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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第8報-(2013年9月6日現在) |
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日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。 【 国立感染症研究所HP / 厚生労働省HP 】 |
抗体保有状況 (地図情報) 抗体保有状況 (月別推移) |
HI抗体 | 2-ME 感受性 抗体 |
都道府県 | 採血 月日 |
HI抗体 陽性率 ※1 |
2-ME感受性 抗体陽性率 ※2 |
コメント |
◎ 5/27 |
◎ 6/24 |
沖縄県 | 8/26 | 25% (5/20) |
100% (2/2) |
HI抗体陽性例のうち2頭は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
鹿児島県 | 9/2 | 100% (20/20) |
25% (5/20) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち5頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/8 |
◎ 7/8 |
宮崎県 | 9/2 | 27% (3/11) |
33% (1/3) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち1頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 8/12 |
◎ 8/23 |
大分県 | 8/23 | 100% (10/10) |
80% (8/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち8頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 8/6 |
◎ 8/6 |
熊本県 | 8/27 | 60% (12/20) |
55% (6/11) |
HI抗体陽性例のうち11頭は抗体価1:40以上であり、そのうち6頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/2 |
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長崎県 | 7/23 | 100% (10/10) |
0% (0/1) |
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 8/7 |
◎ 8/7 |
佐賀県 | 8/28 | 100% (10/10) |
40% (4/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち4頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 7/23 |
◎ 7/23 |
福岡県 | 9/3 | 100% (10/10) |
0% (0/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 6/25 |
◎ 6/25 |
高知県 | 8/27 | 100% (10/10) |
0% (0/10) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 7/9 |
◎ 7/23 |
愛媛県 | 8/27 | 60% (6/10) |
50% (2/4) |
HI抗体陽性例のうち4頭は抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 8/28 |
◎ 8/28 |
広島県 | 8/28 | 40% (4/10) |
67% (2/3) |
HI抗体陽性例のうち3頭は抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
◎ 8/2 |
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島根県 | 8/30 | 10% (1/10) |
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HI抗体陽性例は抗体価1:40未満であった。 |
◎ 8/20 |
◎ 8/20 |
兵庫県 | 8/27 | 0% (0/10) |
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◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
三重県 | 8/12 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 8/20 |
◎ 9/2 |
愛知県 | 9/2 | 30% (3/10) |
67% (2/3) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
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石川県 | 8/20 | 0% (0/10) |
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◎ 7/16 |
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富山県 | 8/26 -27 |
0% (0/15) |
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新潟県 | 9/2 | 0% (0/10) |
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◎ 7/30 |
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神奈川県 | 8/27 | 0% (0/20) |
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千葉県 | 8/29 | 0% (0/10) |
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◎ 7/30 |
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群馬県 | 8/7 | 0% (0/12) |
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栃木県 | 8/26 | 0% (0/14) |
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茨城県 | 9/2 | 0% (0/10) |
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◎ 8/20 |
◎ 8/20 |
宮城県 | 8/20 | 5% (1/22) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:10であり、2-ME処理により抗体価1:10未満となった。 |
調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
◎ | 調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す | |||||
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。 ※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。 |
1. | Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169. |
2. | 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103. |
3. | 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22. |
4. | Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300. |
国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部 |
(掲載日 2013/9/3)
回帰熱はスピロヘータ科ボレリア属細菌感染による一病態であり、その病原体ボレリアはヒメダニやシラミによって媒介される。これに加えて、2011年、ロシアでマダニが媒介するBorrelia miyamotoiによる回帰熱が報告され1,2)、また2013年には米国の疫学調査により、ライム病流行地では本ボレリア感染による回帰熱症例が存在することが報告された3,4)。
この回帰熱の病原体であるB. miyamotoiは、北海道で1995年に発見されたボレリアで、Ixodes属ダニによって伝播される5)。北海道やロシアではIxodes persulcatus(シュルツェマダニ)によって保菌されている。米国や欧州ではI. ricinus、I. scapularis、I. pacificusから本菌のDNAが検出されている。また、シュルツェマダニはライム病ボレリアも伝播することが知られている。
一方で本ボレリアは培養が困難なため、これまでに適切な実験室診断法が確立されていなかったこと、またB. miyamotoiを媒介するマダニはライム病ボレリアも保菌している場合もあり、このボレリアとの重複感染がしばしば起こるため、臨床診断が極めて難しいことから、その実態はほとんど把握されていなかった。
国立感染症研究所では、過去にライム病が疑われた患者血清約800検体を用いた後ろ向き疫学調査を実施し、このうち発症後の有熱期に採血された2検体からB. miyamotoi DNAを検出した。またこのうちの1検体ではB. miyamotoi HT31株由来の組換えGlpQ抗原を用いたB.miyamotoi特異的な抗体検査により、回復期ペア血清で抗体上昇が確認された。これら2検体は北海道在住の患者より採取されたものであり、いずれもライム病血清診断でも抗体陽性と判定されている。これら2症例は国内でのマダニ刺咬により感染したものと考えられている。いずれの症例もミノサイクリンもしくはセフトリアキソン投与により回復している。
シュルツェマダニの主な生息地域は北海道であり、その活動期は春~秋である。また本マダニは、長野県など本州中部の高山帯(標高約1,200m以上)等でも生息が確認されている。本マダニ刺咬後に起こる原因不明の発熱性疾患等を呈した患者では、ライム病に加えて本疾患を鑑別対象として加えることが必要1,3,6,7)である。
参考文献
1) Platonov AE, et al., Humans infected with relapsing fever spirochete Borrelia miyamotoi, Russia, Emerg Infect Dis. 2011.17(10):1816-1823.
2) IASR. 2011. 32(12): 370-371.
3) Krause PJ, et al., Human Borrelia miyamotoi infection in the United States. N Engl J Med. 2013. 368(3):291-293.
4) IASR. 2013.34(3):70-71.
5) Fukunaga M, et al., Genetic and phenotypic analysis of Borrelia miyamotoi sp. nov., isolated from the ixodid tick Ixodes persulcatus, the vector for Lyme disease in Japan. Int J Syst Bacteriol. 1995. 45(4):804-810.
6) Gugliotta JL, et al., Meningoencephalitis from Borrelia miyamotoi in an immunocompromised patient. N Engl J Med. 2013. 368(3):240-245.
7) Chowdri HR, et al., Borrelia miyamotoi infection presenting as human granulocytic anaplasmosis: A case report. Ann Intern Med. 2013. 159(1):21-27.
<回帰熱の検査について>
回帰熱の検査は国立感染症研究所・細菌第一部で実施可能です。検査検体は、マダニ刺咬後に発熱、頭痛、倦怠感等を示した患者の、1)発熱期の全血もしくは血清、2)髄膜炎を呈した場合には髄液です。また抗体検査を依頼される場合には、回復期血清による確認が重要です。これら検査をご依頼される場合には、最寄りの保健所などへお問い合わせください。
<回帰熱に関する問合せ先>
国立感染症研究所・細菌第一部 川端寛樹
電話番号:03-5285-1111内線2224
電子メール:kbata(アットマーク)niid.go.jp