(IASR Vol. 34 p. 144-145: 2013年5月号)
2012年9月~2013年1月のインフルエンザの活動:インフルエンザの活動はこの期間中に、アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアから報告された。A(H1N1)pdm09ウイルス〔以下、A(H1N1)pdm09〕の活動は、アフリカ、アジア、中南米およびヨーロッパの一部の国を除き、概して低かった。A(H3N2) 亜型ウイルス〔以下、A(H3N2)〕は、北アメリカのほとんど、北アフリカとアジアの一部、および当該時期の早い段階ではヨーロッパのいくつかの国と中国で優勢であった。B型ウイルス(以下、B型)は、世界の多くの地域で活動が報告され、一部の国々で優勢な型となっていた。
動物由来のインフルエンザウイルス〔A(H5N1), A(H3N2) variant (v), A(H1N1)v, A(H1N2)v, A(H7N3), A(H9N2)〕感染:2011年9月19日~2012年2月15日に、A(H5N1) ウイルスのヒト感染例が、養鶏所での高病原性インフルエンザA(H5N1)がみられているカンボジア、中国、エジプト、インドネシアから15例(うち死亡8例)報告された。2003年12月からの累計では、15カ国から620例(うち死亡367例)が報告されている。
A(H3N2)vは2012年11月以降、米国で1例が検出され、2011年8月から累計で 321例(うち死亡1例)が確定診断された。現時点で継続したヒト-ヒト感染は確認されていない。
A(H1N1)v、A(H1N2)v、A(H7N3)およびA(H9N2)は2012年9月19日~2013年2月18日の期間には認められなかった。
最近の分離株における抗原性および遺伝学的特徴:
A(H1N1)pdm09:2012年9月~2013年1月に世界中で検出されたA(H1N1) 亜型ウイルスのすべてがA(H1N1) pdm09であった。免疫フェレット血清を用いたHI試験では、抗原性は均一であり、ワクチン株であるA/California/7/2009に類似していた。HA遺伝子配列の解析では、抗原的に区別できないいくつかのクレードに分けられた。流行しているウイルスの大多数はクレード6と7に属し、HAのS185TとS451Nの変異を伴う。
A(H3N2):2012年9月~2013年1月に収集されたウイルスの多くは、HI試験による抗原性が細胞培養ワクチンの参照株であるA/Victoria/361/2011 と卵および細胞培養参照株のA/Texas/50/2012 に類似していた。直近のサンプルのHA遺伝子の多くは系統的にクレード3Cに分類され、他は3A、3B、5、6となるが、これらのほとんどは抗原的にはHI試験と中和試験で区別されない。
B型:B/Victoria/2/87(Victoria系統)とB/Yama-gata/16/88(山形系統)の両方が流行しており、山形系統が継続して増加しつつある。Victoria系統ウイルスの大多数は、HA遺伝子配列の解析で多くがB/Brisbane/60/2008のクレードに分類され、抗原性も現在のワクチン株であるB/Brisbane/60/2008と類似していた。山形系統ウイルスの大多数はほとんどがクレード2または3に属し、クレード2が顕著に増加していた。これらのクレードのウイルスの多くはHI試験で抗原的に区別された。
抗インフルエンザウイルス薬への耐性:
ノイラミニダーゼ阻害薬:A(H1N1)pdm09では、大多数がオセルタミビル感受性であった。少数の耐性ウイルスのうちいくつかは予防ないし治療投与と関連していた。耐性ウイルスのすべてはH275Y変異によるもので、すべてザナミビルに感受性であった。A(H3N2)およびB型は、すべてがオセルタミビルとザナミビルに感受性であった。ペラミビルとラニナミビルに対しては、少数の株が検査されたが、すべて感受性であった。
M2阻害薬:A(H1N1)pdm09とA(H3N2) のM遺伝子配列の解析では、アマンタジンやリマンタジンといったM2阻害薬への耐性に関与するM2蛋白のアミノ酸置換(S31N変異)が、検査されたウイルス株のうちA(H3N2) の1株を除いたすべてに認められた。
不活化インフルエンザワクチンに関するヒト血清研究:最近の分離ウイルス株に対する抗体保有状況ついて、現行のワクチン株を含む3価不活化インフルエンザワクチンを接種された小児、成人、高齢者由来の血清を用いて、HI試験〔A(H3N2) については中和試験も〕により測定した。
A/California/7/2009抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株によるものと最近のA(H1N1)pdm09株によるものの多くが同等であった。
A/Victoria/361/2011 抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、鶏卵培養A(H3N2)株によるものと比較して、最近の細胞培養A(H3N2) 株によるもののほうが低下していた。
B/Wisconsin/1/2010類似の抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株によるものと最近の山形系統株によるものの多くが同等であった。ただし、クレード3に比較してクレード2に対しては有意な低下がみられるものがあった。最近のVictoria系統株に対しては低かった。
(WHO, WER, 88, No.10, 101-114, 2013)
(IASR Vol. 34 p. 145: 2013年5月号)
ペットのハリネズミとの接触と関連した、パルスフィールド電気泳動で、接触したペットのハリネズミに直結するパターンを示すSalmonella Typhimuriumの株の流行について調査を行った。この流行株はもともと稀で、食中毒の分子疫学サーベイランスであるPusle Net で2002年から年に1~2症例の報告がある程度だった。2011年から一変し、同年に14例、2012年に18例、2013年にすでに2例の報告がある。2012年1月からの20例は8つの州にまたがり、年齢は多様(1歳未満~91歳、平均13歳)。4例が入院し、1例死亡。回答のあった15例のうち14例は、発症の直前の週にハリネズミとの接触歴があった。ほとんどのハリネズミはアメリカ農務省の許可を得た飼育業者から購入されたものだった。
サルモネラ症は食中毒として起こることが最も多いが、感染した動物や環境から感染することもあり、ペットのハリネズミと関連していたことがある。直接接触するだけでなく、飼育カゴや家具などを介することもある。5歳以下の小児、老人や免疫不全者は重篤化するリスクがある。ハリネズミの世話をした後、特に食事前には石鹸と流水で手を洗うべきで、カゴなどの飼育用具は屋外で洗浄する必要がある。
(CDC, MMWR, 62, No.4, 73, 2013)
(IASR Vol. 34 p. 141-142: 2013年5月号)
国内におけるインフルエンザウイルスの流行は、現時点 (2013年3月29日) ではまだ終息していないが、これまでに明らかになった流行株の抗原性および薬剤耐性株の検出状況について、途中経過を報告する。
1.流行の概要
2012/13インフルエンザシーズンは、国内ではA(H3N2) ウイルスが流行の主流である。2013年3月29日時点の総分離・検出数4,533株における型/亜型分離・検出比は、AH1pdm09亜型が2%(93株)、AH3亜型が85%(3,861株)、B型が13%(579株)であった。B型はYamagata系統とVictoria系統の2系統があるが、今シーズンも両系統の混合流行で、その割合は3:2で、山形系統による流行がやや優位であった。
2.流行株の抗原性について
1)インフルエンザワクチンは発育鶏卵で分離培養されたウイルス株を元に製造される。しかし、近年のA(H3N2)およびB型ウイルスは、発育鶏卵で分離培養すると抗原部位および糖鎖付加部位にアミノ酸置換が起こり、ヒトの臨床検体中に存在したウイルスとは顕著に抗原性が変化する傾向がある(IASR 33: 297-300, 2012参照)。それに対して、イヌ腎上皮細胞由来のMDCK細胞による分離培養では、ウイルスが抗原性の変化を起こす頻度は少なく、ヒトの臨床検体中のウイルスの抗原性を維持する。そこで、国立感染症研究所(感染研)では流行株の抗原性をより正確に評価するために、MDCK細胞分離株に対するフェレット感染血清を主に用いて抗原性解析を実施している。
2)2012/13シーズンに全国の地方衛生研究所(地研)で分離されたウイルス株は、各地研において、感染研からシーズン前に配布された同定用キット[A/California/7/2009(H1N1)pdm09、A/Victoria/361/2011 (H3N2)、B/Wisconsin/1/2010(Yamagata系統)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)]を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によって、型・亜型・B型の系統の同定が行われ、感染症サーベイランスシステム(NESID)にそれらの情報が登録された。感染研では、NESID経由でこれら国内分離株の情報を収集し、地研で分離・同定されたウイルスの中からAH1pdm09:100%(54株)、AH3:10%(225株)、B Yamagata系統:50%(126株)、B Victoria系統:50%(84株)について地研から分与を受けた。それら分離株の抗原性状をワクチン株に対するフェレット感染血清を用いたHI試験により解析した。
現時点までに解析した流行株は、2012/13シーズンのワクチン株であるA/California/7/2009 (H1N1)pdm09、A/Victoria/361/2011 (H3N2)、B/Wisconsin/1/2010(Yamagata系統)に抗原性が類似した株が、それぞれ95%、98%、100%を占め、いずれの型・亜型においてもワクチン類似株が流行の主流であった(図1)。一方、B型Victoria系統については、解析した流行株の100%が2011/12シーズンに使われたワクチン株B/Brisbane/60/2008に抗原性が類似していた。
3.薬剤耐性株の検出状況
国内で分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス44株、A(H3N2)ウイルス133株、B型ウイルス58株についてオセルタミビル(商品名タミフル)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)、ザナミビル(商品名リレンザ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する感受性試験を行った。その結果、オセルタミビルおよびペラミビルに対して交叉耐性を示すA(H1N1)pdm09ウイルスが2株検出された。これら2株は、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持していた。また、薬剤耐性株の地域への拡がりは確認されていない。
以上の結果から、現時点 (2013年3月29日) では、感染研インフルエンザウイルス研究センターが解析した今シーズンの流行株の大半は、A型、B型ともワクチン株と抗原性がよく一致していたことが示された。
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室 ・WHOインフルエンザ協力センター
岸田典子 徐 紅 高下恵美 藤崎誠一郎 今井正樹 伊東玲子 佐藤 彩 土井輝子 江島美穂 金 南希 菅原裕美 小田切孝人 田代眞人
地方衛生研究所インフルエンザ株サーベイランスグループ
(2013年2月21日~2013年4月20日受理分)
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(Vol. 34 p. 145: 2013年5月号) |
国立感染症研究所細菌第一部第二室 |
(IASR Vol. 34 p. 123-124: 2013年5月号)
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、感染症法および食品衛生法のそれぞれに基づいた2通りの報告がなされている。感染症法では3類感染症として、診断した医師の全数届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。また、医師から食中毒として保健所に届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には食品衛生法に基づき、各都道府県等において調査および厚生労働省への報告が行われる。さらに、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所感染症疫学センター(IDSC)に報告している。国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行いパルスネットで情報提供している(本号17ページ)。
感染症発生動向調査:2012年にはEHEC感染症患者2,362例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される) 1,406例、計 3,768例のEHEC感染者が報告された(表1)。2012年の報告数は、例年同様夏季にピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別報告数は佐賀(9.21)が最も多く、岡山(8.71)、岩手(8.14)がそれに次いだ(図2左)。2012年の感染者は例年同様0~4歳が最も多く、5~9歳がこれに次いだ(図3)。0~4歳について人口10万対報告数を都道府県別にみると、岡山、鹿児島、宮崎が多かった(図2右)。例年同様有症者の割合は男女とも若年層と高齢者で高く、30代、40代、50代では低かった(図3)。
また、溶血性尿毒症症候群(HUS)症例は94例あり(抗体検出例を含む)、有症者のうちで 4.0%であった(本号18ページ)。HUS 症例70例から菌が分離され(血清群はO157が58例、O111が4例、O26が2例、O145が2例、O25、O165、O174、O183が各1例)、VT2 陽性株(VT2単独またはVT1&2)は、菌分離70例中、66例(94%)であった。届出時およびその後に情報が得られた死亡例は15例(うちHUS 発症3例、脳症2例)あった。
地研からのEHEC検出報告:2012年のEHEC検出数は1,957であった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現行システムでは医療機関や民間検査機関で検出された株が地研に一部しか届かないことによる。全検出数における上位3位のO血清群の割合は、O157が53%、O26 が27%、O103が 5.2%であった(本号3ページ)。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2012年も例年同様O157ではVT1&2 が68%を占めた(1997~2011年は53~78%)。O26 ではVT1 単独が94%で、O103ではVT1 単独が97%であった。O157が検出された1,040例中、不詳を除く 973例の主な症状は腹痛64%、下痢62%、血便46%、発熱21%であった(本号3ページ)。
集団発生:2012年に地研からIDSCに報告されたEHEC感染症集団発生は23事例あり、うち6事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の16事例を表2に示す。5事例では伝播経路が食品媒介と推定され、10事例では人→人感染と推定された。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2012年のEHEC食中毒は17事例、患者数398名(菌陰性例を含む)であった(2011年は25事例714名)(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html)。
2012年には、野菜の浅漬を原因食品とするEHEC O157集団食中毒事例が発生した(本号4&5ページ)。本事例は、札幌市等における、主に高齢者施設での発生であったが、原因食品がスーパーやホテル、飲食店にも流通していたため、169名の患者が発生し8名が死亡した。
予防と対策:EHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本を守り、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないことが重要である(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html)。牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚生労働省では生食用食肉の規格基準を見直し、2011年10月より告示第321号が施行されている(http://www.mhlw.go.jp/stf/kinkyu/2r9852000001bbdz.html)。また、牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから、2012年7月より告示第404号を施行し、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した。生食用食肉の規格基準改正と生食用牛生レバーの提供禁止により、生肉・生レバーの喫食が原因と推定されるO157感染事例の報告数は2011年以降に減少した(本号7ページ)。
厚生労働省はさらに、漬物によるO157の集団発生を受けて、漬物の衛生規範を改正した(食安監発1012第1号、平成24年10月12日)(本号6ページ)。
EHECは赤痢菌同様、微量の菌でも感染が成立するため、人→人の経路で感染が拡大しやすい。2012年も保育所での集団発生が複数発生しており(表2)、その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02_1.pdf)。さらに、家族内感染を低減させるため、保健所等は、患者の家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。
2013年速報:本年第1~15週までのEHEC感染者届出数は188例である(表1)。夏季にはEHEC感染症の増加が予想されるので、今後一層の注意が必要である。
国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる(参考図)。 |
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国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局 |