新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報

公開講座

令和6年度 国立感染症研究所研究発表会(学生・若手研究者対象 研究部紹介)

国立感染症研究所では、ウイルス・細菌・真菌・寄生虫等による各種感染症の克服に向け、数々の基礎・臨床研究に取り組んでいます。 感染症研究を志す若手研究者・医療関係者・学生の皆様のご参加を歓迎します。  2024年5月25日(土)13:00〜18:00 Zoom Webinarで開催いたします。参加を希望...

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令和6年度 感染研市民公開講座 知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 (全6回)

掲載日:2024年5月8日 オンライン企画(世界中どこからでも視聴可能!) 令和6年度 国立感染症研究所 感染研市民公開講座知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 ポスターPDF 感染症にまつわる、普段なかなか聞くことができないさまざまな「へぇー、そうだったん...

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IASR最新号 特集記事

IASR 45(4), 風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在

  風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在 (IASR Vol. 45 p51-52: 2024年4月号)   風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が風疹ウイル...

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アデノウイルス肝炎について

(IASR Vol. 42 p70: 2021年4月号)

 

 アデノウイルス(Ad)肝炎はAd感染症の中では比較的稀な疾患であるが, 臓器移植や抗がん剤治療を受ける患者, 免疫不全疾患, HIV感染症など免疫能低下が著しい患者で発症し, しばしば重篤化し致命的になる1)。Adは日常診療におけるアルコール, クロルヘキシジンといった消毒に比較的耐性なノンエンベロープウイルスであり2,3), 集団感染が問題になることもあるが, Ad感染症は健常者においては成人, 小児ともに多くの場合, 上気道炎, 結膜炎, 胃腸炎などに留まり, 重篤な肝炎, 肝不全に至ることはほとんどない4)

 免疫不全患者におけるAd肝炎はAd C種(1, 2, 5, 6型など)の新規感染, あるいは潜伏感染ウイルスの再活性化によって発症すると考えられており5), 発熱が自覚症状として比較的多く認められるが, その他の症状に乏しい。免疫不全患者のAd肝炎の致死率は高く, 造血幹細胞移植後のAd肝炎についての過去の報告ではAd肝炎合併例のおよそ90%が死亡しており, 救命が困難な場合が多い6)。早期の診断, 治療介入が望まれるが容易ではない。Ad肝炎発症時には, 血液検査で肝胆道系酵素の急上昇, 腹部CT・超音波検査での肝内多発陰影の出現が認められることが多く, 急速に重篤な肝機能障害, 肝不全に至る。確定診断のために肝生検, 病理組織診, 抗Ad抗体による免疫化学染色が検討されるが, 経皮的肝穿刺生検は重篤な出血の懸念から施行困難な症例が稀ではない。経静脈的肝生検も侵襲を伴い, 高度な手技を必要とし, やはり致命的な出血が問題となることがある。Ad肝炎発症前から患者血液のPCRでAdが検出され得ることが分かっており, 早期診断の一助となる。

 Ad肝炎の治療としてcidofovir, ribavirinなどが使用されてきたが, 確立された治療法はない。Cidofovirは重篤な腎障害等の副作用が問題となり, 慎重な投与計画を必要とする本邦未承認薬で, 国内では臨床研究として重篤なAd感染症への投与が行われている。Cidofovirの脂質結合体brincidofovirは現在開発中であるが, 毒性の少ない新規のAd経口治療薬としてその有効性が期待される。

 当科では, 造血器腫瘍に対する同種造血幹細胞移植後にAd肝炎を発症し, 急速に肝不全に至り死亡した4症例を経験した。死後全例病理解剖を行い, 肝所見として肝腫大, 炎症細胞浸潤の乏しい広範な結節状肝壊死, “smudged cell”と呼ばれる特徴的な核内封入体を持つ壊死肝細胞が共通しており, 免疫化学染色でAd陽性が確認された(図1, 2, 3)。Ad型別検査ではAd1が2例, Ad5が1例, Ad6が1例で, いずれも肝炎発症の報告の多いC種に属するAdであった。

 免疫不全が強い患者においては, 肝胆道系酵素の変化に加えて定期的な血液PCRによるAd検索を行い, Ad肝炎が疑われる場合には, 救命のため早期の治療介入が望ましい。

 

参考文献
  1. Ronan BA, et al., Infection 42(1): 105-111, 2014
  2. Noda M, et al., Kansenshogaku Zasshi 74(12): 1023-1031, 2000
  3. Noda N, et al., Kansenshogaku Zasshi 55(5): 355-366, 1981
  4. Echavarria M, et al., Clin Microbiol Rev 21(4): 704-715, 2008
  5. Lion T, Clin Microbiol Rev 27(3): 441-462, 2014
  6. Onda Y, et al., Transpl Infect Dis: e13496, 2020

 
京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学
 恩田佳幸

 

 

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