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(掲載日 2013/8/9)
2012年8月、愛媛県内の1保健所管内で食中毒を疑う事案が発生し、疫学調査および病因物質の検査を実施したところ、A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒であることが判明したので、その概要を報告する。
事例概要:2012年8月18日、管内の医療機関から西条保健所へ「8月13~18日の間、発熱、咽頭痛等の症状を呈している15名の患者を診察した。」との届出があった。患者は8月12日に行われた自治会主催の夏祭りで提供された食品を喫食しており、保健所は集団食中毒または感染症の発生を疑い、疫学調査等を実施した。
調査の結果、喫食者89名のうち発症者は46名(男性17名、女性29名)で、発症者の年齢は7~70歳であった。症状別発症者数を表1に示した。主症状は、発熱、咽頭痛、悪寒であり、腹痛、吐き気などの消化器症状を訴えた患者は少なかった。潜伏時間は、6.5~112時間であり、流行曲線は24~36時間を中心とするほぼ一峰性の患者発生パターンを示した。発症者全員に共通する食品は飲食店が調理し、夏祭りで販売されたおにぎりのみであり、当該事案はこのおにぎりを原因食品とする集団食中毒であると断定された。
検査結果:食中毒の病因物質特定のため、患者(便検体19件、咽頭ぬぐい液5件)、調理従事者(便検体、咽頭ぬぐい液、手指のふき取り検体各2件)、調理施設・調理器具(ふき取り検体13件)を対象に、A群溶血性レンサ球菌の他、サルモネラ属菌、セレウス菌等の食中毒菌10菌種およびノロウイルスについて検査を実施した。
その結果、患者の咽頭ぬぐい液3件、調理従事者の咽頭ぬぐい液・手指のふき取り検体各1件、調理器具のふき取り検体1件から、A群溶血性レンサ球菌(TB3264型)が分離された。黄色ブドウ球菌は、調理従事者便・手指のふき取り検体各1件、施設のふき取り検体1件から分離された。
以上の検査結果と患者の症状、潜伏時間などの疫学調査の結果から、当該食中毒の病因物質は、A群溶血性レンサ球菌と断定された。
分離されたA群溶血性レンサ球菌について、細菌学的検討を行った。分離株6株はすべて、speB、speC、speFの発赤毒素遺伝子を保有しており、emm遺伝子型は89型であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析は、制限酵素Sma IおよびSfi Iを用い、DNA切断パターンの比較を行った。今回の食中毒事例株の他に、県内の感染症発生動向調査で分離されたA群溶血性レンサ球菌5株(以下、感染症由来株)を併せて、PFGE解析を実施した。解析結果は図1に示した。食中毒事例株6株は、制限酵素Sma I およびSfi I によるPFGEパターンがそれぞれ一致し、同一由来株であることが考えられた。また、他の感染症由来株とは異なるグループに分けられた。
原因食品については、残品がなく、検査が実施できなかったが、調理従事者の咽頭ぬぐい液、手指のふき取り検体からA群溶血性レンサ球菌が分離されていることから、調理従事者により汚染された食品を喫食したことが原因と推察された。
考 察
原因食品であるおにぎりの調理工程や取り扱いについて調査した結果、咽頭ぬぐい液と手指のふき取り検体からA群溶血性レンサ球菌が分離された調理従事者は、手指に化膿創があるにもかかわらず、使い捨て手袋の着用等食品の汚染防止対策を講じていなかったこと、午前中に調理後、提供される夕方までの保管温度が不適切であったことが判明した。今回の事例では、冷房による温度管理が不十分な部屋で汚染されたおにぎりを長時間放置したことにより、菌が増殖したと考えられた。分離されたA群溶血性レンサ球菌の細菌学的検討の結果は、疫学調査を裏付ける結果であった。
食中毒防止のため、施設の清掃・消毒などの基本的な衛生管理の指導の他、調理従事者の健康管理の重要性についても十分に周知することが必要であると考えられた。
愛媛県立衛生環境研究所
林 恵子 松本純子 山下育孝 烏谷竜哉 服部昌志 大倉敏裕 四宮博人
愛媛県西条保健所
伊藤樹里 大内かずさ 山内宏美 大西利恵 豊嶋千俊 山本真司 井上 智 越智幸枝
吉江里美 岡本哲也 上満祐子 伊藤弘子 川村直美 青木紀子 佐伯裕子 桑原広子
新山徹二
(平成24年度の所属による)
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ブタの日本脳炎抗体保有状況 -2013年速報第4報-(2013年8月8日現在) |
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日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。 1960年代までは毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。当時,Konnoらは調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致しておらず,近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度である。しかし,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていることが考えられる。 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)により測定することで,日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。下表は本年度の調査期間中におけるブタの抗体保有状況について都道府県別に示しており,日本脳炎ウイルスの最近の感染が認められた地域を青色,それに加えて調査したブタの50%以上に抗体保有が認められた地域を黄色,調査したブタの80%以上に抗体保有が認められた地域を赤色で示している。 本速報は日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない者,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。 本年度の日本脳炎定期予防接種は,第1期(3回)については標準的な接種年齢である3~4歳および第1期接種が完了していない小学1~4年生(年度内に7~10歳:2003~2006年度生まれ),第2期(1回)については高校3年生相当年齢(年度内に18歳:1995年度生まれ)に積極的勧奨が行われているが,それ以外でも日本脳炎ウイルスの活動が活発な地域に居住し,接種回数が不十分な者は日本脳炎ワクチンの接種が望まれる。なお,日本脳炎の予防接種に関する情報については以下のサイトから閲覧可能である。 【 国立感染症研究所HP / 厚生労働省HP 】 |
抗体保有状況 (地図情報) 抗体保有状況 (月別推移) |
HI抗体 | 2-ME 感受性 抗体 |
都道府県 | 採血 月日 |
HI抗体 陽性率 ※1 |
2-ME感受性 抗体陽性率 ※2 |
コメント |
◎ 5/27 |
◎ 6/24 |
沖縄県 | 7/29 | 25% (5/20) |
50% (2/4) |
HI抗体陽性例のうち4頭は抗体価1:40以上であり、そのうち2頭から2-ME感受性抗体が検出された。 |
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鹿児島県 | 7/22 | 0% (0/20) |
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大分県 | 8/2 | 0% (0/10) |
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熊本県 | 7/29 | 0% (0/20) |
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◎ 7/2 |
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長崎県 | 7/23 | 100% (10/10) |
0% (0/1) |
HI抗体陽性例のうち1頭は抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
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佐賀県 | 7/31 | 0% (0/10) |
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◎ 7/23 |
◎ 7/23 |
福岡県 | 7/30 | 30% (3/10) |
100% (3/3) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
◎ 6/25 |
◎ 6/25 |
高知県 | 7/23 | 90% (9/10) |
0% (0/9) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であったが、2-ME感受性抗体は検出されなかった。 |
◎ 7/9 |
◎ 7/23 |
愛媛県 | 7/23 | 40% (4/10) |
100% (4/4) |
HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
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広島県 | 7/24 | 0% (0/10) |
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兵庫県 | 7/23 | 0% (0/10) |
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◎ 8/5 |
◎ 8/5 |
三重県 | 8/5 | 10% (1/10) |
100% (1/1) |
HI抗体陽性例は抗体価1:40以上であり、2-ME感受性抗体も検出された。 |
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愛知県 | 7/22 | 0% (0/10) |
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◎ 7/16 |
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富山県 | 7/22 -23 |
10% (2/20) |
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HI抗体陽性例はすべて抗体価1:40未満であった。 |
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新潟県 | 7/30 | 0% (0/10) |
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栃木県 | 8/5 | 0% (0/14) |
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茨城県 | 7/29 | 0% (0/10) |
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調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域 | ||||||
◎ | 調査期間中に調査したブタからHI抗体あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示し、日付は今シーズンで初めて検出された採血月日を示す | |||||
※1 HI抗体は抗体価1:10以上を陽性と判定した。 ※2 2-ME感受性抗体は抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)の検体について検査を行い,2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。なお,2-ME未処理の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満となった場合も陽性と判定した。 |
1. | Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169. |
2. | 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況-厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982~1996)に基づく解析-. 感染症学雑誌. 1999. 73: 97-103. |
3. | 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22. |
4. | Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300. |
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国立感染症研究所 感染症疫学センター/ウイルス第一部 |
国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所(地研)から「病原体個票」が報告されている。これには感染症発生動向調査の定点およびその他の医療機関、保健所等で採取された検体から検出された病原体の情報が含まれる。 |
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2013年 1~7月に埼玉県、千葉県、東京都、静岡県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県、和歌山県、岡山県、広島県、福岡県の12都府県から31件の麻疹ウイルスの分離・検出が報告されている。 B3型:5月1件 D8型:3月3件、4月4件、5月1件、計8件 D9型:3月2件、4月1件、5月1件、計4件 H1型:2月1件、3月2件、6月2件、計5件 A型(ワクチンタイプ):1月2件、2月2件、3月2件、4月4件、7月1件、計11件 未型別:3月2件
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国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局 |
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注目すべき感染症
2013年の腸管出血性大腸菌感染症報告数は、第19週までは20例以下の報告が続き、第20週から増加し始めた。第26週に130例と100例を超え、第27週154例、第28週169例で第29週は135例であった(図1)。本年第29週までの累積報告数1,206例は、2000年以降の各年の同週までの累積報告数と比較して2003年に次いで2番目に少ない報告数である(2000年1,300例、2001年1,824例、2002年1,407例、2003年1,015例、2004年1,406例、2005年1,391例、2006年1,321例、2007年1,576例、2008年1,443例、2009年1,369例、2010年1,603例、2011年1,616例、2012年1,264例)。また、患者(有症状者)に絞った累積報告数は833例であり、2007年以降*で比較すると2012年に次いで2番目に少ない(2007年1,059例、2008年983例、2009年895例、2010年1,017例、2011年1,083例、2012年794例)(図2)。
性別では男性524例、女性682例、年齢群別では0~9歳297例(うち5歳未満171例)、20~29歳207例、10~19歳171例の順に多かった。
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