国立感染症研究所

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タイからのB3型麻しんウイルス輸入例―福岡市

(IASR Vol. 34 p. 201-202: 2013年7月号)

 

2013年5月、タイからのB3型麻しんウイルス輸入例が確認されたのでその概要を報告する。

症例は32歳、男性。ワクチン接種歴は不明。4月7~18日にかけて,タイのバンコクに滞在。帰国後、東京で仕事を行い、4月21日から福岡に滞在。4月25日より40℃の発熱、4月26日より発疹(丘疹)が出現し、5月1日に福岡市内の医療機関を受診、入院した。初診時の症状として、体温39.7℃、全身の融合傾向を伴う丘斑疹、Koplik斑様の口内炎、上気道炎、頸部リンパ節腫脹、肝機能障害、下痢、血尿、蛋白尿が認められた。自然経過にて症状は軽快し、5月7日に退院した。5月1日に採取された血液の抗体検査では麻しんIgG 6.0、IgM 7.71で陽性であり、5月15日の再検査ではIgG 30.8、IgM 7.91とIgGの有意な上昇を認めた。

麻しんとして届出があったため、当所で麻しんウイルス遺伝子検査を実施した。検体は、5月15日に採取された尿・咽頭ぬぐい液・血漿・末梢血単核球細胞を使用した。病原体検出マニュアル記載のRT-PCR法によりHA遺伝子およびN遺伝子の検査を行った結果、HA遺伝子はすべて陰性であり、N遺伝子は、尿・咽頭ぬぐい液・末梢血単核球細胞が陽性であった。陽性であったN遺伝子の RT-PCR増幅産物を使用し、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した。得られた塩基配列について系統樹解析を行ったところ、B3型麻しんウイルスであることがわかった(図1)。

なお、報告されているB3型麻しんウイルスの遺伝子情報から、B3型麻しんウイルスHA遺伝子とHA遺伝子検出用MHR2プライマーとの相同性が低いため、HA遺伝子が増幅しなかった可能性が考えられた。そこで、MHR2プライマーを用いないSemi-nested PCR法を試みたところ、咽頭ぬぐい液・末梢血単核球細胞からHA遺伝子が検出された。今回のように、病原体検出マニュアルに記載された方法のいずれかの遺伝子が検出されない場合もあるので、HA遺伝子・N遺伝子検出系を併用することがより確実な診断につながると考えられた。

日本では、B3型麻しんウイルスが検出された報告は過去になく、本症例が初めてである。B3型は主にアフリカで流行している株であるが、近年はヨーロッパ・カナダ等からの報告も増えている1)。アジアでの報告は少なく、現在までにタイでの報告はない。しかし、今回の症例はタイへの渡航歴があり、潜伏期間を考慮すると、タイからの輸入例であると考えられ、タイでもB3型が存在している可能性があると推察された。

また、麻しんは非常に感染力が強く2次感染への注意が必要である。本症例では、症状発現後より入院まで1週間を要しており、その間2次感染のリスクがあったと推定されるが、帰国後、東京および福岡での接触者に発症者は出ていない。また、入院後より症状消失までは、個室隔離が行われており、入院後の2次感染のリスクは低かったと考えられた。

麻しんはワクチン接種率の向上により大幅に患者数が減少しているが、依然として輸入例は存在しているため、分子疫学調査により感染経路等を明らかにすることは今後の麻しん対策にとって重要であると考える。

 

参考文献
1) IASR 34: 24-25, 2013

 

福岡市保健環境研究所  
    梶山桂子 古川英臣 宮代 守 佐藤正雄
福岡市城南区保健福祉センター  
    伊藤孝子 酒井由美子
福岡市保健福祉局保健予防課  
    植山 誠 眞野理恵子 衣笠有紀
福岡大学病院 腫瘍・血液・感染症内科  
    戸川 温 高田 徹 田村和夫
国立感染症研究所ウイルス第三部第1室  
    駒瀬勝啓

最終更新日 2016年9月05日(月曜)13:10

参照数: 8374

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