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新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2024年4月現在

(IASR Vol. 45 p85-86: 2024年6月号)
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。

国内の発生動向: 2023年5月8日に感染症法上での取り扱いが5類感染症の定点把握対象疾患に変更され, 全国約5,000カ所のインフルエンザ/COVID-19定点医療機関から患者が報告されている(図1)。報告が開始された2023年第19週(5月8~14日)の全国の定点当たり報告数は2.63(患者報告数12,943人)であった。その後流行が拡大して2023年第35週(8月28日~9月3日)にはピークとなり, 定点当たり報告数は20.49(患者報告数101,340人)となった。ピーク後減少したが, 2024年第5週(1月29日~2月4日)に再びピークとなり, 定点当たり報告数は16.15(患者報告数79,676人)となった。

基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)からの新規入院患者数の報告は, 2023年第39週(9月25日~10月1日)から開始されて2,160人であった。これまで2024年第3週(1月15~21日)の3,530人が最も多い新規入院患者報告数であった(図2)。

年齢群別のインフルエンザ/COVID-19定点からの報告数および基幹定点からの新規入院患者報告数の暫定集計値をに示す。定点患者報告数では, 10歳未満および60歳以上は全体の20.2%および22.0%であったが, 新規入院患者報告数では全体の5.8%および82.5%であった。集計が開始されてから1年を経過していないこと, インフルエンザ/COVID-19定点医療機関のうち約3,000が小児科定点であるために受診する集団が小児に偏っていること, に留意する必要はあるが, 新規入院患者報告数の60歳以上の偏りはCOVID-19の疫学像として注意すべきものと考えられる。なお, インフルエンザでは, COVID-19流行前である2018/19シーズンにおいて入院患者数に占める60歳以上の割合は64.3%であった(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoko2021.pdf)。

SARS-CoV-2のゲノムサーベイランスおよび入国時感染症ゲノムサーベイランス: 国立感染症研究所(感染研)では, SARS-CoV-2の新たな系統や組み換え体の出現や, 公衆衛生上の脅威になりそうな変異を持つウイルスの監視などを目的にゲノム解析によるゲノムサーベイランスを実施してきた。国内では2021年第47週に検疫で最初のオミクロン感染例が確認されて以降, 同系統の流行が続いている。2024年に入ってからはBA.2.86.1系統とFL.15.1.1系統の組み換え体であるXDQ系統の増加がみられ, 3月末時点でJN.1系統と同程度の拡がりとなっている。2023年5月8日以降, COVID-19が検疫感染症の指定から外れたが, SARS-CoV-2の海外から国内への流入は国内での変異株の動向に寄与する重要な因子であり, 入国時感染症ゲノムサーベイランスによるモニタリングが継続されている(本号3ページ)。

新型コロナワクチン株の選定および免疫不全者での対応: ワクチン接種は引き続き主要なCOVID-19対策である。中和抗体からの逃避能を獲得したSARS-CoV-2の変異株が出現している現状を踏まえると, ワクチン抗原の構成の定期的な見直しとワクチン株の選定は, その効果を維持するためにも重要である(本号4ページ)。また, 免疫不全者におけるSARS-CoV-2感染は, 免疫機能が正常に働くヒトと比べて重篤化しやすい。ウイルス排泄を遷延化する免疫不全者とそうではない免疫不全者がいることが分かってきており, 個々の症例に応じた感染予防策が望まれる(本号6ページ)。

COVID-19の罹患後症状: COVID-19罹患者の一部では, いわゆる罹患後症状(Long COVIDやコロナ後遺症ともいわれる)を呈することがあり, 世界保健機関(WHO)では罹患後症状を「COVID-19に罹患した人にみられ, 少なくとも2カ月以上持続し, 他の疾患による症状として説明がつかないもので, 通常は発症から3カ月経った時点にもみられる症状」と定義している。COVID-19の罹患後症状は, 罹患後も感染者の健康や生活に影響を与える。国内の約2,500人の追跡調査によれば, 入院患者調査における罹患後症状の頻度は感染後3カ月時点で53%, 2年後で少なくとも26%であるとされた(本号7ページ)。

COVID-19をはじめとする急性呼吸器感染症に対するリスクアセスメントと重層的なサーベイランス: COVID-19の臨床スペクトラムは他の急性呼吸器ウイルス感染症と重なっているため, それぞれを個別に把握対象とするのではなく, 症候群として探知し採取された検体を網羅的に病原体検査する, いわゆる急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスやインフルエンザ様疾患(ILI)サーベイランスとして実装することがWHOにおいても推奨されている。埼玉県では, 県内の病原体定点においてARIに該当する患者検体を収集してSARS-CoV-2および他の呼吸器ウイルスとともに検査するARIサーベイランスが県の事業として稼働している(本号9ページ)。

COVID-19が5類感染症の定点把握対象疾患に移行した後に感染研では週報を発行するとともに, COVID-19のイベントベースサーベイランスも継続してリスクアセスメントを実施している(本号11ページ)。またいくつかの自治体では, 設定したアラートを用いて, 住民へのリスクコミュニケーションに活用しているところがある(本号12ページ)。

献血検体, 民間検査あるいは健診の残余検体を使って血清疫学を行い, 住民のCOVID-19の抗体保有状況を把握する取り組み(本号14ページ)や, 下水におけるSARS-CoV-2の遺伝子コピー数をモニタリングする下水サーベイランスの取り組み(本号16ページ)なども実施されている。さらに過去の死亡者数と比較し, どの程度の死亡者数が予測されたかという超過死亡を迅速に把握して公表するシステムが運用されており, 超過死亡数が監視されている(本号18ページ)。COVID-19への対策を講じるためにも引き続き重層的なサーベイランスを維持していくことは重要である。

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