1)B型急性肝炎

 感染経路としては、HBV感染者の血液、体液を介して感染する。具体的には、輸血などの医療処置、感染者とのカミソリ等の共用、感染者との性行為などによるが、我が国では現在、輸血用血液のスクリーニングにより輸血による感染は激減している。したがって、HBV感染の可能性が高い以下のハイリスク群が問題となっている。


ハイリスク群:

  1. l患者と濃厚接触がある者(家族、パートナー)
  2. l医療従事者、養護施設従事者など職業上のリスクがある者
  3. lHBV常在地への旅行者
  4. l透析患者
  5. l臓器移植者
  6. l性感染の機会が多い者
  7. l静脈注射による薬物使用者

 

 感染後の症状が出るまでの潜伏期間は平均6090日(30180日)と言われており、HBV感染者の70-80%は症状の見られない不顕性感染である。主症状としては、黄疸、尿濃染、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、発熱、関節痛などがある。

 B型急性肝炎が劇症化するのは0.41%と非常にまれであり、一般に予後良好である。成人における急性肝炎からのHBVキャリア化率は欧米では10%と言われているが、従来日本ではまれであった。欧米と日本とのHBVキャリア化率の違いの理由として、欧米では遺伝子型Aが多いのに対し、日本は遺伝子型BあるいはCがほとんどであることが示唆されている。しかしながら、近年日本の急性肝炎における遺伝子型Aの割合は増加傾向にある3)

 

2)HBV持続感染

 HBVに感染後、持続感染状態に移行する割合は感染年齢に影響される部分が大きい。WHOの報告では、世界全体での感染者(肝炎非発症者も含む)の年齢による持続感染化の割合は、感染者が1歳以下の場合90%15歳の場合は2550%、それ以上の年齢になると1%以下である1)HBV持続感染者はHBVキャリアとB型慢性肝炎患者に分けられる。


(1)HBVキャリア

 HBVに持続感染した状態をHBVキャリアと呼ぶ。多くのHBVキャリアは出生時の母子感染によるが、感染時に免疫機能が未発達のためウイルスを異物として認識せず、肝炎を発症しないままウイルスを体内に保有し続けるHBVキャリアとなる3, 8)。もしHBV母子感染予防を行わないとすると、母親がHBVキャリアでHBe抗原陽性の場合、約90%の確率で出生児のHBVキャリア化が成立する。HBVキャリア母がHBe抗原陰性の場合は出生児のHBVキャリア化率は低くなる(10%程度)。また、幼少時の水平感染もHBVキャリア化する危険性が高い。

 HBVキャリアの自然経過を図2に示した5)。多くのHBVキャリアはセロコンバージョンを経て肝機能が正常化されるが、1015%は慢性肝炎に進行する。HBVキャリア状態では症状がないため、自覚が無いまま感染を広める 危険性がある。

 

(2)B型慢性肝炎患者

 HBVキャリアの1015%が慢性肝炎に進行すると考えられており、更に慢性肝炎は肝機能の悪化、再燃を繰り返すことにより、慢性B型肝炎患者の1015%は肝硬変、肝不全、肝がんに進行することがある(図1)。慢性B型肝炎患者の多くは自覚症状がほとんどなく、肝機能検査で初めて異常値が発見されることも多い。時には、慢性B型肝炎からの急性増悪による急性肝炎症状を示すこともある。
 慢性B型肝炎のハイリスク群としては、HBVキャリア母からの出生児、遺伝子型AHBV感染者、免疫不全者等が挙げられる。

 

1)B型肝炎ウイルス
 B型肝炎はヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)に属するB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)の感染によって引き起こされる1)。世界中で20億人のHBV感染者が存在し、そのうち35千万人が持続感染者で、年間50万〜70万人がB型肝炎やB型肝炎に起因する疾病(肝硬変・肝がんなど)で死亡していると推定されている。

 

2)感染経路

 HBVは、主として、HBV感染者の血液や精液などの体液を介して感染する。また、出血などで体外に出た血液は乾燥してもすぐに感染性を失わず、体外で少なくとも1週間は感染性を保つと考えられているため、適切な消毒処置が必要である。

 

3)感染後の経過

 病態は一過性感染と持続感染がある1-4)。持続感染から肝硬変・肝がんに進行することもある(図1)。世界中の原発性肝がんの6080%HBVによると推計されている1)。一過性感染の主な感染経路は輸血などの医療処置、感染者とのカミソリ等の共用、感染者との性行為など、持続感染はHBVに感染している母親からの垂直感染、小児期の水平感染などが挙げられるが、我が国では現在、輸血用血液のスクリーニングにより輸血による感染は激減している。

 

                       

 

4)B型急性肝炎

 成人での初感染の場合、多くは一過性感染で自覚症状がないまま治癒し、2030%の感染者が急性肝炎を発症する2, 3)。まれに慢性化するが、一般に予後は良好である。200311月の感染症法の改正に伴い、B型急性肝炎は、感染症発生動向調査における全数把握の5類感染症である「ウイルス性肝炎(A型肝炎及びE型肝炎を除く)」に分類された。診断した医師は、7日以内の届出が義務付けられている。

 

5)持続感染

 HBVの持続感染の多くは出生時又は乳幼児期の感染によって成立する。持続感染者の大部分はHBVを体内に保持しているけれども肝機能正常なHBe抗原陽性の無症候性HBVキャリアとなり、その後免疫能が発達するに従い、顕性又は不顕性の肝炎を発症する。そのうちの約90%はセロコンバージョン(HBe抗原の陰性化、HBe抗体の陽性化)を経て再び無症候性キャリアへと移行する5)(図2)。しかし、約1015%の人は慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変・肝がん)へ移行する。

 

 

6)HBVの遺伝子型分類

 現在、HBV8種類の遺伝子型(AH型)に分類されている6)。この遺伝子型には地域特異性があること、慢性化率など臨床経過に違いがあることが知られている。日本は遺伝子型CBの順に多く、この二つが日本のB型肝炎のほとんどを占めている3, 6)。しかしながら、遺伝子型BCに比べて慢性化しやすい遺伝子型Aの感染者の割合が、新規献血者や急性肝炎症例で、近年我が国でも急速に増加していることは注視すべきである7) 

 

7)日本のB型肝炎対策

日本では、1972年から輸血・血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始された81986年から母子感染防止事業が実施され、垂直感染によるHBV無症候性キャリアの発生は減少した9, 10)。しかしながら、対象児童の10%で予防処置の脱落または胎内感染によると見られる無症候性キャリア化が報告されている11)。また、現在の日本のB型急性肝炎患者の年齢を見ると14歳以下の小児、又は70歳以上の高年齢層の報告数が少ない8)。これらのことにかんがみ、今後のB型肝炎対策は母子感染予防処置の徹底と水平感染、特に性交感染対策の強化が肝要であると思われる。

 

 

7.日本のB型肝炎対策

 

 

 

日本では、1972年から輸血・血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始されました81986年から母子感染防止事業が実施され、垂直感染によるHBV無症候性キャリアの発生は減少しました9, 10)。しかしながら、対象児童の10%で予防処置の脱落または胎内感染によると見られる無症候性キャリア化が報告されています11)。また、現在の日本の急性B型肝炎患者の年齢を見ると14歳以下の小児、又は70歳以上の高年齢層の報告数が少ない8)。以上のことから、今後のB型肝炎対策は母子感染予防処置の徹底と水平感染、特に性交感染対策の強化が肝要であると思われます。

 

 

6. HBVの遺伝子型分類

 

 現在、HBV8種類の遺伝子型(AH型)に分類されています6)。この遺伝子型には地域特異性があること、慢性化率など臨床経過に違いがあることが知られています。日本は遺伝子型CBの順に多く、この二つが日本のB型肝炎のほとんどを占めています3, 6)。しかしながら、遺伝子型BCに比べて慢性化しやすい遺伝子型Aの感染者の割合が、新規献血者や急性肝炎症例で、近年我が国でも急速に増加していることは注視すべき傾向です7)

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