刺し口痂皮からSFTSウイルス遺伝子を検出した重症熱性血小板減少症候群の1例
(IASR Vol. 38 p.170-171: 2017年8月号)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はマダニ類に媒介されるウイルス感染症である。2013年3月に感染症法の4類感染症に指定され, 国内の患者発生については医師からの届出による全数把握が行われている。届出には検査診断が必要で, その方法の1つとしてPCR法による病原体遺伝子の検出が挙げられている。その検査材料としては血液, 咽頭ぬぐい液, あるいは尿と定められているが, 今回患者の刺し口痂皮からSFTSウイルス(SFTSV)遺伝子が検出されたので報告する。
症 例
患者は53歳, 男性。農作業中にダニ咬傷を受けたと推測される。2017年6月に微熱にて発症。翌日(発症後1日目)には39℃の発熱と消化器症状 (下痢) が出現した。5日目(入院当日)には肝機能障害, 右腋窩リンパ節腫脹, 血液所見では血小板減少, 白血球減少, 血清酵素(AST, ALT, CK, LDH)の上昇が認められた。同日, ウイルス検査のため血液, 咽頭ぬぐい液および尿を, 翌6日目には右側背部の刺し口痂皮(図1)を採取した。それぞれ市販のキットを用いてRNAを抽出し, 国立感染症研究所から示された方法1)に準じたワンステップRT-PCR法によるSFTSV遺伝子の検出を試みたところ, 咽頭ぬぐい液と尿では増幅産物は認められなかったが, 血清と痂皮からウイルス遺伝子の増幅が確認された(図2)。それぞれの増幅産物についてはダイレクトシーケンス法により塩基配列の一致が確認された。また, 間接蛍光抗体法による抗SFTSV抗体価測定の結果, 5日目ではIgMは10倍, IgGは10倍未満で, 22日目ではIgMは80倍, IgGは640倍であった。
考 察
PCR法によるSFTSV遺伝子の検出については, 2013年3月に厚生労働科学研究班から検査法が示され, 検査キットが各地方衛生研究所に配布されている。また, 急性期材料から比較的迅速に結果が得られることもあり, 届出基準に定められているSFTSの検査方法の中で, 現在最も一般的に行われている方法であろう。当所でも同方法によりこれまで8例の患者検体からSFTSV遺伝子を検出した。それらについて検査材料別の結果をみると, 血清では全症例で, 尿では8例中2例でウイルス遺伝子が検出されたが, 咽頭ぬぐい液では検査を実施した6例すべてが陰性であった。今回の結果から, 刺し口痂皮はSFTSV遺伝子検出用の検体として咽頭ぬぐい液や尿以上に有用である可能性が示唆された。刺し口は必ずしもすべての患者で確認されないこと, また予め破砕処理が必要で, 他の液性検体に比べRNA抽出操作が煩雑であることなど考慮すべき点もあるが, 今後も刺し口がある症例については検査を実施し, 検査診断用検体としての有用性について検証すべきと考える。