英国、米国でアデノウイルスが多くの症例から検出されているが、原因については各国で引き続き幅広く調査中である。 英国で最も多く検出された病原体はアデノウイルス、次いでSARS-CoV-2であった。英国では251例に対してアデノウイルスの検査が実施され、170例(67.7%)が陽性であった。アデノウイルスがこれらの症例で最も検出頻度の高いウイルスであることから、肝炎との関連が疑われている(UKHSA, 2022b)。また、SARS-CoV-2の検査は196例で実施され、34例(17.3%)から検出されているが(UKHSA, 2022c)、イングランドの症例ではデータの得られた162例中16例(9.7%)と英国全体と比較して低い割合となっている(UKHSA, 2022b,c)。米国では224例でアデノウイルスの検査が実施され、100例(45%)でアデノウイルスが陽性であり、うちアデノウイルスの型の判定が実施された13例からは、41型が6例、C1型が1例から検出された。また、36例の肝臓組織の病理学的検査では25例で急性肝炎の所見が見られたが、ウイルス封入体やウイルス粒子は確認されなかった(Cates J. et al., 2022)。アデノウイルスに関連して、異常な免疫反応が起きた、通常より大きな流行が起きたことにより稀な合併症が多く見られるようになった、他の感染症の既感染もしくは重複感染による異常な免疫反応が起きた、など複数の可能性が指摘された(UKHSA, 2022d)。 英国での分析では、限られた検体ではあるものの、メタゲノム解析によりアデノウイルス随伴ウイルス2(AAV2)との関連が示唆されており(UKHSA, 2022b,c,d)、その後、2022年に把握された事例の中から、3報の症例対照研究が報告され、いずれも症例群において、アデノウイルスなど他のウイルスの共感染のもとでのAAV2の存在との関連が示唆された(Ho et al., 2023, Morfopoulou et al., 2023, Servellita et al., 2023)。ただし、AAV2はこれまで疾患との関連に直接結びつくとは考えられておらず、これら3報の中でも、免疫反応の影響の可能性が示唆されている。具体的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う学校等の閉鎖などにより、小児がさまざまな環境に曝露する機会が減少したことに伴い、本来であれば影響のない感染でも大きな反応を惹起してしまう可能性がある。これらの報告でAAV2の存在は指摘されたものの、そのAAV2が肝炎を引き起こす原因、と結論が示されたわけではないことに留意すべきである。引き続き、各国でウイルス以外も含めた複数の可能性について、調べられていくものと考えられる。なお、英国においては2022年7月以降、新規症例数の減少も受けて、研究の枠組みにより探索を続けることが示されている(UKHSA,2022b)。
英国では、小児の肝炎やアデノウイルス40/41型感染症が多く、またAAV2の検出が一部で指摘された一方、米国ではいずれの増加等も見られていない。 英国では、2021年と比較して、2022年は1-4歳で小児の肝炎の増加が報告されており、またCOVID-19流行以前と比較して、1-4歳の小児の糞便からのアデノウイルスの検出が増えていたとの報告がある(UKHSA, 2022b,c,d)。一方、米国内の救急外来の受診データ、臓器移植ネットワークなどから、小児の肝炎の発生状況及びアデノウイルス40/41型の糞便からの検出割合を、①2021年10月から2022年3月までと➁COVID-19流行以前とで比較した報告では、原因不明の肝炎または肝移植に関連する小児の救急外来受診に変化は見られず、また0-4歳、5-9歳のいずれの年齢群でも、アデノウイルス40/41型の検出増加は見られなかった (Kambhampati Et al., 2022)。ただし、いずれの報告もCOVID-19流行による受診行動への影響を考慮していないこと、使用されている受診や検査のデータが各国の全ての地域を網羅していないことなどから、小児の肝炎やアデノウイルス感染症の流行を同じ条件で比較することはできない。 特段の確定的な知見に至っていないが、英・米での事例の分析から、アデノウイルス、ヘルぺスウイルスなどの他のウイルスの共感染のもとでのAAV2の関与の可能性を示唆する報告がある(Ho et al., 2023, Morfopoulou et al., 2023, Servellita et al., 2023)。これらの報告では症例群でのAAV2の存在のほか、HHV6BやEBVなどの存在も症例群で有意に高いことを確認している。しかしながら、組織検体等の分析からは、これらの共感染のウイルスが疾患を引き起こしたのではなく、AAV2を増殖させた可能性が示唆された。さらに現時点においても、比較的高率に検出されていたアデノウイルスや他のウイルス同様、AAV2が今回の原因不明の肝炎の原因との結論に至っているわけではない。 英国は研究の枠組みにより探索を続けることとしているが(UKHSA,2022b)、AAV2の寄与の検証については適切に計画された調査が必要とも指摘されている(Tacke,2023)。我が国においてもAAV2と原因不明の肝炎の原因の関係性は研究の枠組みにより探索をする必要がある。
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Cates J. et al.. Interim Analysis of Acute Hepatitis of Unknown Etiology in Children Aged <10 Years - United States, October 2021–June 2022. MMWR. Morbidity and mortality weekly report. 2022. 71. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7126e1.htm.
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