コクサッキーウイルスB4型が検出された集団胃腸炎について―大阪市

(IASR Vol. 36 p. 197-198: 2015年10月号)

胃腸炎の集団感染は発生頻度が高く、世界における子供の死亡の二大要因の一つを占めている^1-2)。胃腸炎の原因には、ウイルス・細菌・原虫などが考えられるが、ウイルスによるものが最も頻繁に報告されている^2-3)。ウイルス性胃腸炎を引き起こす病原体として、ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルスがよく知られている⁴⁾。本稿では、コクサッキーウイルスB4型 （CVB4） が検出された胃腸炎集団感染事例について報告する。

2015年5月、大阪市内のX保育所 （児童数101名、職員数25名）において胃腸炎集団感染が発生した。患者は28名、年齢は0～5歳（中央値3歳6か月）で、発症日は5月26日～5月29日に集中（53.6％、15/28）していた（図）。臨床症状として嘔吐（75.0％、21/28）、下痢（39.3％、11/28）などの胃腸炎症状の他に、発熱（10.7％、3/28）が認められた。患者28名中5名の糞便検体を採取し、ウイルス学的検査においては実施したロタウイルスA、腸管アデノウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、パレコウイルスについて、すべて陰性であった。そこで、既報のエンテロウイルス（EV）5′UTRを標的にしたReal-time RT-PCR法⁵⁾にてEVの検出を試みたところ、5検体中4検体でEVが検出された。次に、VP1、VP4を標的にした核酸検査^{6, 7)}を実施し、5検体中3検体で核酸の増幅が確認された。PCR産物の塩基配列の決定およびBLAST解析の結果、CVB4が同定された。検出されたCVB4の塩基配列は患者間で100％一致した。EVが検出された4検体中2検体は、Vero細胞を用いた分離培養検査も陽性となり、感染性を有するCVB4の存在が確認された（表）。

コクサッキーウイルスに関連した胃腸炎集団感染事例としては、CVA1⁸⁾、CVB2⁹⁾、CVB3^{10, 11)}、CVB5¹²⁾が報告されている。CVB4は、無菌性髄膜炎、上気道炎、心筋炎など多様な疾患を引き起こす¹³⁾。散発的に発生した入院症例を解析した結果、CVB4が検出された患者の17.7％（11/62）で下痢、32.3％（20/62）で嘔吐を起こしていたとの報告があるが¹⁴⁾、調査した限り胃腸炎の集団感染事例からCVB4が検出された報告は無い。本事例では、検出されたCVB4の塩基配列が患者間で100％一致した点、同時期にCVB4による地域流行が確認されていない点から、CVB4が本事例に関与した可能性があると考えられた。

なお、関係保健福祉センターでは、感染拡大防止のため、施設内の消毒や患者の吐物・糞便の適切な処理、および手洗いなどの衛生指導を行っており、その後、当該施設における患者は終息している。

本事例に関して疫学調査等の情報収集にご協力いただいた関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

大阪市立環境科学研究所
　　　上林大起　改田　厚　阿部仁一郎　久保英幸
　　　山元誠司　入谷展弘　西尾孝之
大阪市保健所
　　　伯井紀隆　森　宏美　西　貴美　安井典子
　　　桝田晴美　細井舞子　青木理恵　坂本徳裕
　　　廣川秀徹　半羽宏之　松本健二　吉村高尚