生源に関する調査は進行中ではあるが、早期の情報では、発症前に動物と接触していた症例はごくわずかである。

 

 2013年5月8日以降、フランスから2例の報告があった。最初の症例はアラブ首長国連邦のドバイで9日間の休暇を過ごしたのち発症した。2例目は5月12日に報告され、最初の症例と医療機関で病室が一緒だった症例である。最初の症例と旅程を同行した者や、この2例と濃厚接触した者から更なる症例を探す調査が進んでいるところだが、現時点ではあらたな症例は見つかっていない。症例から最初に取られた鼻咽頭スワブは陰性だったが、気管支肺胞洗浄液からはnCoVが陽性だった。

 

 これまで報告された集積症例はすべて家族内接触者か、医療施設内で発生している。ヒト-ヒト感染は少なくともこれらの集積症例のうちいくつかで発生したが、正確な伝播様式はわかっていない。集積症例を超えた地域内での持続した感染の証拠は今のところ見られていない。

 

前回の更新以降に出版された査読付き論文

ウイルス命名国際委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses )のコロナウイルス研究グループ(Coronavirus Study Group)はこの新型のコロナウイルスの名称を中東呼吸器症候群コロナウイルス(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus; MERS-CoV)と提案した。

参照:

Reference: De Groot RJ, et al. Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV): Announcement of the Coronavirus Study Group. J Virol. Published ahead of print 15 May 2013. doi:10.1128/JVI.01244-13.

 

アセスメントの概要

nCoVの起源は動物と考えられており、ヒトへは散発的に感染するがその経路は今のところ不明と考えられている。しかし、ヒトの間でウイルスが伝播しうることは確かである。今のところ、ヒト-ヒト感染は医療機関内や家族内の濃厚接触でのみ認められ、地域内での持続した感染は見られていない。大きな集積症例の一部ではなく、動物への接触歴もない症例が持続して発生していることから、地域内で伝染が起こることへの危惧が増している。この可能性についてはサウジアラビア当局が調査を行っている。

 

感染した患者に接触した2人の医療従事者が感染したこと、および院内感染の事案が複数あることから、細心の注意を払って感染防止対策を順守することが、nCoVが疑われた時には当初の患者ふるい分けの段階から重要である。現時点での感染対策の推奨は以下にて入手可能である。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/.

 

症例の多くが併存疾患を有することから、基礎疾患によって感受性が高まることが感染に関係している可能性がある。さらに、免疫不全の患者では、nCoVの感染が非典型的に、呼吸器症状を初期は伴わずに起こる可能性が示された。

 

十分な根拠はないものの、鼻咽頭スワブによる検査は下気道からの検体に比べて感度が低いことが示唆されている。下気道の検体は、入手可能な場合には、鼻咽頭スワブに加えて使用されるべきである。鼻咽頭スワブの検査で陰性の場合には、喀痰や気管内吸引物、あるいは気管支肺胞洗浄液などの下気道の検体による検査を考慮するべきである。臨床家はどんな種類のものであっても呼吸器検体を採取する際、厳密な感染予防と管理のガイドラインを注意深く守るべきである。

 

このところ症例が増加しているのは一部には医療従事者間の関心の高まりによるかもしれないが、このウイルスがヒトの間で感染し大きな流行を起こしうることが示されたため、持続した感染の可能性についての懸念も高まっている。中東の国々は特に警戒レベルを高く、疑い症例を検査する閾を低く維持するべきである。現行のサーベイランスの推奨は以下にて入手可能である。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/.

(訳者註:上記の訳出は以下のページを参照)

http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2013/03221422.html

 

世界保健機関(WHO)は、症例は引き続き発見されると考えている。本疾患を管理するには可及的速やかに多部門間で協力した調査を行い、ウイルスの起源と感染を引き起こす曝露を同定することを目指す必要がある。加盟国が症例や関連した情報を喫緊にWHOへ報告し、国際的な警戒、準備および対応を有効に取るべく情報共有することは、国際保健規則において求められている通り最重要である。

 

 

国内で市販されているインフルエンザ迅速診断キットの鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する反応性について

平成25年5月23日現在
国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター

 

2013年3月31日に鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人への感染例が初めて中国で報告された1), 2)。4月24日には、中国江蘇省帰りの患者が台湾にて発症し輸入感染例として世界で初めて報告された3)。世界保健機関(WHO)の集計によると、2013年5月16日現在、中国における感染者数は131人、死亡者数は32人となっている4)。現在、日本国内では、このウイルスへの感染者は確認されていない。日本では、4月16日頃から、全国74か所の地方衛生研究所および16か所の検疫所において、A(H7N9)ウイルスに対するPCR遺伝子診断の実施が可能になっている。しかし、臨床現場では、インフルエンザの診断のための検査としてインフルエンザウイルスのNP抗原を検出する迅速診断キットが多用されているため、国内で市販されているインフルエンザ迅速診断キットの鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する反応性について以下の検討を行った。

 

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滋賀県で初めて確認されたジフテリア症状が認められたジフテリア毒素産生Corynebacterium ulcerans感染症例

(IASR Vol. 34 p. 143: 2013年5月号)

 

2001年の千葉県での発生例以来、本邦でもCorynebacterium ulcerans のヒトにおける感染症例が散見されるようになった。C. ulcerans は、人獣共通感染症を起こす細菌であり、これまでの本邦での報告例ではペットからの感染が疑われる生活歴を背景に持つ症例が多い。

症例:57歳女性

既往歴:特記事項無し

家族歴:夫と2人の息子が同居

生活歴:家の内外を出入りする猫14匹と犬7匹、および飼育小屋にヤギ2匹を飼育している。

現病歴ならびに治療経過:2011年某日より38℃の発熱と咽頭痛を自覚し、感冒薬を服用したが改善がみられず、近医内科を受診した。発症2日目に症状が悪化したため再診し咽頭炎として当院紹介となり、高熱と摂食不良のため緊急入院となった。初診時、咽頭粘膜に偽膜形成が認められ、鼻咽頭と咽頭から検体が採取された。培養検査の結果、グラム陽性桿菌が検出された。分離された菌は細菌学的検査によりジフテリア毒素を産生するC. ulcerans と同定された。

エリスロマイシン(EM)点滴治療を約1週間行い、症状および咽頭所見は改善し退院となった。退院後もしばらく外来で内服加療した。現在再燃なく経過している。

入院中にペットに関する問診を行ったところ、家の内外を出入りする猫14匹、犬7匹、飼育小屋にヤギ2匹を飼育していることが判明した。

細菌学的検査:分離されたC. ulcerans 菌株を解析したところ、PCR法によりジフテリア毒素遺伝子が検出され、培養細胞法でジフテリア毒素産生性が確認された。

考 察C. ulcerans は1928年にGilbert とStewart によって発見され、ヒトにはジフテリア症状をきたす感染症の原因菌として海外では比較的よく知られている感染症である。海外での本菌による症例報告では、人獣共通感染症として、牛や羊との接触や、その非加熱処理の乳製品から、また愛玩動物からの接触感染報告がある。今回の症例では、患者の自宅では、多数の犬、猫さらにヤギを飼育していたが、14匹の飼い猫のうち3匹と飼育しているヤギからCorynebacterium 属菌が検出されたが、C. ulcerans は分離されなかった。

厚生労働科学研究班の報告によると、保健所に収容されたイヌや飼いネコの咽頭ぬぐい液の検査でC. ulcerans の分離、もしくはジフテリア毒素遺伝子の検出を確認しており、大分県での調査では9.8%(92例中9例)、愛媛県での調査では5.0%(101例中5例)が陽性であったと報告されている。

本症例では、飼育している動物からC. ulcerans の分離はできなかったものの、感染源として飼育動物の可能性が高いと考えられた。本症例のように咽頭偽膜形成に代表されるジフテリア症状が認められた場合は、動物の飼育に関する生活環境について問診を行い、C. ulcerans 感染症を疑うことが重要と思われた。

 

大津赤十字病院・耳鼻咽喉科、検査部細菌室
   廣瀬知子 寺田裕美
滋賀県衛生科学センター
     河野智美 石川和彦
国立感染症研究所細菌第二部
     山本明彦 小宮貴子

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チフス菌および腸管外から分離されたサルモネラ属菌におけるフルオロキノロン系抗菌薬のCLSI判定基準(ブレイクポイント)について

(IASR Vol. 34 p. 143-144: 2013年5月号)

 

2012年のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)ドキュメントにおいて、チフス菌および腸管外から分離されたサルモネラ属菌(以下、チフス菌等)のフルオロキノロン(ニューキノロン)系抗菌薬に関する記載が改訂され、治療効果を判断するための新たな最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration: MIC)の判定基準(ブレイクポイント)が引き下げられた。これまでシプロフロキサシン(CPFX)では、MIC値4mg/L以上で耐性、2mg/Lで中間、1mg/L以下で感受性と判断されていたが、変更後は1mg/L以上で耐性、0.12~0.5mg/Lで中間、0.06mg/L以下で感受性となった()。

従来、ニューキノロン系抗菌薬に対して感受性であっても、ナリジクス酸に対して耐性を示すチフス菌等による感染症に対し、ニューキノロン系抗菌薬治療は無効か効果が弱いとされている。こうした株の多くは旧ブレイクポイントでは感受性となることから、ニューキノロン低感受性菌と呼ばれており、CLSIではナリジクス酸を用いたスクリーニングを推奨していた(CLSI2011)。今回のブレイクポイントの改訂により、CPFX低感受性菌の多くは耐性もしくは中間となると推測される。

国立感染症研究所細菌第一部では、チフス菌およびパラチフスA菌のファージ型別と併せて感受性試験を実施しております。本年4月以後の菌株についてはCLSI2012の基準に従うこととし、CPFX非感受性(耐性もしくは中間)として報告いたしますので、よろしくお取り計らいのほど願い上げます。

 

国立感染症研究所細菌第一部
     森田昌知 泉谷秀昌 大西 真

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