風疹・先天性風疹症候群 2013年3月現在
(IASR Vol. 34 p. 87-89: 2013年4月号)
風疹は発熱、発疹、リンパ節腫脹を3主徴とするが、症状がそろわない場合が多く、よく似た発熱発疹性疾患も多いため、診断には検査診断が必要である。一方、風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、白内障、先天性心疾患(動脈管開存症が多い)、難聴、低出生体重、血小板減少性紫斑病等を特徴とする先天性風疹症候群(CRS)の児が生まれる可能性がある。感染・発症前のワクチン接種による予防が重要である(本号6、7、9&11ページ)。
感染症発生動向調査:風疹は従来、小児科定点による定点把握疾患であったが、2008年から5類感染症全数把握疾患になった(IASR https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/379/tpc379-j.html)。
風疹の全国流行は5年ごと(1982、1987~88、1992~93年)に認められてきたが、幼児に定期接種が始まった1995年度以降、全国流行はみられていない(IASR 24: 53-54, 2003, https://idsc.niid.go.jp/iasr/24/277/graph/f2771j.gif)。2004年に患者推計数 3.9万人の地域流行が発生した後、7年ぶりに、2011年から報告数が増加し始めた(図1)。2013年は第12週時点で、2012年1年間の報告数を上回った。未受診、未診断の存在を考慮すると(本号14ページ)、より多くの患者が発生していることが推察される。
都道府県別には大都市を含む都府県からの報告が多いが(図2、および本号15&16ページ)、週別に見ていくと、2013年は首都圏から全国へと流行が拡大していることがわかる(http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/2132-rubella-top.html)。
2013年の患者の年齢は、15歳未満が4.8%と少なく、15~19歳5.5%、20代28%、30代33%、40代21%、50歳以上8.0%で、成人が9割を占めた。男性は20~40代に多く、女性は20代に多い(図3)。2012年は男性が女性の3.0倍、2013年は第14週時点で3.7倍であり男女差は拡大した。予防接種歴は65%が不明で、29%が無かった。
風疹の定期予防接種制度の変遷:2012~2013年の流行は、1977年8月に女子中学生を対象に始まった風疹の定期接種制度の変遷で説明できる(表2)。
1994年に予防接種法が改正され、1995年度から、集団接種は医療機関での個別接種となり、義務接種は努力義務接種になった。さらに、生後12~90か月未満の男女幼児が対象になり、時限的に男女中学生も対象となった。保護者同伴の個別接種であったため、中学生の接種率が激減した(http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html)。
2006年度から、1歳と小学校入学前1年間の幼児に対する2回接種が始まった。また、2008~2012年度の5年間に限り、中学1年生と高校3年生相当年齢の者に2回目の定期接種が始まった。2006年度以降、使用するワクチンは原則、麻疹風疹混合ワクチン(以下、MRワクチン)となったが、高校3年生相当年齢の接種率は、流行中の自治体で特に低い(本号17ページ)。
国民の風疹に対する抗体保有率(感染症流行予測調査):全国14の地方衛生研究所の協力を得て、 5,094人の健常人の風疹の赤血球凝集抑制(HI)抗体価が測定された(図4)。抗体保有率(HI価8以上)は、小児では0歳で30%、1歳で上昇し、2歳以上では概ね90%以上であった。一方、成人では男性の30代(30代前半84%、30代後半73%)、40代(40代前半86%、40代後半81%)では、女性(97~98%)と比較して11~25ポイント抗体保有率が低かったが、20代(男性90%、女性95%)と50歳以上(男性88%、女性89%)では大きな男女差はなかった(本号19ページ)。妊婦健診でHI価16以下の低抗体価の者には、産後早期のワクチン接種が推奨されている(本号7ページ)。
風疹ウイルスと検査診断:風疹ウイルスはE1蛋白質の遺伝子解析によって13の遺伝子型に分類される。2004年の国内流行では1jが主流であったが、2012年以降検出されていない(本号5&13ページ)。2011年以降、南・東・東南アジアで流行中の2Bと1Eが国内に侵入し、これらが定着し拡大している(本号6、9、10、11&13ページ)(http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-rubella.html)。
風疹の検査診断は、急性期の咽頭ぬぐい液、血液、尿等から(1)ウイルスの分離・同定、または(2)PCR 法によるウイルス遺伝子の検出、(3)急性期血清から風疹IgM 抗体の検出、(4)急性期と回復期のペア血清で抗体陽転または抗体価の有意上昇のいずれかであるが、検査診断例は約70~80%に留まっている(図1)。発疹出現後3日以内のIgM 抗体価は陰性の可能性があり、発疹出現後4日以降の検査が望ましいが、早期診断には(2)の方法が有用である(本号10&11ページ)。発疹出現翌日の咽頭ぬぐい液からの検出率が最も高く、血液からは早期にウイルスが検出できなくなる可能性がある(本号9ページ)。2013年はHI抗体価の測定に用いるガチョウ血球が一時不足する事態となり、EIA 価を用いた読み替えについて、厚生労働科学研究班から緊急提言がなされた(本号7&21ページ)。
今後の風疹対策:厚生労働省は「先天性風しん症候群の発生予防等を含む風しん対策の一層の徹底について」(健感発0129第1号、健感発0226第1号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)を2013年1月29日に発出し(同2月26日一部改正)(本号4ページ<通知1>、<通知2>)、国立感染症研究所と厚生労働省は、多数の学会の賛同を得て風疹予防啓発ポスターを作成し、全国の自治体、医療機関等に送付した(http://www.niid.go.jp/niid/ja/rubella-poster2013.html)。
また、厚生労働省研究班により、CRSリスクの正しい評価のため、産婦人科医を対象とした2次相談窓口が地域ごとに設置されている(本号7ページ)。
WHO西太平洋地域の予防接種およびワクチンで予防可能疾患に関する技術顧問(TAG)会議では、風疹ワクチンをまだ導入していない6カ国を含め風疹ワクチンを定期予防接種に加えることを提唱し、接種率80%以上を維持すべきであるとしている(本号5ページ)。2013年第14週現在、国内の風疹患者報告数は人口 100万人当たり28例、CRSは2012年10月からの半年間で8例である。風疹の流行は初夏がピークになることが多いことから、さらに患者数が増加することが懸念される。妊婦は生ワクチンである風疹含有ワクチンを接種できない。このため、妊娠を希望する女性や、成人男性、中でも妊婦の夫・家族に対する積極的な注意喚起・MRワクチン接種を検討するよう情報提供が望まれるが、成人が予防接種を受けやすい環境作りも大切であり、産業医を含めた多職域との連携も今後の検討課題である。
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