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香川県におけるLAMP法による百日咳菌遺伝子検出状況

(IASR Vol. 33 p. 104-105: 2012年4月号)

 

香川県では、感染症発生動向調査の強化目的として、2011年8~12月の間、県内に4つある小児科病原体定点のうち2医療機関に依頼し、百日咳が疑われた患者の咽頭ぬぐい液について、LAMP法による百日咳菌検出試薬キット(栄研化学)を用いて香川県環境保健研究センターにて検査を実施したので報告する。

 

2医療機関より5カ月間に百日咳疑いとして検体送付のあった症例数は58例であり(男24女34)、表1にLAMP法陽性および陰性に分類してそれぞれの基本情報を示す。LAMP法陽性は14件(男6女8)であった。陽性者において生後6カ月未満の乳児が多くみられ(64.3%)、予防接種の機会が少なく移行免疫が有効に働かない乳児が罹患しやすいことが推察された。また、陽性者に占める成人は1件のみであったことから、成人の患者が実際に少なかったか、あるいは(および)感染していても菌量が少なく検出しにくいことが考えられた。また、家族内感染について「有」と答えたものは、LAMP陽性者においては5例あった(35.7%)。この5例中3例で5カ月未満の乳児が陽性で、感染源と考えられる母親が陰性であった。これは、母親の保菌量が少ないため検出できなかったか、検体採取時期が感染力の強いカタル期を過ぎていたため検出できなかったのではないかと推察された。なお、LAMP陽性者における臨床症状について、肺炎ではLAMP陽性者が7.1%、陰性者がほぼ倍の13.6%と違いが認められた。しかし、自主回答のみの情報であること、LAMP陽性者においては発症から検体採取日までの平均日数が 5.4日(陰性者においては 8.1日)と短かったことが影響をしている可能性がある。本稿において検討対象となった陽性患者の予後は良好であったとの情報を得ている。

 

疑い患者の送付検体数、うち陽性者数の情報を図1に示す。陽性14件の香川県の分布状況を図2に示した。高松市が6件、中讃、西讃が各3件、東讃が1件、愛媛県が1件であった。また、2011年の定点患者報告数をみると(非掲載)、月別に多い順で9月(7件)、10月(5件)となっていたが、今回の調査と、定点報告との情報の比較は制約が多く困難であった。

 

本調査においては、LAMP陽性者が6カ月未満の乳児に多く見受けられ、うち家族内感染の可能性のある事例も少なからず認めた。百日咳は一般細菌と異なり、培養が難しく検出しにくいのが現状である。本調査で、乳児に陽性例が集中したのも菌量が少ない成人と比較しての検査上の特徴であった可能性もある。しかしながら、重症化しやすい乳児を中心とする百日咳に対する公衆衛生上の注意が改めて必要であることが明らかとなった。LAMP法はDNA の精製に時間を要するが、その後の操作が簡便であり、また特異性が高く、小児を中心とした百日咳の発生動向調査においては、有用な検査方法であると考えられることから今後も継続したい。

 

香川県環境保健研究センター
宮本孝子 有塚真弓 関 和美 内田順子 池本龍一

 

 

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国内のインフルエンザ流行株の抗原性、遺伝子系統樹解析、薬剤耐性株検出状況ー2011/12シーズン途中経過

(IASR Vol. 33 p. 95-97: 2012年4月号)

 

はじめに:インフルエンザウイルスは頻繁に遺伝子変異し、それにともなって抗原性が変化するため、株サーベイランスにより国内外の流行株の性状を通年でモニターする必要がある。また、サーベイランスの成績に基づいて、ワクチン株を適宜見直し、必要に応じて変更する必要がある。国立感染症研究所(感染研)では国内の分離ウイルスについて、ワクチン株および代表的な流行株に対するフェレット感染血清を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験で抗原性解析を行い、またそれと並行して赤血球凝集素(HA)遺伝子の進化系統樹解析や薬剤感受性試験を実施している。これらの成績は、感染症サーベイランスシステム(NESID)経由で、ウイルス収集、初期抗原性解析を行っている全国地方衛生研究所(地研)へ週単位で情報還元されている。
本稿は、2011年9月以降の国内分離株5~10 %(無作為抽出)について、抗原性解析、薬剤感受性試験を行った途中経過のまとめである。また、今シーズンの主流であるA(H3N2)亜型ウイルスの系統樹も示す。なお、2011/12シーズンの総まとめは、例年どおり10~11月頃発行の病原微生物検出情報月報(IASR)に掲載予定である。

抗原性解析、HA遺伝子系統樹解析
1.A(H1N1)pdm09ウイルス:今シーズンは国内外ともにA(H1N1)pdm09ウイルスの流行が極めて小さく、3月12日時点で国内で分離されたA(H1N1)pdm09ウイルスは3株であった。2株について、感染研で抗原性解析を行ったが、2011年10月分離の1株はワクチン株A/California/7/2009類似株(HI試験で2倍以内の変化)、2012年1月分離株は、A/California/7/2009抗血清に対してHI価が16倍低下した変異株であった。

2.A(H3N2)ウイルス:全国で分離された2,168株のうち90株を抗原性解析した。ワクチン株のA/Victoria/210/2009に類似し、MDCK細胞で分離した代表株〔A/Niigata(新潟)/403/2009〕の抗血清に対する反応性で集計すると、ワクチン類似株は12.2%、HI価が4倍低下し、わずかながら抗原性の変化がみられた株は、42.2%であった(図1)。一方、変異株として分類されるHI価が8倍以上低下した株は45.6%であり、同様の抗血清で集計した前シーズンの3~8月までの結果に比べて、変異株の割合が増加している傾向がみられた。しかし、その大半は、HI価で8倍の差であり、A/Niigata(新潟)/403/2009から大きく変異していなかった。

一方、HA遺伝子について進化系統樹解析を行ったところ、国内分離株のすべては、Victoria/208クレードに位置した(図2)。このクレードは、さらにサブクレード3、4、5、6の4つに区分され、サブクレード3はさらに3A、3B、3Cの3つに分かれる。現在までに解析した国内分離株は主にサブクレード3B、3Cに分類され、一部はサブクレード5、6に分類された。

3.B型:今シーズンは国内ではB Victoria系統とB山形系統が混合流行しており、その比率は2:1である。これは前シーズン9:1であったことに比べると、山形系統の割合が大きく増加していることを示している。現時点までB型の流行は小さいので、今後の傾向を注視する必要がある。

3-1)Victoria系統:国内において分離されたVictoria系統311株のうち23株を抗原性解析した。その結果、すべてB/Brisbane/60/2008ワクチン類似株であった。前シーズンからの変化はみられていない。

3-2)山形系統:分離された山形系統181株のうち22株を抗原性解析した結果、WHOが2012/13シーズン北半球用ワクチン株として推奨したB/Wisconsin/1/2010に抗原性が類似した株は90.9%で、抗原性が大きく変化した株は9.1%であった。

4. 抗インフルエンザ薬耐性株の検出
4-1)ノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)[オセルタミビル(商品名タミフル)、ザナミビル(商品名リレンザ)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)、ラニナミビル(商品名イナビル)]に対する耐性株サーベイランスを実施した。その結果、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)およびB型ウイルスいずれからも耐性株は検出されなかった。これらの集計結果は病原微生物検出情報(IASR)ウェブサイトにおいて公開されており(http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html)、情報は毎月更新されている。

4-2)M2阻害薬 [アマンタジン(商品名シンメトレル)]に対する耐性株は、M2遺伝子塩基配列解析をもとに行った。その結果、解析したA(H1N1)pdm09およびA(H3N2)ウイルスのすべては、アマンタジンに対する耐性変異をもっていた。

おわりに:2011/12シーズンは、流行開始が例年に比べて遅れていたが、患者発生数からみた流行規模は昨年を上回り、過去10シーズンで2番目に大きい規模とみられている。ウイルス分離株数もこれから増えてくることから、感染研における分離株の詳細解析情報も更新していく必要がある。

A(H1N1)pdm09ウイルスは中米(メキシコ、グアテマラなど)を除くほとんどの国で流行がないか小規模であり、流行株も昨シーズンからほとんど変化していない。一方、流行の主流であるA(H3N2)ウイルスの抗原性は、ワクチン株のA/Victoria/210/2009およびWHOのワクチン推奨株であるA/Perth/16/2009類似株から大きく変化していないが、今シーズンの代表的な流行株A/Brisbane/299/2011やA/Victoria/361/2011類似のウイルスが多数を占めつつあることから、WHOは2012/13シーズン北半球用ワクチン推奨株をA/Victoria/361/2011類似株に変更した(http://www.who.int/wer/2012/wer8710.pdfおよび本号21ページ参照)。B型ウイルスについては、中国では流行株の大半がB型で、Victoria系統が主流である。しかし、同じくB型が流行の主流である台湾では、分離株の96%が山形系統であり、近隣諸国での系統比率は国ごとに異なっている。一方、わが国を含む多くの国ではVictoria系統がやや優位だが、山形系統も増加してきており、どちらの系統が主流になるのか今後の流行状況を注視する必要がある(http://www.who.int/wer/2012/wer8710.pdf参照)。これら国内外の流行株の解析状況を分析しながら、来シーズンの国内ワクチン株選定が進められている。

国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター第1室
・WHOインフルエンザ協力センター
岸田典子 高下恵美 藤崎誠一郎 徐 紅 今井正樹 伊東玲子 土井輝子
江島美穂 金南希 菅原裕美 佐藤彩 小田切孝人 田代眞人
独立行政法人製品評価技術基盤機構
小口晃央 山崎秀司 藤田信之
地方衛生研究所インフルエンザ株サーベイランスグループ

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中国で感染したブルセラ症例

(IASR Vol. 33 p. 101-102: 2012年4月号)

 

ブルセラ症はブルセラ属菌により引き起こされる世界的に重要な人畜共通感染症であるが、日本での報告は少ない。ブルセラ症は全例届出が必要となっているが1999年4月1日から18例が届けられたのみである。今回在日中国人が中国に一時帰国した際に感染したと考えられる頚椎椎体椎間板炎を合併したブルセラ症を経験したので報告する。

症例:41歳女性(現在の国籍は日本だが、出身地は中国黒龍江省)
既往歴:糖尿病、慢性腎炎
社会生活歴:喫煙10本/日×25年、機会飲酒
現病歴:2005年8月より日本在住。2011年3月~6月3日まで中国に一時帰国した。中国滞在時、実家で家畜として飼育されていた山羊との直接的な接触は無く、乳製品や生肉は摂取しなかったが、実家のトイレと家畜飼育小屋が近接していた。日本に帰国後2011年7月ころより全身の関節痛、頭痛、眼痛、火照り、悪寒、食欲低下、体重減少がみられた。頭痛とともに発熱もみられたが数日で改善する状態を繰り返していた。8月18日上記を主訴に当院内科受診、更年期障害疑いと診断された。22日に神経内科受診し筋緊張性頭痛、片頭痛、更年期障害と診断され外来にて経過観察となっていた。11月10日より39℃までの発熱あり、17日には頭痛の悪化、首・肩・背中の痛みも出現した。症状改善ないため18日当院救急外来を受診し、同日入院となった。

入院時所見では後頸部~肩関節にかけて強い自発痛を認め、自力での体動も困難な状態であった。血液検査では白血球は正常範囲でありCRP 5.53 mg/dlであった。入院後は2~3日に1回は39℃程度の発熱を生じたが、その際の心拍数は60拍/分台と比較的徐脈であった。頸部CT、MRI および髄液検査では異常所見を認めなかった。第4病日に入院時に採取した血液培養からグラム陰性桿菌が検出されたとの報告あり、尿路感染の可能性が高いと判断し、ceftriaxone 1g/dayを開始した。第7病日にブルセラ症が強く疑われたため、同日よりdoxycycline 200mg/日内服、gentamicin 200mg/日の投与を開始した。発熱は消失したが、自発痛は残存したためNSAIDS等の内服を開始し、疼痛は改善傾向となった。第12病日の、骨シンチグラフィーで頚椎に集積が認められ、第21病日のMRI でもC5、6椎体および椎間板の信号強度はT2強調画像で増強、後方の硬膜外腔に軟部影がみられ椎体および軟部影はGd造影にて増強が認められた。その後、国立感染症研究所にて行った抗体検査ではBrucella abortus 80倍、B. canis 40倍であり、PCR検査ではB. melitensis の増幅パターンを示した。その結果をふまえ、最終診断はB. melitensis によるブルセラ症と診断した。合併症はC5、6の椎体椎間板炎であった。外来での経過観察の方針とし、第21病日に退院となった。

考 察
ブルセラ症の感染経路としては感染動物の加熱不十分な乳製品や肉の摂取による経口感染が最も一般的である。また、流産時の汚物への接触、汚染エアロゾルの吸入によっても感染する。10~100個という少ない菌数で容易に感染が成立しうるため、菌と接触回数が多い職業や汚染食品の摂取が感染のリスクとなり、職業別にみると55.9%が農業従事者であり、29.2%が羊飼いであった。また、季節的偏りがあり3~8月に74.8%が発生する。これは山羊、羊のように季節繁殖する動物が原因である場合、患者発生はその出産シーズンの1~2カ月後にピークを迎えるためである。ブルセラ症は中国では1950年半ば~1970年に高い地方的流行があったが、大規模なワクチンプログラムの施行(1964~1976年)により、その後発症数は徐々に減少していき、1994年には500人まで減少した。しかしながら1995年から再び増加の一途をたどっている。特に内モンゴル自治区ではとても高い流行があり、1999~2008年において43,623人が感染したと報告されている。2008年が一番多く、計10,000人を超えていた。このように発症数が急激に増加した要因には、検疫されずワクチン接種もされていない動物の貿易や輸入が急激に増えたことの他に、ブルセラ症に対する医療者側からの認知度が高くなったことや、微生物学的検出の技術が向上したことがあげられる。2011年に入ってからも3月に内モンゴル自治区の市内検疫担当者が羊の大規模な検疫を実施、4月に 100人以上が腰痛やめまいを訴えブルセラ感染症と診断されたとの報告がある。

本症例の出身地である黒龍江省は内モンゴルの東側に位置する。2010年12月に黒龍江省ハルビン市にある東北農業大学で解剖実習に使った羊が原因で28人がブルセラ感染症にかかったとの報告があり、黒龍江省においてもブルセラは家畜に存在している。本症例は中国への一時帰国の3~6月の間にブルセラに感染し、症状出現の7月に発症したと考えられる。感染経路については家畜との直接接触がなかったこと、未殺菌の乳製品の摂取がなかったことからエアロゾルによる感染が疑われる。

ブルセラ症は症状が非特異的であるため血液培養の採取が診断の鍵となってくるが、前述のように吸入による感染症の危険性もあり、実験室内で感染が生じるリスクが高い菌の1つである。培養結果により初めてブルセラ菌と認識して感染防御のレベルを上げる現在のシステムでは本菌の実験室内感染を防ぐことは困難である。そのため安全キャビネット内で作業を行うことや、リスクが高い検体を事前に拾い上げるシステムの構築が望まれる。また医師としては問診の際には常に渡航歴に着目する心がけが必要と考えられる。

 参考文献
1) Juan D, et al ., Clin Infect Dis 46: 426-433, 2008
2)今岡浩一, モダンメディア 55: 18-27, 2009
3) Julie L, et al ., N Engl J Med 359: 1942-1949, 2008
4) Zhang W, et al ., Emerg Infect Dis 16: 2001-2003, 2010
5) Papadimitriou G, et al ., Lancet Infect Dis 6: 91-99, 2006

新潟市民病院
総合診療内科 山田舞乃 野本優二 尾崎青芽 矢部正浩 山添 優
臨床検査科 今井由美子
感染症内科 手塚貴文 塚田弘樹

2011年夏にみられたRSウイルスの流行について

―奈良県―

(IASR Vol. 33 p. 97-98: 2012年4月号)

 

1.はじめに
夏にRSウイルス(respiratory syncytial virus: RSV)1)の流行が国内各地でみられたことは2011年の感染症サーベイランスの1つの特徴であろう。

例年、RSV感染症は11月頃から急激に増加し、ピークは12月~1月頃にある。しかし、2011年のRSV検出状況(病原微生物検出情報全国累計2) )は様相が異なり、夏の検出数(8月92例、9月99例)が11月や12月のそれ(2012年1月4日現在でそれぞれ69例と31例)を上回った2) 。

奈良県においても第32週から定点当たり報告数に増加傾向がみられ、さらに8~9月にかけて12例の患児からRSVが検出され、夏のRSV流行が明らかになった。このRSV検出は県下の感染症発生動向調査の一環として、定点医療機関で採取された呼吸器系疾患患児の咽頭ぬぐい液のうち、エンテロウイルスやアデノウイルスなどが分離されなかった検体について保健環境研究センターでRT-PCRが行われたものである。

RSVの検出された12例中11例が当科の症例であり、夏のRSV感染症の特徴を知る目的で、冬の当科典型例と臨床所見を対比した。また、RSV感染症と気象との関係について若干の文献的考察を加えた。

2.当科における2011年夏のRSV検出例
11例の概略をに示した。発熱を主訴に受診し、咳嗽を全例に認めた。喘鳴が3例にみられ、うち1例にSpO2低下あり。発熱の遷延する児が多かったが(4.6±0.8日)、肺炎の1例を含めて全例が通院治療で治癒した。

疫学的にみた1つの特徴は保育所内流行の多いことで、11例中7例が同じ保育所であり、接触感染(特に間接接触感染?)が疑われる。

3.冬のRSV感染症典型例との対比検討
2011年夏の11例を夏群とした。そして、2009年11月~2010年4月に当科に入院したRSV感染症患児39例(日齢11~5歳6カ月、中央値1歳6カ月)を典型例として対照に選び、冬群とした。冬群にも呼吸管理を必要とした児はなかったが、酸素投与を要した重症例が3例とけいれんのみられた2例が含まれる。

年齢は夏群と冬群の間に有意差なく、それぞれ2.2±0.9歳、2.1±1.4歳であった(図1)。

最高体温(夏群39.4±0.8℃、冬群38.8±0.8℃)や有熱期間(夏群4.6±0.8日、冬群4.3±1.5日)にも有意差を認めなかった(図2)。

4.考 察
冬に流行するウイルスは低温低湿を好むと考えられている。たとえば、インフルエンザウイルスの至適相対湿度は15~40%である。しかし、RSVはやや複雑である。RSV活動性を週別発生数で評価し、気象との関係をみた検討によると、気温は2~6℃と24~30℃に、相対湿度は45~65%にそれぞれ活動性のピークがある3) 。

温帯地域では、RSVは冬中心に流行する1)。特に気温の低下を重要視する報告が多く、最低気温が低いほどRSV活動性が高くなる3) 。

熱帯地域では、RSV感染症は通年性にみられ3) 、雨季に多い4) 。この条件下では湿度が重要視され、相対湿度が高いほどRSV活動性が高い3) 。また、前日との気温差(day-to-day temperature variation)が大きいとRSV活動性が高い。雨季に多い理由は明らかでないが、雨に伴う気温の低下やエアロゾル中でのRSVの安定性3) などが指摘されている。

わが国においてもRSV流行は冬中心にみられ1) 、沖縄を除くと夏のRSV流行は散発的で稀である5) 。唯一、亜熱帯地域に位置する沖縄ではRSVは夏に流行し、1~2月には少ない6) 。

2011年夏のRSV感染症は国内の限られた地域の局所流行ではなく、東京都や大阪市、青森県などでも多く検出され2) 、diffuse outbreakの様相を呈した。

地球は温暖化しているが、2011年夏は特に暑さが厳しかったわけではない(8月の平均気温は北日本でやや高いが全国的には平年並み)。同夏の気象の特徴は降雨量の多かったことである。9月初めに台風12号(8月25日発生)が四国~中国地方をゆっくりと北上した影響もあり、奈良県を含む紀伊半島では各地で記録的な大雨となった。当科で経験した夏のRSV流行はこの時期に一致するが、大雨との関連は明らかでない。 幸い、自験11例はすべて通院治療で治癒した。一部にSpO2の低下例もみられたが、呼吸管理や酸素投与を要するような重症例はなかった。しかし、夏のRSV感染症が特に軽症であったという印象もなく、発熱の程度(最高体温や有熱期間)は冬の典型例と比べて遜色なかった。また、非流行季であったこともあるが、乳幼児のRSV感染症の典型病像である急性細気管支炎と臨床診断し得た児はなく、ウイルス学的検索がなければRSV感染症の診断を下せなかった。

夏に罹患した乳幼児のRSV感染症が軽症であるのか、重症度を論じるには症例数が少なすぎる。今後も夏のRSV流行がわが国でみられるようならサーベイランスを続け、症例を集積するとともにRSVの遺伝子型による表現型(phenotype)の相異なども考慮に入れる必要があろう。

RSVのRT-PCRによる検出は奈良県保健環境研究センターウイルスチームによるものであり、深謝する。

 参考文献
1) IASR 29: 271-273,2008
2) IASR 33: 23-25, 2012
3) Welliver RC, Pediatr Infect Dis J 26(Suppl):s29-35, 2007
4) Shek LP, et al ., Paediatr Respir Rev 4: 105-111, 2003
5)岡本道子,他,IASR 25: 265-266,2004
6)中村正治,他,IASR 29: 278-279,2008

済生会御所病院小児科 松永健司

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狂犬病から回復した症例、2011年―米国・カリフォルニア州

(IASR Vol. 33 p. 106, 109: 2012年4月号)

 

米国において狂犬病から回復した3例目の報告である。

2011年4月25日にカリフォルニア州郊外に住む8歳の女児が咽頭痛、嘔吐を主訴に小児科を受診した。その後、日中の活動はできていたが、嚥下困難をきたし、少量の水しか摂取できなくなったため、4月28日に地域の救急部門(Emergency Department:ED)を受診し、脱水に対して点滴を受けた。さらに、腹痛、頸部痛、背部痛のため、4月30日に再度EDを受診したが、ウイルス感染症を疑われ帰宅した。5月1日には咽頭痛、全身衰弱のため3度目のED受診をし、意識混迷(錯乱)、呼吸窮迫が存在しており、気管挿管され、第三次医療施設へ搬送された。この時の頭部CT、腹部CTでは有意な所見はなかったが、胸部CTでは左肺の下葉に無気肺が認められた。

小児集中治療室に入院時の髄液検査では、細胞数 6/μl、タンパク 62mg/dl、糖 67mg/dlであった。その後、急性弛緩性麻痺と脳炎が進行し、MRI(T2強調/FLAIR)では、脳室周囲の白質と皮質・皮質下領域に異常信号が認められた。カリフォルニア州公衆衛生部局のウイルス・リケッチア検査室におけるカリフォルニア脳炎プロジェクトの介入のもと、エンテロウイルスやウエストナイルウイルスなどに関する検査が緊急実施されたが、結果は陰性だった。臨床経過から狂犬病を疑われ、さらに狂犬病特異的抗体検査、遺伝子検査(PCR 法)、狂犬病ウイルス抗原検査が実施された。その結果、PCR 法、狂犬病ウイルス抗原検査では陰性だったが、血清および髄液中の狂犬病ウイルス特異的抗体が陽性であり、狂犬病と診断された。治療として、ケタミン、ミダゾラムによる鎮静、アマンタジン、ニモジピンによる脳動脈攣縮予防等が施行されたが、抗狂犬病ガンマグロブリンや狂犬病ワクチンは投与されなかった。5月8日には自発的に頭部を動かすなど、徐々に回復し、6月22日に退院となった。その後も、認知機能障害なく、日常生活を送っている。

予防として、患者の唾液に曝露された可能性のある27名(家族、クラスメート、PICUスタッフ、EDのヘルスケアワーカー)に狂犬病の曝露後ワクチン接種が行われた。その後、さらなる狂犬病患者は同定されていない。

なお、女児には、発症前6カ月以内に地域外に旅行した経歴はなかった。発症の約9週前と4週前に、通学する学校近くの野良猫にひっかかれた既往があった。野良猫に狂犬病ワクチンの接種歴はなかった。これらの猫を捕獲し観察したところ、1匹の健康状態は良好であったが、1匹は追跡調査ができなかった。

急性進行性脳炎患者の診療時には、狂犬病を鑑別診断にあげ、検査を行う必要がある。また、狂犬病予防のためには、家庭で飼育している動物に対するワクチン接種、ワクチン接種を受けていない野生動物との接触の回避、曝露後の迅速なワクチン接種が重要である。

(CDC, MMWR, 61, No.4, 61-65, 2012)

表1.ノロウイルス感染集団発生月別報告数, 2008年9月~2010年3月
図1.Genogroup別ノロウイルス感染集団発生報告数の月別推移, 2008年9月~2010年3月
 国立感染症研究所・感染症情報センターには地方衛生研究所から「集団発生病原体票」が報告されている。これには、食品媒介による感染が疑われる「食中毒」や「有症苦情」、人→人感染や感染経路不明の胃腸炎集団発生などの事例ごとの情報が含まれている。

 2009年9月~2010年3月に発生したノロウイルス集団感染事例が369事例[GII 288事例(うち、GII/2 75事例、GII/3 11事例、GII/4 54事例、GII/6 2事例、GII/12 5事例、GII/13、GII/14、GII/2+GII/3、GII/2+GII/4、GII/2+GII/6、GII/4+GII/13 各1事例)、GI 34事例(うち、GI/4 7事例、GI/8 5事例、GI/14 1事例)、G不明35事例、GI/8+GII/4 1事例、GI/4+GII/2+GII/4 1事例、GI+GII 9事例、ノロウイルス(GI+II)&サポウイルス(NT)1事例]が報告されている(表1図1)。その他に、サポウイルス(GI)が1事例、A群ロタウイルス2事例(うち、G3 1事例)が報告されている。

 372事例の推定感染経路は飲食店などでの食中毒および有症苦情が144事例、保育所、幼稚園、小学校、中学校、高校、老人施設・福祉施設、病院、ホテル、宿舎・寮などでの胃腸炎集団発生が211事例、その他・詳細不明17事例である。

国立感染症研究所感染症情報センター 病原微生物検出情報事務局

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan