国立感染症研究所

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風疹・先天性風疹症候群 2019年5月現在

(IASR Vol. 40 p127-128:2019年8月号)

風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。妊婦が風疹ウイルスに感染すると, 胎内感染により児に伝播することがあり, 心疾患, 難聴, 白内障等の様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)の児が出生する可能性がある。重度の心疾患を伴う場合等には死亡に至ることがある(本号3ページ)。

風疹には有効性, 安全性に優れたワクチンがあり, これを用いて風疹を排除することが世界的目標になっている。2014年に厚生労働省(厚労省)は「風しんに関する特定感染症予防指針(指針)」を策定し, 早期にCRSの発生をなくすとともに, 2020年度までに風疹の排除を達成することを目標に掲げた。さらに2017年12月には指針が一部改正され, 全症例に検査診断を求める等, さらなる対策の推進が図られた。2018年7月以降, 成人男性を中心に再び風疹の流行が発生したことから, 厚労省は2018年12月に「風しんに関する追加的対策(追加的対策)」を取りまとめ, これまで定期接種を受ける機会が一度もなく, 抗体保有率が他の世代に比べて低い1962年4月2日~1979年4月1日までの間に生まれた男性を対象として, 2019年2月1日から2022年3月31日まで抗体検査・定期接種を実施することを決定した(本号4ページ)。

感染症発生動向調査

風疹は感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。2012~2013年に全国的な流行が発生したのち, 2014~2017年は患者報告数が減少した(図1)。2018年は第30週頃より関東地方を中心に患者報告数が急増し, 2,946例の報告があった。2019年も流行が継続しており, 第22週までに1,656例(暫定届出数)の患者届出があった。

2018~2019年の報告患者の約95%が成人であり, 男性が女性の約4倍多かった(図2)。この年齢性別分布の傾向は前回全国流行のあった2013年でもみられたが, 2018~2019年はよりいっそう成人男性に患者が多い傾向が強まった。報告患者の年齢中央値は2013年では男性35歳, 女性26歳であったが, 2018年では男性41歳, 女性31歳となり, 5年の時間経過に伴って約5歳分上昇したと考えられた。壮年期の成人男性に患者が多いことに伴い, 職場での集団発生事例が報告されている(本号5ページ)。

患者報告数の多かった2013年, 2018~2019年の風疹患者の予防接種歴を検討すると, 「接種歴なし」と「接種歴不明」の割合が非常に高く, 一方「接種1回あり」が5~7%, 「接種2回あり」が1~2%と非常に低くなっていることから, 予防接種歴のない人々の間で流行が広がっていることが示唆された(図3)。

CRSも感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html)。2012~2014年には風疹流行に伴って45例のCRS患者報告があった(図1)。2015~2018年には報告がなかったが, 2019年には第22週までに2例の報告があった(2019年第24週に1例の報告あり)。

風疹の検査ならびに流行ウイルスの解析

臨床症状のみで風疹を診断することは困難であることが多いため, 正確な診断には検査の実施が有用である。指針改正により, 医療機関等におけるIgM抗体検査等の血清抗体価の測定の実施に加え, 地方衛生研究所(地衛研)でのウイルス遺伝子検査の実施のための検体の提出が求められるようになった。改正前の2013~2017年には検査診断例の割合が全症例の63~78%であったが, 改正後の2018~2019年には96%へと向上した(図4)。これには地衛研におけるウイルス学的検査実施率の上昇が大いに貢献している(本号7ページ)。全国の地衛研のウイルス解析結果から, 2012~2013年の流行は主に遺伝子型2Bの風疹ウイルスの流行であったが, 2018年第25週以降に検出された風疹ウイルスは, 遺伝子型1Eの風疹ウイルスによって生じていることが示された(本号8ページ)。

感染症流行予測調査

2018年度, 全国17都道府県において, 5,550例(女性2,675例, 男性2,875例)の抗風疹赤血球凝集抑制(HI)抗体価の測定が行われた(図5)。HI抗体価1:8以上の抗体保有率は2歳以上30代前半まで男女ともに, おおむね90%以上であった。一方, 30代後半~50代の男性の抗体保有率は90%を下回り, 同年代の女性と比較して明らかに低かった。1962~1978年度生まれの男性の抗体保有率は, 過去10年間で約80%のまま維持されており, いまだに多くの感受性者が残されている(本号9ページ)。

第5期定期接種と今後の課題

追加的対策で新たに定められた定期接種は, 現在実施されている第1, 2期定期接種と, 2008~2012年度に実施された第3, 4期定期接種を踏まえ, 第5期定期接種と呼ばれる。その対象が壮年期の男性であり年齢層が広いこと等から, 限られたワクチンを効率良く接種してもらうために, これまでにない以下のような対応が取られることになった(本号4ページ)。①予防接種の前に抗体検査を求めること, ②居住地以外でも抗体検査・予防接種を受けられること, ③自治体や医療機関等で事業が円滑に遂行できるように様々な取り組みを行っていることである。①ではHI抗体価1:8以下を基準として, 抗体陰性および低抗体価の者に限って定期接種の対象となる。風疹特異的抗体価の測定にはHI試験の他にも様々な方法が用いられていることから, 国立感染症研究所ではこれらについてもHI抗体価1:8以下に相当する抗体価を検討し, 参考のために公開している(本号11ページ)。追加的対策の目標は「2020年7月までに対象世代の男性の抗体保有率を85%に引き上げ」, 「2021年度末までに対象世代の男性の抗体保有率を90%に引き上げる」ことである。目標達成のためには, 対象世代の男性個人への周知が徹底されることが最も重要である。また, 対象世代の男性が抗体検査と予防接種を受けやすい体制を整えることは重要であり, 医療機関, 事業所, 自治体, 国の連携が必須である(本号13ページ)。2019年6月時点で事業所定期健康診断における追加的対策に基づく風疹抗体検査が始まりつつある状況であり, 今後さらに普及を進めていく必要がある(本号14ページ)。事業所内で一旦風疹が発生すると事業活動に大きな影響がある(本号15ページ)。企業の社会的責任と事業継続の観点から, 事業所にとっても今回の追加的対策が有用であることを周知し, 最大限に利用していただくよう啓発を進めていくことが重要であろう。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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