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令和6年度 国立感染症研究所研究発表会(学生・若手研究者対象 研究部紹介)

国立感染症研究所では、ウイルス・細菌・真菌・寄生虫等による各種感染症の克服に向け、数々の基礎・臨床研究に取り組んでいます。 感染症研究を志す若手研究者・医療関係者・学生の皆様のご参加を歓迎します。  2024年5月25日(土)13:00〜18:00 Zoom Webinarで開催いたします。参加を希望...

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令和6年度 感染研市民公開講座 知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 (全6回)

掲載日:2024年5月8日 オンライン企画(世界中どこからでも視聴可能!) 令和6年度 国立感染症研究所 感染研市民公開講座知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 ポスターPDF 感染症にまつわる、普段なかなか聞くことができないさまざまな「へぇー、そうだったん...

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IASR 45(4), 風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在

  風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在 (IASR Vol. 45 p51-52: 2024年4月号)   風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が風疹ウイル...

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2015年秋における小児の喘息発作入院増加とエンテロウイルスD68型流行との関連―三重県津市

(掲載日 2015/11/12) (IASR Vol. 36 p. 250-252: 2015年12月号

喘息発作は秋に好発し、原因は気圧の変化やウイルス感染の影響などが指摘されているが1)、国立病院機構三重病院では2015年の9月以降、喘息発作入院症例が例年よりも著しく増加した。東京都では、エンテロウイルスD68型(以下、EV-D68と略す)が検出された重症例を含む喘息様症状の症例報告がなされていることから2)、今シーズンの増加の一因として、EV-D68の関与の可能性について検討した。

国立病院機構三重病院小児科における喘息発作入院症例数の推移
三重県津市における小児の夜間二次救急医療施設は当院のみであり、過去5年間の周辺地域における小児入院医療機関に大きな変化はないため、喘息発作入院数の変化は地域における重症喘息発作発症数の変化を反映している。喘息発作入院の定義は、喘鳴と呼吸困難のために入院した5か月~16歳までの小児で、気管支拡張剤吸入や副腎皮質ステロイド薬全身投与により症状の改善がみられた症例とした。RSウイルス(以下、RSVと略す)感染による細気管支炎例は除外した。に2010年以降の各月の喘息発作入院数を示す。毎年秋には増加傾向にあるが、2015年の9月、10月は非常に増加していた。すなわち、2010~2014年の平均入院数は9月が4.2人、10月が9.0人で、2015年が9月に26人、10月に24人で、特に9月の増加が著しかった。年齢層別の入院数を比較すると、年齢分布に目立った変化はなく、全年齢層で増加していた。9~10月の入院患者の年齢中央値は2010~2014年が4歳、2015年も4歳であった。

2015年喘息入院患者の背景
2015年9月以降の喘息入院例における入院時の発作重症度は、modified pulmonary index(mPI)スコア3)で9.1±3.2(平均±SD)であった。治療反応性が良好であったためICU管理に至る例はなかったが、ICU管理に相当するとされるmPIスコア12点以上3)の例は27%に認められた。既往歴では、乳児期のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどアレルギー素因がみられるものは31人〔62%、うちアトピー性皮膚炎21人(42%)、食物アレルギー13人(26%)〕、これまでに喘息と診断されていたものは30人(60%)、喘息と診断されていないが喘鳴の既往があったものは15人(30%)であった。入院時に長期管理薬を使用していたものは11人(22%)のみであった。

ウイルス学的検討
2015年9月下旬以降の入院症例に対しては、鼻腔上咽頭ぬぐい液を採取してウイルス学的検討を行った。国立感染症研究所・病原体検出マニュアル4)に基づきエンテロウイルスのVP4-2領域を標的としてRT-PCRを行い、ウイルスゲノムを増幅した。PCR産物の塩基配列を決定し、BLASTで相同性検索を行い、ウイルスを同定した。に9月21日~10月17日までに採取した咽頭ぬぐい液検体のPCRの結果と、BLAST最上位の塩基配列を示す。全27検体中、EV-D68は10検体(37%)に検出された。しかし、興味深いことに、陽性例は10月4日までの検体に集中し、陽性率は76.9%(10/13)であった。10月5日以降の14例のPCR陽性は10例(71.4%)で、すべてライノウイルスであった()。

喘息の多発とEV-D68流行の疫学的関連について
喘息はダニ、ホコリなどのアレルゲン、大気汚染や黄砂などの吸入刺激、台風の発生といった気圧の変化など、種々の因子によって直接的に、あるいは間接的に誘発されるが、感染症は重要な誘発因子のひとつである。ライノウイルスやマイコプラズマ、インフルエンザA(H1N1)pdmなど、喘鳴を来しやすい感染症はいくつかみられるが、EV-D68も喘息様症状を起こしやすいという米国の報告5)、デンマークの報告6)、日本でも喘息例からEV-D68が検出されていること7)から、注目すべきウイルスの一つである。今年のウイルス検出情報では、RSV、ヒトメタニューモウイルスなど呼吸器症状を呈しやすいウイルスで特に今年だけ多いという病原体が見当たらない中でEV-D68が多いことは、喘息入院症例増加の一因となっている可能性を強く示唆する。当院においては人工呼吸管理を要する重症の入院症例はなく、入院期間も過去5年間と比べて有意な差はみられなかったので、少なくともこの地域では喘息の致死的な重症化までは関与していないかもしれない。一方、当院周辺の落合小児科から三重県保健環境研究所に提出された軽症喘息例、喘息以外の気道感染例においてもEV-D68の検出がみられており(提出検体数:喘息6、上気道炎2、気管支炎9、うちEV-D68陽性数:喘息1、上気道炎2、気管支炎1)、日常診療では気がつかないうちに流行していた可能性もある。

また、2013年もEV-D68の検出数増加がみられた年であったが、2015年ほどではないものの、秋の入院症例が増加傾向にあった()。EV-D68は重症呼吸器症状から検出が報告されていること、また、急性弛緩性麻痺例の報告もあること8-10)から、今後はEV-D68流行による神経学的合併症、呼吸器合併症の動向の把握とともに、喘息発作入院症例の疫学調査も必要であろう。

感染症にはサーベイランスシステムが存在するが、喘息発作にはそのようなシステムがなく、症例増加のベースラインの把握が困難である。今回の発作入院増加には秋のアレルゲン、気圧の変化、大気汚染などその他の要因も関わっているとは考えられるが、環境の影響を受ける喘息に対してもっともインパクトの大きいものは気道感染症であり、重症化を防ぐにもEV-D68以外の病原体を含む感染症情報に連動させて、喘息発作の動向をモニター、周知するシステムの構築が望まれる。

 
参考文献
  1. Cohen HA, Blau H, Hoshen M, Batat E, Balicer RD, Seasonality of asthma: a retrospective population study, Pediatrics 133: e923-932, 2014
  2. 伊藤健太, 堀越裕歩, 舟越 優, 寺川敏郎, 清水直樹, 鈴木 愛, et al., エンテロウイルスD68型が検出された小児4症例-東京都, IASR 36: 193-195, 2015
  3. Carroll CL, Sekaran AK, Lerer TJ, Schramm CM, A modified pulmonary index score with predictive value for pediatric asthma exacerbations, Ann Allergy Asthma Immunol 94: 355-359, 2005
  4. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 手足口病 ヘルパンギーナ 無菌性髄膜炎,
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html
  5. Midgley CM, Jackson MA, Selvarangan R, Turabelidze G, Obringer E, Johnson D, et al., Severe respiratory illness associated with enterovirus D68 - Missouri and Illinois, 2014, Morb Mortal Wkly Rep 63: 798-799, 2014
  6. Midgley SE, Christiansen CB, Poulsen MW, Hansen CH, Fischer TK, Emergence of enterovirus D68 in Denmark, June 2014 to February 2015, Euro Surveill 2015; 20
  7. 藤井慶樹, 則常浩太, 八島加八, 山本美和子, 石村勝之, 喘息症状を呈する患者からのエンテロウイルス68型(EV-D68)の検出―広島市, IASR 2015; 36
  8. Greninger AL, Naccache SN, Messacar K, Clayton A, Yu G, Somasekar S, et al., A novel outbreak enterovirus D68 strain associated with acute flaccid myelitis cases in the USA (2012-14): a retrospective cohort study, Lancet Infect Dis 15: 671-682, 2015
  9. Messacar K, Schreiner TL, Maloney JA, Wallace A, Ludke J, Oberste MS, et al., A cluster of acute flaccid paralysis and cranial nerve dysfunction temporally associated with an outbreak of enterovirus D68 in children in Colorado, USA, Lancet 2015; 385: 1662-1671
  10. 豊福悦史, 他, エンテロウイルスD68型が検出された、急性弛緩性脊髄炎を含む8症例―さいたま市, IASR 2015
 
国立病院機構三重病院小児科・アレルギー科・臨床研究部
  伊藤卓洋 中村晴奈 東 礼次郎 桑原 優 平山淳也 貝沼圭吾 浅田和豊
  長尾みづほ 篠木敏彦 菅 秀 谷口清州 藤澤隆夫 庵原俊昭
落合小児科医院 落合 仁
三重県保健環境研究所 赤地重宏 小林隆司 西中隆道
 

 

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