logo40

外傷患者の血液培養で分離された新型カルバペネ マーゼTMB-2 産生Acinetobacter soli

(IASR Vol. 34 p. 239: 2013年8月号)

 

近年、グラム陰性菌におけるカルバペネム耐性の獲得が問題となっている。Acinetobacter 属菌の中で最も分離頻度が高いA. baumanniiでは、カルバペネム耐性はOXA 型カルバペネマーゼ産生によるものが多く、これらは時として院内でアウトブレイクを引き起こす1)。一方、A. baumannii以外のAcinetobacter 属菌では、OXA 型カルバペネマーゼとは分子構造が全く異なるメタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を産生するものが多い。これまでにVIM 型やIMP 型、NDM 型などのMBL が、Acinetobacter nosocomialisAcinetobacter pittiiなどでよく見出されている2,3)

2013年5月、土木工事用重機による外傷の治療のため愛知県内の総合病院に入院した60代の男性患者の血液培養によりAcinetobacter 属菌が分離された。病院検査室における薬剤感受性試験の結果、この菌株はカルバペネム系を含む多くの広域β-ラクタム系薬に耐性と判定された。各種の抗菌薬の最小発育阻止濃度(MIC, [μg/ml] )を以下に示す。MEPM [>4]、CTX [>8]、CAZ [>8]、CFPM [>8]、CMZ [>16]、SBT/ABPC [>8]、PIPC [>64]、TAZ/PIPC [64]、GM [1]、AMK [4]、CPFX [0.12]。代表的な抗菌薬のMICを、名古屋大学細菌学教室で再検査した結果、次のように判定された。MEPM [32]、IPM [8]、DRPM [32]、CTX [>64]、CAZ [>64]、AZT [64]。

以上から、本菌株はカルバペネマーゼ産生株であることが強く示唆され、PCRによるカルバペネマーゼ遺伝子の解析により、TMB-1 型カルバペネマーゼ遺伝子が「陽性」と判定された。さらに詳細にPCR産物の塩基配列を解析した結果、最近国内で新たに発見されたTMB-2カルバペネマーゼの遺伝子と一致した。rpoB4)およびgyrAの解析により、この菌株はAcinetobacter soliである可能性が強く示唆された。

この菌株が分離された医療機関では、初期の段階でこの菌株を検出し、適切な感染対策が取られたことから、院内での患者間伝播は発生していない。

TMB-1 カルバペネマーゼ遺伝子は、2012年にリビアのトリポリで分離されたAchromobacter xylosoxidansで最初に見出されたものである5)が、それ以降はまだ分離の報告が無い。TMB-2 カルバペネマーゼの遺伝子は、最近国内でAcinetobacter pittiiAcinetobacter genospecies 14BJにおいて新たに発見されたものである6)。TMB-2 カルバペネマーゼは、TMB-1 カルバペネマーゼと比較すると228番目のセリンがプロリンに置換したものである。TMB-2 カルバペネマーゼ産生菌の分離はこの報告が3例目となるが、A. soli としては、世界で最初の分離例である。A. soli は、2007年に韓国の山岳の森林の土壌から最初に分離され、新しく認定されてAcinetobacter 属に追加された菌種である7)。外国では、複数の新生児の血流感染症の起因菌として分離されている8)。国内では最近、血液からIMP-1型カルバペネマーゼとOXA-58型カルバペネマーゼを同時に産生するカルバペネム耐性株の分離が報告され9)、専門家の間で関心事となっている。今回も血液からの分離であった。

Acinetobacter 属菌は、様々な環境に定着し易い特性を有している。またAcinetobacter 属菌が獲得した耐性遺伝子は、同属の他の菌種や他の属の菌種にも伝達されることが知られている。今後、Acinetobacter 属菌のみならず、他のブドウ糖非発酵菌や腸内細菌科の菌群にTMB型カルバペネマーゼ遺伝子が伝播拡散していく可能性があり、カルバペネム耐性菌や多剤耐性菌による感染症例では治療に困難をきたすことから、医療機関においては注意が必要である。このような耐性菌が分離された場合、遺伝子などの詳しい解析については、以下の事務連絡を参考に、国立感染症研究所細菌第二部(taiseikin[アットマーク]nih.go.jp)に相談いただきたい。

*[アットマーク]は@に置き換えて送信してください。

厚生労働省 事務連絡 (平成25年3月22日)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/130322.pdf

 

参考文献
1) Garlantezec R, et al., J Hosp Infect 77: 174-175, 2011
2) Endo S, et al., J Antimicrob Chemother 67: 2533-2534, 2012
3) Yamamoto M, et al., Clin Microbiol Infect, doi: 10.1111/1469-0691.12013, 2012
4) La Scola B, et al., J Clin Microbiol 44: 827-832, 2006
5) El Salabi A, et al., Antimicrob Agents Chemother 56: 2241-2245, 2012
6) Suzuki S, et al.,J Antimicrob Chemother 68: 1441-1442, 2013
7) Kim D, et al., J Microbiol 46: 396-401, 2008
8) Meohas MM, et al., J Clin Microbiol 49: 2283-2285, 2011
9) Endo S, et al., Antimicrob Agents Chemother 56: 2786-2787, 2012

 

名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学分野   
     北仲博光 和知野純一 荒川宜親

logo40

男性同性愛者間で感染した侵襲性髄膜炎菌感染症事例、2012年10月~2013年5月―ドイツ

(IASR Vol. 34 p. 240: 2013年8月号)

 

侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は稀だが重篤な疾患で、小児を中心に罹患を起こすが、年齢が上がるとともに重症化傾向がある。2013年7月2日までにドイツで報告された 208例(例年と大きな違いはない)中、ベルリンで報告された17例のうち3例の男性同性愛者(MSM)がC群髄膜炎菌(MenC)に罹患した。

髄膜炎菌の12の血清群のうちドイツではBとCが多く、年間のIMD 罹患率は2010~2012年まで平均して人口10万人当たり0.45、若年成人(20~29歳)では0.65。致死率は2012年で 9.3%、MenCは最も高く13%だった。ドイツでは2006年からMenCワクチンが1歳時に定期接種勧奨され、キャッチアップ接種も勧奨されているが具体的な接種促進策は行われていない。2010年の小学校入学時のMenCワクチンカバー率は53~90%と、州ごとにばらつきがある。勧奨されたワクチンについて接種費用は無償だが、それ以外で医師に処方される場合は有料での接種となる。

MSM 間の3例については、症例1は20代前半の男性で、悪寒、発熱および激しい腹痛を2月初旬に訴え入院したが、緊急腹部手術中に死亡した(入院の10時間以内)。血液培養からMenC陽性。発症前日には複数のゲイバーへ立ち寄っていた。症例2と症例3はいずれも20代なかばで、5月に同じゲイ向けナイトクラブに行き夜をともにした。2日後に症例2は発熱、嘔気、嘔吐、易刺激性、頸部硬直をきたし、入院のうえ集中治療室で加療された。生存こそしたものの、脳に不可逆な後遺症を残した。症例3は1日後に易刺激性、発熱、嘔気をきたしたが医療機関を受診しないまま自宅で翌日に死亡。解剖により敗血症性ショックとDIC による死亡と診断され、髄液からMenCを検出。喫煙およびゲイバー以外にリスク要因は見つからず、HIV 陽性の診断もなく、MenC予防接種歴もなかった。症例2と症例3の関連は想像できるが、症例1とこの2例との関連は不明で、過去にMSM 間での流行が見られたパリやニューヨークとの関連も不明。

分子タイピングの結果、この3例ともMenCのST11、ET15とわかり、ドイツで1998年から頻繁に小流行を起こしていた株であった。PorAとFetAはET15で従前より関連していることが知られているため、porB と fHbppenA のタイピングが追加で行われた。いずれも同一と分かり、上記3例の関連を示唆した。

後ろ向き疫学調査として、発生動向調査に報告された症例のうちMSM の事例を検索し、2例が追加で同定された(発症は2013年2月と2012年10月)。いずれも20代後半で、2012年10月の症例は敗血症から死亡。検体はいずれも髄膜炎菌のレファレンスラボで検査され、同じくST11だった。追加の分子タイピングでは、2013年2月の症例は上記3例とは異なる株と示唆され、複数の流行系統が示唆された。

公衆衛生的な対応としては、ベルリンでの2012年10月~2013年6月までのMSM コミュニティでのMenCによるIMD 罹患率が調べられた。10万人当たり 6.3症例で、エピデミックとは認められなかった(ドイツでは3カ月以内に特定の地域で10万人当たり10症例以上をエピデミックと定義)が、全血清型の罹患率と比べても同世代の期待値(0.65)からは10倍の高さであった。

MSM 間でのIMD の集積はドイツの感染症サーベイランスネットワークとベルリンの医療従事者に通報され、症例の積極的探索が勧められた。AIDS患者支援団体はウェブサイトでIMDに関する情報をMSM 向けに発信し、HIV 陽性者は無料で髄膜炎菌予防接種が勧奨されていることを周知した。地域での流行の際には勧奨の拡大が可能であり、MSMのIMD症例のなかでHIV 陽性者が今のところいないことから、より広範なMSMに対する髄膜炎菌予防接種を検討している。

(Euro Surveill. 2013;18(28):pii=20523 )
logo40

黄熱に対するワクチンと予防接種-2013年WHO 方針

(IASR Vol. 34 p. 240-241: 2013年8月号)

 

この黄熱に対するワクチンと予防接種のWHO 方針は2003年の方針の改訂である。

背景:黄熱は現在アフリカと南米の44カ国で蔓延している。予防接種キャンペーンが中止され、予防接種率が維持されなくなった地域では、予防接種未接種者の間で黄熱がまた流行し始め、一度は根絶されたと考えられた地域(アルゼンチン北部、ブラジル南部、パラグアイ、カメルーン南部、中央アフリカ共和国、ウガンダ、スーダン等)でも大規模な流行が起こるようになった。患者の90%はアフリカで発生しており、2013年にアフリカでは8.4~17万人の重症患者と 2.9~6万人の死者が発生していた。

黄熱には患者の年齢、性、職業の分布から3つの異なる伝播サイクルがある。野生生物型はヒト以外の霊長類に感染し、ジャングルの林冠にいる蚊(Haemago-gusAedes)により媒介され、ヒトへの感染は偶発的に起こる。南米で多く、70~90%の感染者は森林近くで働いている若年男性である。2つ目の中間型は荒地や人家近くでAedes が吸血できるアフリカの湿潤地域で認められ、ヒト以外の霊長類とヒトどちらにも感染する。3つ目の都会型は、黄熱に対する免疫が乏しいヒトが密集していてネッタイシマカが活発な地域に感染者が移動し、ウイルスがヒトからヒトへ運ばれて大規模な流行を起こす。

黄熱ウイルスはフラビウイルス属の1本鎖RNAウイルスである。感染すると無症候の場合もあるが、通常ウイルス曝露後3~6日で発症し、発熱、筋肉痛などの非特異的症状が急激に始まる。一時緩解した後15%のヒトでは2~24時間後に症状が再燃し、腎不全、黄疸、出血傾向、心筋障害が起こる。肝腎不全に至ると20~50%が通常発症から7~10日で死亡する。診断は血清IgMやIgG の検出によるが、IgMは他のフラビウイルスへの既感染があると上昇せず、逆に罹患や予防接種後は数年にわたり上昇する。IgG は少なくとも35年または生涯上昇したままとなる。特異的な治療法はない。

現在の17D 系からの弱毒生ワクチンは、1927年にガーナで分離された野生株に基づき鶏胎児胚細胞で増殖させて作られており、蚊では媒介されない。ソルビトールやゼラチンが安定剤として使われているが保存剤は含まれず、凍結乾燥されている。保管は-2~-8℃として、使用直前に溶解液で戻した後は氷上で遮光保存し、1~6時間で破棄する。接種は 0.5mlを皮下注または筋注する。健常人では10日以内に80~ 100%、30日以内に99%が中和抗体を獲得する。HIV 感染者では接種1年後の抗体価上昇が83%(65/78)であり、HIV 非感染者の97%(64/66)より有意に低かった。また、妊婦では妊娠第3期の接種で39%、妊娠第1期の接種で95%の抗体獲得率という報告がある。

頭痛や局所違和感などの軽度副反応は25%で報告され、重度副反応は3つに分類される。1つ目のアナフィラキシーは0.8/10万で発生し、卵やゼラチンアレルギーの人で多い。2つ目のワクチン関連神経疾患は、脳炎、髄膜炎、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎等で 0.25~0.8/10万で発生する。3つ目のワクチン関連多臓器不全は60歳以上で多く、0.25~0.4/10万で発生し、致死率60%以上である。妊婦の接種は、自然流産が増えるという報告と主だった奇形や死産の増加はないという報告があり、メーカーは禁忌としているが、流行時には保健当局の指示に従い接種可能である。同時接種に関しては、多くのワクチンで同時接種は安全だが、MMRと一緒に接種した場合、黄熱、風疹、ムンプスの抗体価が有意に上昇しなかったという報告がある。

WHO の声明
黄熱ワクチン使用の一般的目的と戦略:黄熱予防接種は、蔓延または流行地域の人を守る、それらの地域への旅行者を守る、ウイルス血症を起こした旅行者からのウイルスの国際的伝播を防ぐ、という3つの目的から行われる。すべての蔓延国で1回の黄熱ワクチンを定期接種に組み込むことが推奨される。

スケジュール:蔓延国では黄熱ワクチンは9~12カ月に麻疹ワクチンとの同時接種が推奨される。また、導入期限が設けられるべきである。予防接種率が低い場合には大規模予防接種キャンペーンの施行が推奨される。患者報告地域では9カ月以上の全員に予防接種の機会が提供されるべきである。黄熱の危険地域に旅行者が出入りする場合、ワクチン未接種の9カ月以上の人では予防接種が薦められるべきである。他のワクチンとは同時接種が可能である。

特別な対象と禁忌:CD4 細胞数 200個/mm3以上で無症状のHIV 感染者は接種が薦められる。臨床的に元気な小児にはHIV 感染症の有無にかかわらず接種してもよい。妊婦と授乳中の女性は予防接種の利益と危険とが検討されるべきであり、カウンセリングが行われるべきである。黄熱蔓延地域または流行中は、胎児や新生児へのワクチン株感染の危険より母親の予防接種での利益が大きく、予防接種を受けた授乳中の女性では授乳での利益が大きい点が助言されるべきである。妊婦や授乳中の女性が黄熱蔓延地域に行く必要がある場合は黄熱の予防接種を受けるべきである。黄熱予防接種は6カ月未満の乳児では禁忌であり、6~8カ月の幼児では黄熱が流行中で罹患する危険が高い場合を除き薦められない。

重度の卵アレルギーや重度の免疫不全(原発性免疫不全、甲状腺疾患、CD4陽性T細胞が200未満で症状のあるHIV感染者、化学療法中の悪性新生物、最近の造血幹細胞移植、免疫抑制剤や免疫に影響を与える薬物、免疫細胞を標的とした放射線治療)では禁忌である。60歳以上の人では副反応のリスクが増すため、黄熱に罹患するリスクと予防接種後副反応のリスクとを評価検討すべきである。

サーベイランスと研究の優先度:黄熱コントロール戦略には、疾患とワクチン副反応に関する検査機関の協力に基づくサーベイランスが含まれるべきである。HIV陽性者での免疫持続、MMR等の他の弱毒生ワクチンとの同時接種、妊婦と60歳以上の高齢者での黄熱ワクチンの安全性や免疫原性を評価するための質の高い研究が必要である。

 
(WHO, WER, 88, No.27, 269-283, 2013) 
logo40

英国での麻疹、風疹および流行性耳下腺炎の診断状況、2013年第1四半期

(IASR Vol. 34 p. 240: 2013年8月号)

 

イングランドでのMMR ワクチン含有疾患の発生状況が四半期ごとに報告されている。2013年1~3月までの発生状況は以下の通り。

麻疹:検査された検体2,222サンプルのうち確定例 673例(口腔液 383例、その他の検体 290例)。前年同時期の262例より倍以上増加。大多数(72%)は18歳までの小児で、麻疹を含むワクチンの接種歴があるのは10%。

流行性耳下腺炎: 948確定例(前年同時期は 478例)のうち、1985~1994年の間に生まれた若年成人が65%を占める。症例のうち約半数はMMR ワクチンの接種歴がある。

風疹:4例確定診断された。18~29歳の成人で、2例は妊娠期間中に診断された女性だった。

 (HPR 7(23), 7 June 2013)
 
2013年、コクサッキーウイルスA6型による手足口病流行の兆し―熊本県

(IASR Vol. 34 p. 233: 2013年8月号)

 

熊本県において、2013年4~6月に、手足口病患者検体からコクサッキーウイルスA6型(CA6)が多数検出されたので、発生状況とエンテロウイルス検出状況を報告する。

患者発生状況:手足口病の患者数は2013年第17週(4/22~28)頃から増加傾向となり、第24週(6/10~16)には定点当たりの報告数が5.14で警報基準値(5.00以上)を超えた。第25週(6/17~23)にはさらに増加し8.06となった。

材料および方法:2013年4~6月に手足口病、ヘルパンギーナもしくは発疹症と診断され当所に搬入された患者の咽頭ぬぐい液等67検体(手足口病:22検体、ヘルパンギーナ:26検体、発疹症:19検体)を検査材料とした。エンテロウイルスの遺伝子検査は、VP4/VP2領域を標的としたsemi-nested PCR法1)により行った。エンテロウイルス陽性と判定された場合、VP1領域を標的としたnested PCR法2)およびダイレクトシークエンスで塩基配列を決定し、BLASTによる相同性検索で型別同定を行った。また、得られたCA6の塩基配列(274bp)を用いて、近隣結合法による系統樹解析を行った。

ウイルス分離は、4細胞(RD-A、VeroE6、HEp-2、MRC-5)を使用し、1代を2週間として2代目まで継代および観察を行った。分離できた株は、中和試験を行った。

結果および考察:検査した67検体のうち、38検体がエンテロウイルス陽性と判定され、そのうち33検体が型別された。型の内訳は、CA6が22検体(手足口病:17検体、ヘルパンギーナ:2検体、発疹症:3検体)、コクサッキーウイルスA8型(CA8)が8検体(ヘルパンギーナ:7検体、発疹症:1検体)、エコーウイルス18型(Echo18)が3検体(発疹症:3検体)であった()。CA6が検出された患者の年齢分布を見ると、0歳が4名、1歳が13名、2歳が1名、3歳が4名であった。CA6が検出された患者の中には、強い発疹や、水痘様との症状の記載があるものも見られ、最近報告されている水痘疑いからCA6が検出された例(IASR 34: 204, 2013参照)と類似していると考えられた。

ウイルス分離は、現在培養中のものもあるが、CA6と同定できた22検体のうち18検体からRD-A細胞によって分離できた。当所では、2011年のCA6流行時にはRD-18S細胞を使用しており、CA6は分離できていない。このことから、RD-A細胞はCA6の分離に非常に有用であると考えられる。

今回得られたCA6株と、これまで国内外で報告されている株の系統樹()を作成したところ、今回検出された株は、すべて2008年以降に国内外で検出されているCA6株と同じクラスターに分類された。また、今回検出された株の相同性は95%以上と高く、1株を除いた株でサブクラスター(2013-Kumamoto)を形成した。熊本県で検出された2011年のCA6株は、同年に他県で検出された株と同じサブクラスターに分類されていることから、2013-Kumamotoも同様に地理的な要因ではなく、時期的なものであると推定される。

2011年は全国的に手足口病の大流行が起こり、患者から多数のCA6が検出された。2013年もすでにCA6が流行の兆しを見せており、今後の動向に注意が必要である。

 

参考文献
1) Ishiko H, et al., J Infect Dis 185: 744-754, 2002
2) Nix WA, et al., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006

 

熊本県保健環境科学研究所 清田直子 原田誠也
しまだ小児科 島田 康
上野小児科医院 上野剛彦

logo40

福祉施設におけるヒトメタニューモウイルス集団感染事例―千葉市

(IASR Vol. 34 p. 234 -235: 2013年8月号)

 

2013年4月下旬~5月下旬にかけて千葉市内の福祉施設(入所者87名、職員37名)において、ヒトメタニューモウイルス(Human metapneumovirus: hMPV)を原因とする呼吸器感染症の集団事例が発生したので、その概要を報告する。

2013年5月8日、当該施設長から「発熱、咽頭痛、咳の呼吸器症状を呈している入所者が多数いる」旨の連絡が千葉市保健所にあった。保健所の調査の結果、初発例は4月27日発症の4名であることが明らかとなり、以降は5月20日まで発症者が認められた。発症者の主な症状は発熱(37.5℃~38℃)、咽頭痛、咳であり、中には肺炎症状を呈する症例も認められた。また、初発例2名について迅速診断キットによるインフルエンザウイルスの検出を試みたが、2名ともに陰性であった。

本事例の症例定義を「4月27日~5月20日の期間に、発熱、咽頭痛、咳の症状を呈した者」とした場合、発症者は入所者51名、職員2名の合計53名となった(図1)。呼吸器症状を呈する入所者51名のうち15名が肺炎症状を呈し、1名が入院となった。また、発症者の年齢幅は42~85歳であり、肺炎症状を呈した重症例15名のうち14名が62歳以上の高齢であった。感染拡大防止対策として、外出・外泊・面会の中止、施設内の消毒、入所者・職員のマスク着用、うがい・手洗いの励行、入所者全員の体温測定(1回/日)による発症者の早期発見、および発症者の居室分離などの措置を講じた。その結果、5月20日以降、新たな発症者が認められなくなったことから、本事例は終息したものと判断された。

千葉市環境保健研究所において、肺炎症状を呈する5症例の咽頭ぬぐい液(5月8日採取)から遺伝子検出とウイルス分離を実施した。遺伝子検出はRSウイルス、hMPV、パラインフルエンザウイルス(1型、2型、3型)、エンテロウイルス、ヒトライノウイルス、ヒトコロナウイルス、ヒトボカウイルスの9種類を対象とした。RSウイルス1)、hMPV、パラインフルエンザウイルス、ヒトボカウイルスについては、Real-time (RT-) PCR法による検出を実施した〔hMPV、パラインフルエンザウイルス、ヒトボカウイルスのReal-time (RT-) PCR法については独自に設計したプライマーとTaqMan MGBプローブを使用〕。また、エンテロウイルス2)、ヒトライノウイルス2)、ヒトコロナウイルス3)については、RT-PCR法による検出を実施した。一方、ウイルス分離にはRD-18S、VeroE6、HEp-2、CaCo-2、およびMDCK細胞の5種類を用いた。その結果、ウイルス分離はすべて陰性であったが、Real-time PCR法によって5症例のうち4症例からhMPV遺伝子のみが検出された。そこで、Real-time PCR法によって検出された4症例について、RT-Nested PCR法4)を行ったところ、1症例のみからPCR産物が得られた。さらに、ダイレクトシークエンス法により、PCR産物の塩基配列(F遺伝子領域317bp)を決定し、系統樹解析を実施したところ、本症例から検出されたhMPVの遺伝子型はB2であることが明らかとなった。また、NCBIにおけるBlast検索では、本症例から検出された遺伝子は、hMPV/Fukui/287/2008(AB716392)と最も高い相同性を示した。

千葉市においては、2013年3~5月の期間に病原体定点医療機関において上気道炎、または下気道炎と診断された散発症例8名からhMPVが検出されている。これらのhMPVはすべて遺伝子型B2であり、その塩基配列も本事例の検出株と相同性が非常に高かった(塩基配列解析部位が100%一致)。このことから、本事例の発生期間である4月下旬~5月下旬に千葉市内で流行していたhMPV-B2が当該施設における流行に関与していた可能性が示唆された。なお、2013年6月以降の散発症例からは、主に遺伝子型B1が検出されており、今後のhMPV遺伝子型の動向(流行する遺伝子型の変化)が注目される。

以上の結果から、本事例はhMPV-B2を原因とする呼吸器感染症の集団発生であり、初発例からの飛沫や接触によるヒト-ヒト感染によって、施設内に感染が拡大したことが示唆された。hMPVは、国内では春期(2~6月)を中心に流行し、乳幼児や高齢者では下気道呼吸器感染症(細気管支炎、喘息様気管支炎、肺炎など)を引き起こす一方、健康成人においては比較的軽度の急性上気道炎の起因ウイルスでもある5)。本事例でも、発症者53名のうち38名が発熱、咳、咽頭痛の上気道炎、15名が肺炎症状を呈する重症例であった。このことから、hMPVは成人の急性呼吸器感染症の原因ウイルスとしても重要視すべき存在であることが示唆され、特に高齢者施設などでの集団感染や院内感染に注意が必要であると考えられた。

 

参考文献
1)横井ら,感染症誌 86: 569-576,2012
2)石古ら,臨床とウイルス 27: 283-293,1999
3)Vijgen L. et al.,Methods Mol Biol 454: 3-12,2008
4)高尾ら,感染症誌 78: 129-137,2004
5)菊田英明,ウイルス 56: 173-182,2006

 

千葉市環境保健研究所健康科学課
     横井 一 水村綾乃 小林圭子 木原顕子 都竹豊茂 三井良雄
千葉市保健所感染症対策課
     飯島善信 西郡恵理子 牧 みさ子 加曽利東子 元吉まさ子 澤口邦裕 本橋 忠 山口淳一

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan