鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症に対する院内感染対策

(2013年5月17日現在)

国立感染症研究所感染症疫学センター

 

はじめに

 本稿では、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染の疑似症患者と患者(確定例)に対して行う院内感染対策の概要について、これまでに明らかになっている情報に基づいて記載する。
 なお、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の疑似症患者と患者(確定例)の指定感染症としての届出基準は以下のとおりである。疑似症患者については、院内感染対策は患者(確定例)と同等のレベルで対応する。
「疑似症患者」とは、以下を満たすものである。
38℃以上の発熱と急性呼吸器症状があり、症状や所見、渡航歴、接触歴等から鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症が疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、H7亜型が検出された者。

 

この場合において、検査材料は、同欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

 

検査方法 検査材料
検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出 喀痰、鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、気道吸引液、肺胞洗浄液、剖検材料
分離・同定による病原体の検出
 患者(確定例)とは、「擬似症患者」のうち国立感染症研究所において鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症と確定されたものである。

 

鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の疑似症患者、患者(確定例)に対して推奨される院内感染対策

  • 外来では呼吸器衛生/咳エチケットを含む標準予防策を徹底し、飛沫感染予防策を行うことが最も重要と考えられる。入院患者については、湿性生体物質への曝露があるため、接触感染予防策を追加し、さらにエアロゾル発生の可能性が考えられる場合(患者の気道吸引等の処置等)には、空気感染予防策を追加する*。
    *具体的には、手指衛生を確実に行うとともに、N95マスク、手袋、ゴーグル等の眼の防護具、ガウン(適宜エプロン追加)を着用する。
  • 入院に際しては、陰圧管理できる病室もしくは換気の良好な個室を使用する。個室が確保できず複数の患者がいる場合は、同じ部屋に集めて管理することを検討する。
  • 患者の移動は医学的に必要な目的に限定し、移動させる場合には可能な限り患者にサージカルマスクを装着させる。
  • 衣類やリネンの洗濯は通常の感染性リネンの取り扱いに準ずる。
  • 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の疑似症患者または患者(確定例)と必要な感染防護策なしで接触した医療従事者は、健康観察の対象となるため、保健所の調査に協力する。なお、必要な防護なく接触した医療従事者には抗インフルエンザ薬の予防投与を考慮し投与期間は最後の接触機会から10日間とする。

推奨される院内感染対策の根拠

海外において発生した鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症については、発生国においてその発症者と接触者(医療従事者を含む)を対象とした疫学調査が行われている。現時点では、感染源と感染経路は不明であるものの、持続的なヒト-ヒト感染は確認されていない。ただし、濃厚な接触者の間で限定的なヒト-ヒト感染が生じている可能性は否定できない 1)。潜伏期間については、今のところ不明であるが、動物との接触歴の詳細が確認された23例では潜伏期が中央値で6日(範囲1~10日)であったと報告されている2)
鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスに対する必要な感染予防策として、現時点では手指衛生やPPE着用を含めた標準予防策に加えて、飛沫感染予防策を行う(入院患者については接触感染予防策も行う)ことがもっとも重要と考えられる3)。しかしながら、現状では感染様式に関する知見が乏しいことから、より確実に感染対策を行うために、状況に応じて空気感染予防策を適用することが妥当と考えられる。
これらは現時点での暫定的な推奨であり、今後得られる情報に応じて適宜改訂していくものである。


<文献>

1) Emergence of Avian Influenza A(H7N9) Virus Causing Severe Human Illness — China, February–April 2013. http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6218a6.htm

2) Li Q, Zhou L, Zhou M, et al. Preliminary Report: Epidemiology of the Avian Influenza A (H7N9) Outbreak in China. N Engl J Med. 2013 Apr 24. [Epub ahead of print]

3) Infection prevention and control of epidemic- and pandemic-prone acute respiratory diseases in health care http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/WHO_CDS_EPR_2007_6/en/index.html

 

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