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<速報>重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスの国内分布調査結果(第一報)

(掲載日 2013/8/29)

 

マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、2013年1月に国内の患者が初めて確認され、遺伝子検査(RT-PCR)法によるSFTSの診断検査体制が全国的に整備された。その結果、2013年春(マダニの活動開始期)以降、28名のSFTS患者が確定されている(8月26日時点)。遡り調査の結果も含めると、2005年から現在までに計39名の患者が九州・四国・中国・近畿地方の13県(兵庫、島根、岡山、広島、山口、徳島、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎及び鹿児島県)から報告されており、同地域にはSFTSウイルス(SFTSV)が分布していることが明らかである(http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/3143-sfts.html)。

本病の発生が先に報告された中国では、SFTSVの主な媒介マダニはフタトゲチマダニとされ、また、ヤギ、ヒツジ、ウシ、イヌ等の動物がSFTSVの抗体を高率に保有している(すなわち、SFTSV感染歴がある)ことが報告されている。SFTSが流行している地域では、マダニとマダニに吸血される動物との間でSFTSVが循環・保持される仕組みが成立している。ヒトはSFTSVを有するマダニに咬まれることでSFTSに感染する。(なお、動物は感染しても発症しない。また、これまでに動物の血液等を介してSFTSVに感染し、SFTSに罹患した患者の報告はない)。日本国内には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされるが、SFTSVを媒介するマダニの種類やその生息地域、SFTSVの保有率、動物との相互関係等、実態は明らかでない。SFTSVの国内分布状況を把握し、そのライフサイクルを明らかにすることは、患者発生のリスクを評価し、効果的な感染予防対策を立てる上で非常に重要である。

ヒトの患者血清からSFTSV遺伝子を検出する方法については既に確立され、診断検査に用いられているが、本年5月から開始された厚生労働科学研究「SFTSの制圧に向けた総合的研究(研究代表者 倉田毅)」において、マダニからのSFTSV遺伝子検出法及び動物のSFTSV抗体測定法が開発された。これらの新たに開発された検査法により、既に患者が発生している地域を中心に、一部、発生のない地域も含めて、これまでに入手できたマダニや動物血清の検体を用いて予備的調査を実施したところ、以下のことが明らかになった。

1)マダニについて中国、四国、近畿及び中部地方(9自治体)内のいくつかの地点について調査したところ、採取されたマダニ11種のうち、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ及びタカサゴキララマダニ)から、SFTSV遺伝子が検出された。また、これらのSFTSV保有マダニは、既に患者が確認されている地域(島根、山口、徳島、高知、兵庫県)だけではなく、患者が報告されていない地域(近畿:和歌山県、中部:福井、山梨、静岡県)においても確認された。

2)動物のSFTSV抗体保有状況について保存血清等を用いて調査した結果、シカでは、検体が得られた地域(19自治体)のうち、九州(福岡、熊本、宮崎、鹿児島県)、四国(愛媛県)、中国(島根、広島、山口県)、近畿(和歌山県)及び中部(長野県)地方でSFTSV抗体陽性動物が確認されたが、その他の地域(北海道、岩手、栃木、千葉、静岡、兵庫、徳島、高知、大分県)では陽性のシカは見つからなかった。イノシシでは、検体が得られた地域(15自治体)のうち、九州(熊本、鹿児島県)、四国(徳島、香川、愛媛、高知県)及び中国(広島県)地方で抗体陽性動物が確認されたが、その抗体陽性率は、シカの抗体陽性率に比較して低かった。また、その他の地域(千葉、長野、静岡、三重、兵庫、島根、大分、宮崎県)では抗体保有イノシシは見つからなかった。さらに、猟犬では、検体が得られた地域(16自治体)のうち、九州(熊本、宮崎、鹿児島県)、四国(香川、高知県)地方以外に、患者が報告されていない地域(近畿:三重県、中部:富山、岐阜県)でも抗体保有動物が存在した。一方、患者発生のある広島及び長崎県やその他の地域(新潟、長野、静岡、愛知、滋賀、沖縄県)では陽性の猟犬はみつからなかった。

以上のように、新たに開発された検査方法(マダニからのSFTSV遺伝子検出法及び動物のSFTSV抗体測定法)を用いて調査したところ、SFTSV保有マダニやSFTSV抗体陽性動物が、これまでに患者発生の報告があった地域以外でも確認されたことから、今後、さらに調査を行う必要が認められた。

今回の調査は、過去に他の感染症の調査のために収集されたマダニや動物血清検体なども含め、限られた期間内に、限られた地点において採取された検体について実施されており、地域ごとの検体数にもばらつきがあるなど、全国や各地域の実態を網羅的に反映したものではなく、得られた結果は暫定的なものである。今後、研究班としては、各自治体や関係者の協力を得ながら、対象地域や検体採取地点、動物の種類・頭数を広げて調査を実施することにより、マダニと動物におけるSFTSVのライフサイクルや各地域内におけるSFTSV保有マダニの分布様式・密度など、より詳細な実態解明を行っていきたい。

なお、今回の調査にあたって御協力をいただいた、大日本猟友会ならびに関係者の皆様に深謝申し上げます。

 

国立感染症研究所 獣医科学部  
     森川茂、宇田晶彦、加来義浩、木村昌伸、今岡浩一
同 ウイルス第一部  
     福士秀悦、吉河智城、谷英樹、下島昌幸、安藤秀二、西條政幸
同 昆虫医科学部  澤辺京子
同 細菌第一部  川端寛樹
同 動物管理室  新倉綾
山口大学共同獣医学部  前田健、高野愛
岐阜大学応用生物科学部  柳井徳磨
馬原アカリ研究所  藤田博己
福井大学医学部  高田伸弘

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<速報>無菌性髄膜炎患者からのエンテロウイルスの検出―大分県

(掲載日 2013/8/29)

 

大分県において、2013年第4週~第32週までに採取された無菌性髄膜炎患者検体からのウイルス検出状況について報告する。

患者発生状況:患者定点からの報告は多くない。しかし、第24週(6/10~6/16)以降、検査定点より無菌性髄膜炎と診断されて当センターに搬入される検体が増加し、第31週(7/22~7/28)に入ってようやく減少してきた(図1)。

材料および方法:2013年1~8月に無菌性髄膜炎と診断され、当所に搬入された患者27名36検体(髄液23検体、咽頭ぬぐい液13検体)を検査材料とした。エンテロウイルスの遺伝子検査は、まず、スクリーニングとしてVP4/VP2領域を標的としたsemi-nested PCR法1)を行った。エンテロウイルス陽性のものについては、VP1領域を標的としたnested PCR法2)およびダイレクトシークエンスで塩基配列を決定し、BLASTによる相同性検索で型別同定を行った。また、得られた塩基配列(355bp)を用いて近隣結合法による系統解析を行った。

ウイルス分離は、7細胞(HEp-2、RD-18S、Caco-2、MARC-145、Vero 9013、Vero E6、LLC-MK2)を使用し、1代を1週間として3代目まで継代および観察を行った。分離株は中和試験を行うとともに、VP1領域を標的としたnested PCR法を用いて同定した。

結果および考察:遺伝子検査を実施した36検体のうち、22検体からエンテロウイルスが検出された。型の内訳は、Echovirus30(Echo30)が13検体、Echovirus6(Echo6)が7検体、Coxsackievirus A9(CA9)が2検体であった。検出された患者の年齢分布をみると、5~9歳が最も多く17検体であった。エンテロウイルス以外ではCMVとHHV6が各1件ずつ検出された(表1)。

ウイルス分離については、Echo30が8株、Echo6が5株、ともにRD-18S およびCaco-2で分離できた。CA9はCaco-2で2株分離できた。

今回得られたEcho30およびEcho6と、これまで国内外で報告されている株の系統樹を作成したところ、今回分離されたEcho30株は、VP1部分配列においてBastianii(参照株)と約80%一致しているが、GenBankに登録されている2008~2010年国内分離株とは5%程度異なっていた(図2)。Echo6については2010~2012年に欧州で報告された株とほぼ同一クラスターを形成した(図3)。

Echo30については、無菌性髄膜炎の患者検体から最も多く検出されているが、咽頭炎や手足口病、ヘルパンギーナ、肺炎と診断された患者からも検出されている。またEcho6についても咽頭炎で検出されている。好発年齢が幼稚園や小学校に通う児童であることより、9月以降の動向に注意が必要と考える。

 

参考文献
1) Ishiko H, et al., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
2) Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006

 

大分県衛生環境研究センター 加藤聖紀 本田顕子 田中幸代 小河正雄

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<速報>石垣島内複数の保育所等で発生したA群ロタウイルスによる集団感染性胃腸炎事例―沖縄県

(掲載日 2013/8/27)

 

2013年5~7月に沖縄県石垣島内26カ所の保育所および児童館等の放課後児童が利用する施設(以下、保育所等)において、A群ロタウイルス(RVA)による感染性胃腸炎事例が発生した。沖縄県ではこれまで経験したことがない大規模なRVA集団感染となった本事例について、その概要を報告する。

2013年5月14日に沖縄県八重山保健所は、石垣島内の1カ所の保育所から10名以上の集団感染性胃腸炎が発生していると報告を受けた。さらに24日までに2カ所の保育所から同様の報告を受けた。八重山保健所は報告を受けた3保育所への感染対策の指導を行うと同時に、6月4日に石垣市と共に島内全保育所等を対象とした胃腸炎発症者数調査を行った。その結果、5月1日~6月10日の間に、島内43カ所の保育所等のうち19カ所で感染性胃腸炎が発生していることが明らかとなった。医療機関への聞き取りにより簡易キットによる迅速検査で小児患者がRVA陽性を示しているとの情報を得たことから、本事例はRVAによる集団感染性胃腸炎と考えられた。八重山保健所および石垣市は6月13日に保健所管内の保育所等施設長を対象に衛生講習会を実施するとともに、胃腸炎発症者数調査を継続したところ、7月13日までに新たに7カ所の保育所等から患者の報告があった。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生したこととなり、そのうち9カ所の保育所等では10名以上の集団感染となった。また小児28名が入院、そのうち2名が脳症を発症した。

八重山保健所管内に2カ所ある小児科定点から報告される2013年の感染性胃腸炎患者発生状況を図1に示す。石垣島内の小児科専門医はこれら2カ所の定点医療機関に限定しており、小児患者の大部分が受診していると考えられる。感染性胃腸炎患者は第19週(5/6~5/12)までは各週10名以下、合計68名が報告された。しかし、保育所等における集団発生が報告された第20週(5/13~5/19)に患者報告数が急増し、第20~31週(5/13~8/4)の間に220名の患者が報告された。衛生講習会が開催された第24週(6/10~6/16)から患者数の減少がみられることから、衛生講習会が感染拡大防止に寄与したことが考えられた。第20~31週の年齢別感染性胃腸炎患者報告数を図2に示す。1~2歳が220名中105名で47.7%を占め、流行の中心であったことが示された。

沖縄県衛生環境研究所において、簡易キットによりRVA陽性と診断された小児5名および大人1名、計6名の患者便について、Gouveaら1)およびWuら2)が報告したVP7およびVP4遺伝子を標的としたプライマーを用いてRT-PCR法によるRVAの検出を実施したところ、患者6名(100%)からいずれの遺伝子も検出された。そのうち小児3名と大人1名から得られたVP7VP4遺伝子のPCR産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定したところ、いずれもG1P[8]型に遺伝子型別され、DDBJのBlast検索ではVP7VP4遺伝子ともにRVA/Human-wt/USA/2007719635/2007/G1P[8] (VP7; JN258368、VP4; JN258371)と最も高い相同性を示した。

RVAは小児の感染性胃腸炎の主要な病原体であり、非常に感染力の強いウイルスである。RVAによる小児の重症化や成人の集団感染性胃腸炎も報告されている。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生し、10名以上の児童が発症した保育所等もみられた。流行期間中に入院した小児のうち2名が脳症を発症した。1~2歳が流行の中心であったが、一部では保育所等職員や児童の父母への感染があったとの報告もあり、流行期間中に胃腸炎を発症した大人1名から小児と同じ遺伝子型のRVAが検出された。八重山保健所管内の感染性胃腸炎患者報告数は第29週(7/15~7/21)以降、各週1名以下となり、本事例はほぼ終息したと考えられる。保育所等における感染対策としては、日頃からの衛生対策、乳児へのワクチン接種によるRVA感染対策、さらには保育所等職員や児童の家族内での感染防止が重要である。

八重山保健所は感染性胃腸炎発生のあった複数の保育所等間の児童や家族が接触する場として共通のものがなかったか調査したが、感染を拡大させた要因として明確なものは見出せなかった。沖縄県内のRVA流行状況は不明な点が多く、本事例が島内で既に流行していた株が保育所等に持ち込まれたことにより発生したのか、島外から持ち込まれた株により発生したのかは不明である。それを明らかにするためには、継続した患者および病原体サーベイランスが重要と考えられた。

 

参考文献
1)Gouvea, et al., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
2)Wu, et al., Epidemiol Infect 112: 615-622, 1994

 

沖縄県衛生環境研究所   
    仁平 稔 久場由真仁 加藤峰史 喜屋武向子 新垣絵理 高良武俊 岡野 祥 久高 潤
沖縄県八重山保健所   
    前津政将 桑江沙耶香 饒平名長令 大屋記子 宮川桂子

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<速報>同一ツアー内におけるデング熱、チクングニア熱の発生事例

(掲載日 2013/8/26 一部修正 2013/10/9)

 

カンボジアでの生活体験ツアーに参加した生徒のグループ内(小中学生8名、引率者1名)から、検疫所の入国時スクリーニングでデング熱およびチクングニア熱を同時に検出したので報告する。

ツアー内容:2013年8月2日成田国際空港から出国し、カンボジアの視察、生活体験後、8月12日に成田国際空港へ帰国のツアー。4~8日はコンポンチャム州内の村落でそれぞれホストファミリー宅に滞在。ツアー参加者が滞在した住居は蚊の侵入が容易な家屋であり、参加者は蚊の忌避剤、蚊取り線香を使用していたが、屋外、屋内にかかわらず蚊に刺されていた。

症例1:12歳女子生徒。検疫時の症状は、発熱(39.6℃)、頭痛、後眼窩痛、関節痛、水様性下痢、全身倦怠感。女子生徒は8月9日より発熱、頭痛、後眼窩痛、関節痛、全身倦怠感で発症し、12日より水様性下痢も認めた。12日の帰国時に、発熱を主訴とし検疫所健康相談室を訪室した。検疫所健康相談室では、渡航地、渡航期間、蚊の刺咬歴から、マラリア、デング熱、チクングニア熱の血液検査が必要であると判断し、検疫医療専門職が説明の上採血、検査を行った。

(検査結果)デング熱NS1抗原イムノクロマト検査(DENGUE NS1 Ag STRIP: BIO-RAD)陽性、デングウイルス特異的型別プライマーによるTaqMan RT-PCRでデングⅠ型、Ⅳ型陽性。マラリア迅速検査First Response  Malaria  Ag.  pLDH/HRP2  Combo(Premier Medical社製)およびアクリジンオレンジ染色法およびギムザ染色法によるマラリア原虫顕微鏡検査は陰性、チクングニアウイルス特異的プライマーを用いたTaqMan RT-PCRは陰性。以上の結果からデングウイルスⅠ型とⅣ型の重複感染疑いと診断した。重複感染を確定するために現在ウイルスを分離中である。

(経過)検査結果を当日中に保護者へ連絡した。女子生徒は8月12日に東京都内の病院に入院し、対症治療の下に経過観察を受け、8月17日の時点で解熱した。

症例2:14歳男子生徒。検疫時の症状は発熱(38.3℃)、頭痛、関節痛、全身倦怠感。男子生徒は8月9日に泥状便と腹痛を認めたが、消化器症状は1日でほぼ回復した。一方、10日から発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠感が出現し、症状が帰国時まで持続した。滞在中の蚊の刺咬歴あり。12日の帰国時に、症例1と同様に発熱を主訴とし検疫所健康相談室を訪室した。同様に、マラリア、デング熱、チクングニア熱の可能性を考慮し、血液検査を行った。

(検査結果)チクングニアウイルス特異的遺伝子陽性。マラリア迅速検査、原虫顕微鏡検査、デング熱NS1抗原、デングウイルス特異的遺伝子はいずれも陰性であった。以上の結果からチクングニアウイルス感染症と診断した。

(経過)検査結果を保護者へ連絡し、男子生徒は8月13日に近医を受診した。外来担当医は生徒の全身状態が良好であったことから、対症治療下に外来経過観察とした。

2012年はデング熱が220例、チクングニア熱が9例報告されている1)。IDWR速報データによれば 2013年第33週現在、131例のデング熱が報告され、チクングニア熱は本症例が2013年の第9例目である。今回の事例では、同一の旅行行程において両感染症が同時に発生していることにおいて注目される。

デングウイルスとチクングニアウイルスは日本には常在しない。デング熱は世界では熱帯地域を中心に毎年5,000万~1億人が感染している2,3)。また、デング熱の発生率は、50年の間で30倍に増加しており、今後も増加すると予想されている4)。一方、チクングニア熱は2011(平成23)年から検疫感染症および感染症法に基づく4類感染症に指定され、日本では年間10例前後の輸入例の報告がある。主な媒介蚊はデングウイルスと同じネッタイシマカと日本にも常在するヒトスジシマカである。今回、同一の村落での感染が疑われる2症例で、それぞれデングウイルス感染(I型、IV型重複感染疑い)、チクングニアウイルス感染がみられたことから、同一地域での両感染症の循環が示唆され、様々な年齢の旅行者がこのような地域に渡航する機会が増加するのに伴い、感染に対するリスクが増加していることは明らかである。

今回の事例では、蚊に対して忌避剤や蚊取り線香を用いるなど、蚊の刺咬に対する一般的な防御対策を行っていたが、感染を防御することはできなかった。蚊媒介性感染症が流行する地域への渡航では、渡航地域での流行状況の把握、感染リスクを低減する行動様式、旅行行程の配慮、蚊の刺咬防御に対する準備を慎重に行う必要がある。 

また、渡航中、帰国時に発熱を主とする症状がみられた場合は積極的に原因検索をすべきであり、特に、デング熱が疑われる症例では、チクングニア熱についても積極的に疑う必要があるといえよう。

 

参考文献
1)IDWR, http://www.niid.go.jp/niid/images/idwr/kanja/idwr2012/idwr2012-52.pdf,  p24 -25
2)Varatharaj A, Neurology India 58(4): 585-591, 2010
3)WHO media centre, Dengue and severe dengue, WHO Fact sheet N°117,   
     http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs117/en/index.html
4)WHO, Dengue Guidelines for Diagnosis, Treatment, Prevention and Control, WHO 2009
     http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241547871_eng.pdf,  p3

 

成田空港検疫所   
  検疫課 磯田貴義 本馬恭子 牧江俊雄 古市美絵子   
    検査課 久世敏輝 金川真澄 森 里美   
    所長 三宅 智

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<速報>弁当を原因食品とするA群溶血性レンサ球菌集団食中毒事例―岐阜市

(掲載日 2013/8/26)

 

2013年6月に岐阜市内の飲食店が調製した弁当を原因食品とする食中毒疑い事例が発生し、疫学調査および病因物質検査を実施した。その結果、A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒であると判明したのでその概要を報告する。

事例概要:2013(平成25)年6月28日に岐阜県関市内の病院で開催された医療関係者の勉強会に参加し、提供された弁当を喫食した複数の参加者が体調不良を訴えたため、同病院内で簡易検査を実施したところ、溶血性レンサ球菌が検出された旨、同病院から岐阜県関保健所に連絡があった。弁当を調製したのは岐阜市内の飲食店であったため、7月1日、岐阜県関保健所から岐阜市保健所に通報があり、調査を開始した。

調査の結果、6月26~30日に当該飲食店が調製した弁当を喫食したり、当該飲食店で食事をした8グループ190名のうち143名が有症者だった(発症率75.3%)。主な症状は、のどの痛み、発熱(平均38.5℃)、倦怠感で、潜伏時間は、4.5~74時間(平均28.7時間)だった。有症者および調理従事者の咽頭ぬぐい検査を実施したところ、検査を行った4グループの有症者24名中16名、調理従事者5名中1名からA群溶血性レンサ球菌が検出された。岐阜市保健所は、7月2日、当該飲食店が提供した弁当を原因とする食中毒と判断し、当該飲食店を5日間(平成25年7月2日~7月6日)の営業停止処分とした。

検査結果:有症者の咽頭ぬぐい液10検体、調理従事者の咽頭ぬぐい液5検体、調理従事者の手指のふきとり1検体、調理場のふきとり4検体、食品残品8検体を対象に、A群溶血性レンサ球菌について検査を実施した。検体を血液寒天培地に直接塗抹し37℃、5%CO2下にて、24~48時間培養した。血液寒天培地上でβ溶血環を示したコロニーについて、グラム染色、カタラーゼ試験を実施し、BHI brothでの液体培養所見を確認した。さらにアピストレップ20(biomerieux)にて、菌種の同定を行った。その結果、調理従事者5検体中1検体、有症者の咽頭ぬぐい液10検体中6検体からStreptococcus pyogenesが検出された。調理場および手指のふき取り5検体、食品残品8検体からS. pyogenesは検出されなかった。

岐阜市分離株7株(うち調理従事者由来1株、有症者由来6株)および岐阜県分離株10株(すべて有症者由来株)について群の決定、T型別、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行った。連鎖球菌キットストレプトLA「生研」(デンカ生研)で群分けを行ったところ、すべてA群であった。T型は、T型別用免疫血清(デンカ生研)を使用して型別し、すべてTB3264型であった。PFGEによる解析の結果、制限酵素Sma I およびSfi I によるPFGEパターン(図1)がそれぞれ一致し、同一由来株であることが考えられた。

考察:今回、有症者が複数の医療関係者であったため、溶血性レンサ球菌の簡易検査が速やかに行われ、溶血性レンサ球菌による集団食中毒と判明したが、通常消化器系以外の症状の場合は食中毒であることは見過ごされる可能性がある。本事例は原因菌が最初に判明していたため、速やかに調査および検査を実施することができた。

調理従事者から分離されたS. pyogenes と有症者から分離されたS. pyogenes はT型別、PFGEの解析結果により同一と考えられる。食中毒防止のため、調理従事者の健康管理および食品の衛生的な取り扱いが重要である。

最後に検査法について助言していただきました岐阜県保健環境研究所の関係各位に深謝します。

 

岐阜市衛生試験所  
    土屋美智代 中山亜由美 日比奈央実 松原祐子 田中保知  
岐阜市保健所食品衛生課   
    各務政志 西部尚史 加納康光

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<速報>ノロウイルスによる食中毒事例―愛媛県

(掲載日 2013/8/26)

 

2013年5月に愛媛県内の飲食店においてノロウイルス(NoV)GIIによる食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

5月27日、医療機関から「下痢、嘔吐、発熱等を呈する患者5名を診察した」と八幡浜保健所に連絡があった。同保健所で感染症および食中毒の両面から調査したところ、管内のビジネスホテル内飲食店で会食した7グループ132人のうち5グループ63人、同飲食店が調理した弁当を喫食した1グループ46人のうち25人および同ホテル宿泊客44人のうち22人が、25日から下痢、嘔吐、発熱等の食中毒様症状を呈し、うち58人が医療機関を受診し、1人が入院した。潜伏時間は17.5~118時間で、36~48時間をピークとする患者発生パターンを示した。当所に搬入された、患者糞便19件、調理従事者等糞便21件について、リアルタイムPCR法によるNoVの遺伝子検出を実施した結果、患者糞便16件(84.2%)、調理従事者等糞便8件(38.1%)からNoV GIIが検出された。

今回の事例では、患者に共通する食事は当該飲食店が提供した食事のみであること、患者および調理従事者の糞便からNoVが検出され、患者の症状、潜伏時間等の疫学調査結果と同ウイルスによる食中毒の特徴が一致することから、本事例を同飲食店が提供した食事を介して発生したNoVによる食中毒と断定した。

NoVが検出された患者および調理従事者等の検体について、カプシドN/S領域を増幅するプライマーを用いてPCR増幅後、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、系統樹解析を実施した。その結果、実施した検体はすべてNoV GII/4に型別され、塩基配列は100%一致していた(図1)。さらに、ポリメラーゼ(Pol) 領域からカプシドN/S領域およびカプシドP1/P2領域を増幅し遺伝子解析を行った結果(図2図3)、用いた株は、すべて既知のGII/4変異株とは異なる新しいクラスターに分類され、Pol領域(699bp)、カプシドP1/P2領域(624bp)とも100%一致し、Sydney/NSW0514/2012/AU(JX459908)とPol領域で98.9%、カプシドN/S領域で100%、カプシドP1/P2領域で98.1%の高い相同性を示した。また、これらの株は、Pol領域ではOsaka1/2007/JP 2007aに最も近縁(相同性94.3%)であり、カプシド領域ではApeldoorn317/2007/NL 2008aに最も近縁(相同性N/S領域97.2%、P1/P2領域94.2%)であったことから、Pol領域とカプシド領域の間で遺伝子組換えを起こしたウイルスであると考えられた。2012年10月以降に県内で検出されたGII/4の新しい変異株と本事例から検出されたGII/4株は極めて近縁(相同性98.4~100%)であった。

今回、消化器症状がみられない調理従事者からノロウイルスが検出されたことから、不顕性感染者の存在にも留意が必要であることを改めて認識した。

 

愛媛県立衛生環境研究所   
     青木里美 菅 美樹 山下育孝 服部昌志 大倉敏裕 四宮博人  
八幡浜保健所   
     徳永貢一郎 福田裕子 河瀬 曜 垣内恭子 望月昌三 堀内道生 武方誠二

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan