腸管出血性大腸菌感染症 2010年5月現在

(Vol. 31 p. 152-153: 2010年6月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、1999年4月に施行された感染症法に基づく3類感染症として、菌の分離・同定とVero毒素(VT)の確認により診断した医師の全数届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。さらに、医師から食中毒として保健所に届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。一方、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号4ページ)。

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大阪府で発生した国内31例目の乳児ボツリヌス症例

(IASR Vol. 33 p. 100-101: 2012年4月号)

 

2011年10月に大阪府堺市で1986年以降に確認された国内第31例目となる乳児ボツリヌス症例が発生したので、その概要を報告する。

症例:6カ月・男児
家族歴:神経・筋疾患なし
主訴:活気・哺乳不良
現病歴:10月28日(第1病日)より排便がなかった。11月2日(第6病日)より哺乳不良。翌日より痰が絡み、啼泣も弱く活気不良となった。11月4日(第8病日)哺乳不可能となったため当科を紹介され同日入院となった。嘔吐は認めず。

身体所見:肺音 整・雑音なし、心音 整・雑音なし、咽頭 発赤・腫脹なし、腹部 平坦・軟、顔色やや不良、皮膚脱水所見なし、大泉門膨隆なし

神経学的所見:全身の筋緊張低下 定頸なし 眼瞼下垂あり、深部腱反射:四肢にて消失、病的反射:なし、対光反射 左右差ないが、両側で緩慢

血液検査所見:血算、生化学一般に異常認めず、抗Ach受容体抗体:陰性
尿所見:糖(-)、蛋白(±)、潜血(-)、ケトン体(3+)
髄液所見:正常(水様透明、細胞数3/3 、多核球0、単核球3、蛋白定量 15 mg/dl 、糖定量 70mg/dl)
頭部MRI:皮髄境界明瞭 皮質形成異常なし、心・腹部エコー:異常なし、脳波:正常睡眠脳波
テンシロンテスト:弱陽性
麻痺筋に対する反復刺激試験:3 Hz/min刺激でwaningを確認

ボツリヌス毒素およびボツリヌス菌の検査:血清(第11、第21病日に採取)と便(第21、第22病日に採取)を、マウス試験および逆受身ラテックス凝集(RPLA)試験によるボツリヌス毒素検出検査に供した。血清からはいずれの試験でもボツリヌス毒素は検出されなかったが、便2検体からマウス試験によりA型ボツリヌス毒素が検出された。RPLA試験で便中毒素が検出されなかったため、第22病日の便検体の毒素量をマウス試験で推定したところ、約80 MLD/gと微量の毒素が検出された。卵黄加GAM寒天培地を用いた便検体の直接塗抹培養ではボツリヌス菌は分離されなかったものの、ブドウ糖・デンプン加クックドミート培地を用いた便検体の増菌培養後の培養上清からRPLA試験とマウス試験の両方でA型ボツリヌス毒素が検出された。培養沈渣から抽出したDNAサンプルにおけるPCR法ではA型毒素遺伝子とB型毒素遺伝子が検出されたことから、培養液中にはA型毒素を産生するがB型毒素遺伝子がサイレント遺伝子のためにB型毒素を産生しないA(B)型ボツリヌス菌の存在が推定された。A(B)型菌は増菌培養液を卵黄加GAM 寒天培地に画線塗抹後、30℃2日間嫌気培養して分離した。なお、第34病日の便検体からは、ボツリヌス菌および毒素は検出されなかった。

入院後経過:第8病日の入院後、さらに全身の脱力が進行し、啼泣も弱くなった。テンシロンテスト・反復刺激試験の結果より重症筋無力症が疑われ、ステロイドパルス療法開始した。第12病日午前8時に痰が絡み呼吸停止、心拍数も低下した。その後、吸引により呼吸再開も厳重な全身管理が必要と判断しICUに入室となった。その後呼吸状態改善し、室内空気でもSpO2 100%が保てるようになった。経鼻チューブ挿入しミルク少量より経管栄養開始。第16病日時点で1日ミルク900mlまで増量、筋力も上昇しており発声もわずかながらではあるが認められるまで改善傾向であった。しかし第17病日朝、再び痰を詰まらせて呼吸停止、徐脈となった。再びICU入室となり、気管内挿管し呼吸管理施行した。ステロイドパルス療法を2クール、コリンエステラーゼ阻害剤投与も施行したが症状の改善は認められなかったため鑑別疾患としてボツリヌス症が疑われた。第28病日に便中ボツリヌス毒素が陽性と判明、以後対症療法で経過観察した。徐々に筋力は回復し、第39病日抜管、第82病日退院となった。

患児は発症1カ月前より離乳食を開始されていた。ハチミツの摂取はなかったが、母親は患児の症状出現約1週間前より毎朝蜂の巣付きハチミツを喫食していた。当該ハチミツ80gを検査に供したがボツリヌス菌芽胞は検出されず、本症例の感染源は特定できなかった。

大阪労災病院小児科 吉川聡介
大阪府立公衆衛生研究所 河合高生 久米田裕子

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日本海裂頭条虫の同定―沖縄県

(IASR Vol. 33 p. 103-104: 2012年4月号)

 

2011年11月県内医療機関より成人男性の排便時に排出されたという寄生虫様検体の検査依頼があり、形態学的検査とミトコンドリアのチトクロームCオキシダーゼサブユニット1(CO1)遺伝子解析により日本海裂頭条虫と同定したので報告する。

患者は40代男性、症状は下痢および心窩部痛で、排虫は今回が初めてではないとのことであった。生魚は食べるがマス等を生食した記憶はなく、海外渡航歴も無かった。

排出された虫体は生理食塩水に保存され搬入された。虫体は白く平たい紐状で多数の片節が連なっていたことから条虫類と判断した(図1)。また、片節の中央には生殖器様構造が確認された。片節の一部を細切し、スライドグラス上で圧平し顕微鏡で観察したところ、裂頭条虫様の虫卵が確認された(図2)。以上のような虫体や虫卵の形態学的所見から、裂頭条虫類と推察できた。

裂頭条虫類には、マンソン裂頭条虫(Spirometra erinaceieuropaei )、広節裂頭条虫(Diphyllobothrium latum)および日本海裂頭条虫(Diphyllobothrium nihonkaiense )などが属しているが、マンソン裂頭条虫はヒトでは成虫に成長せず弧虫症となることから鑑みて、当該条虫は日本海裂頭条虫または広節裂頭条虫の可能性が高いと考えられた。

しかし、形態学的には両種の判別は困難なため、ミトコンドリアCO1遺伝子解析を試みた。試料は片節1つをDW 1mlに入れホモジナイズにより乳剤とし、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)によりDNAを抽出した。ミトコンドリアCO1遺伝子を増幅するPCRは、プライマーDBCO1-1 およびDBCO1-2 1,2) を用いて実施し、300bp付近にDNA増幅産物を確認した。得られたDNA産物の塩基配列をダイレクトシークエンスで決定し、DDBJに登録された塩基配列データを用いて分子系統解析を行った結果、日本海裂頭条虫のクラスターに属した(図3)。塩基配列の相同性は、日本海裂頭条虫と100%一致し、類症鑑別が必要となる広節裂頭条虫とは91.9~92.3%、マンソン裂頭条虫とは82.3~84.6%であった。以上の結果より、当該条虫は日本海裂頭条虫と同定した。

今回の検体は保存状態が良く、形態的な観察も十分できたが、搬入される検体によっては損傷や不適切な保存液による形態の変化等により、形態学的特長が明瞭でなく、大まかな分類でさえ困難な場合も想定される。その場合でも遺伝子学的検査は有用であり、形態学的検査と合わせて実施していくことでより迅速で正確な同定が可能になると考えられる。

日本では、裂頭条虫症が条虫症の大半を占め、有薗らの報告によると裂頭条虫症の報告件数は最近の5年間では増加傾向である3,4) 。沖縄県では、本土復帰後に初めて裂頭条虫症が確認され、1980年代には17例の報告があるが 5)、近年の状況は把握できていない。条虫症は感染症法の対象疾患ではないため発生状況の調査は難しく、今後、より多くの検査機関が検査体制を整えておくことにより、わが国における本症の実態把握につながるものと考えられる。

 参考文献

1)八木欽平,三好正浩,道衛研所報 55: 81-84, 2005
2)阿部仁一郎, 他,生活衛生, 53: 169-176, 2009
3) Naoki Arizono, et al ., Emerg Infect Dis 15: 866-870, 2009
4)有薗直樹,Clinical Parasitology 22: 9-17, 2011
5)長谷川英男, 安里龍二, Japanese Journal of Parasitology 39 Supplement, April, 1990

沖縄県衛生環境研究所
喜屋武向子 平良勝也 仁平 稔 岡野 祥 真榮城徳之 久高 潤
大浜第一病院 山城惟欣

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飲食店を原因施設とするKudoa septempunctata による食中毒事例―倉敷市

(IASR Vol. 33 p. 102-103: 2012年4月号)

 

1999(平成11)年以降、瀬戸内海沿岸の中四国地域では、下痢・嘔吐を主症状とする原因不明の有症事例の発生が確認されていた。倉敷市ではこれらの事例に注目し、2008(平成20)年度に倉敷市保健所が事務局となり、瀬戸内海沿岸の府県市保健所等と、「原因不明の食中毒の原因究明研究」についての検討会を立ち上げ、原因物質の究明や対応を協議していた。当初は、地方における散発的な事例と考えられていたが、その後の調査から、全国の都道府県においても発生が報告されていることが、確認された。厚生労働省の調査によると、2009(平成21)年6月~2011(平成23)年3月までに報告された原因不明の有症事例は198件、うち135件はヒラメが推定原因食品とされる事例であった。

その後、厚生労働省から「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について」(平成23年6月17日食安発0617第3号)および「Kudoa septempunctata の検査法について(暫定版)」(平成23年7月11日食安監発0711第1号)が通知され、暫定検査法が示された。

2011年10月、倉敷市内の飲食店において岡山県内初のヒラメに寄生するK. septempunctata を原因とする食中毒事例が発生した。今回、この事例について、暫定検査法に従いリアルタイムPCR 検査法による遺伝子検査および顕微鏡検査による胞子数計測を実施したので報告する。

事例の概要と検査結果
2011年10月14日、飲食店の営業者から、10月13日の利用者が下痢・嘔吐等の食中毒様症状を呈していると、届出があった。当保健所で調査したところ、10月13日に当該飲食店を利用した1グループ、13名中10名が食中毒様症状を呈しており、有症者は共通してヒラメの活け造りを喫食していた。喫食残品であるヒラメの活け造りについて、暫定検査法に従い、当保健所で検査を実施した。検体は、胴体(検体No.1、No.2)とえら蓋付近(検体No.3、No.4)の2カ所から、各2検体ずつ採取した。DNA抽出にはQIAamp DNA Mini kit(QIAGEN社)を用い、リアルタイムPCRには7500 Real Time PCR System (AppliedBiosystem社)を用いた。

リアルタイムPCR検査法による遺伝子検査および顕微鏡検査の結果は、表1のとおりである。

遺伝子検査において、すべての検体からカットオフ値 1.0×107 Kudoa rDNAコピー数/g以上のコピー数が検出され、平均値は 1.3×1011 Kudoa rDNAコピー数/gであった。顕微鏡検査においても、すべての検体から6~7極嚢を有する胞子を確認し、計算板により算出した胞子数の平均値は、 3.2×107 胞子数/gであった。検体の採取位置によるK. septempunctata 検出量の差異は、ほとんどみられなかったことから、K. septempunctata はヒラメの筋肉中に均一に分布していることが確認された。

また、調理施設のふきとり、食材、従業員便および患者便の細菌検査で、食中毒の原因と考えられる細菌は、検出されなかったこと、過去の原因不明の有症事例に共通する潜伏期間が6時間程度と短時間で、主症状が下痢・嘔吐、発熱であったことから、本事例は、ヒラメを介したK. septempunctata を病因物質とする集団食中毒と断定された。

厚生労働省の通知以後においても、K. septempunctata を病因物質とする食中毒事例が、全国で発生している。生食として提供されることの多いヒラメは、冷凍や加熱の食中毒対策が取りにくいため、生産・流通での対策が必要になってくるものと考えられる。今後、ヒラメの産地その他の情報も含めたK.septempunctata による食中毒事例について注視していく必要がある。

倉敷市保健所衛生検査課微生物検査係
小川芳弘 香川真二 杉村一彦 山口紀子
岡山県環境保健センター細菌科 中嶋 洋

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G遺伝子上に72塩基の重複を有するRSウイルス変異株

(IASR Vol. 33 p. 99-100: 2012年4月号)

 

RSウイルス(RSV)感染症は感染症発生動向調査事業における5類感染症の小児科定点把握疾患で、本邦においては冬季に流行がみられる急性呼吸器感染症である。RSVは表面蛋白のひとつであるG蛋白に対するモノクローナル抗体の反応性の違いなどから大きくAとBのサブグループに分けられ、さらにサブグループAでは遺伝子型GA1 ~7 、サブグループBでは遺伝子型GB1 ~4 、およびBAなどに分類されている。近年、本邦で検出されるサブグループAの多くが遺伝子型GA2、サブグループBでは遺伝子型BAである。今回、我々はG遺伝子上に72塩基の重複を有する遺伝子型GA2 の変異株を検出したので報告する。

患者は0歳9カ月の男児で、2012年1月10日に発病し、近医でジョサマイシン等を処方されたが解熱しなかったため、1月17日に千葉市内のAこどもクリニックを受診した。

受診時の症状は発熱(39.2℃)、咳嗽鼻汁、軽度の下痢で、血液酸素飽和度は91%と低下、呼気性ラ音を認めたが多呼吸などはみられなかった。受診時に鼻汁を市販RSV迅速診断キットで検査した結果は陰性であった。

なお、その後患者はネブライザーにより低酸素血症が改善されなかったため、他医療機関を紹介され、入院加療となっている。また、この医療機関での検査でインフルエンザ菌が検出されている。

Aこどもクリニックで受診時に採取された鼻汁を検体として、RSVのG遺伝子を標的としたRT-PCR法1) を実施し、得られた増幅産物についてダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定した。決定した塩基配列の一部342bpについて系統樹解析を行ったところ、サブグループAの遺伝子型GA2に分類されたが、C末端に72塩基の重複を有する変異株であった〔Chiba-C_24031(AB700370)、〕。なお同時に(RT-)PCR法2-5) を実施したメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1~3型、ライノウイルス、ボカウイルスについては陰性であった。また、HEp-2、RD-18S、Vero-E6、CaCo-2、MDCKによる分離培養も陰性であった。

入院した医療機関でインフルエンザ菌が検出されていることから、肺炎症状にどの程度このRSV変異株が関与していたかは不明であるが、DDBJのBLAST検索の結果、本検出株は2011年にカナダで登録された、同じく72塩基の重複を持つ株〔ON67-1210A(JN257693)、ON138-0111A (JN257694)、〕と高い相同性を示しており、海外の株と密接な関係にある可能性が示唆された。

RSVのG遺伝子上に重複を伴う変異としては、サブグループBでC末端に60塩基の重複を有する遺伝子型BAが報告されているが6)、現在、世界中で検出されているRSVのサブグループBの多くが遺伝子型BAである7-9) ように、細胞への吸着に関係しているG蛋白の変異は感染性への影響力が大きいものと考えられ、今後の動向が注目される。

 参考文献
1) Peret TC, et al ., J Gen Virol 79: 2221-2229, 1998
2) Peret TC, et al ., J Infect Dis 185: 1660-1663, 2002
3) Echevarria JE, et al ., J Clin Microbiol 36: 1388-1391, 1998
4) Savolainen C, et al ., J Gen Virol 83: 333-340, 2002
5) Allander T, et al ., Proc Natl Acad Sci USA 102: 12891-12896, 2005
6) Trento A, et al ., J Gen Virol 84: 3115-3120, 2003
7) Rebffo-Scheer C, et al ., PLoS One 6: e25468, 2011
8) Sovero M, et al ., PLoS One 6: e22111, 2011
9) van Niekerk S and Venter M, J Virol 85: 8789-8797, 2011

千葉市環境保健研究所
田中俊光 横井 一 水村綾乃 木原顕子 都竹豊茂 中台啓二
まなこどもクリニック 原木真名

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2012/13北半球インフルエンザシーズンに推奨されるワクチン株―WHO

(IASR Vol. 33 p. 105-106: 2012年4月号)

 

2011年9月~2012年1月のインフルエンザの活動性:インフルエンザの活動性はこの期間中に、アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアから報告された。A(H1N1)pdm09ウイルス〔以下、A(H1N1)pdm09〕の活動性は、アジアやアメリカの一部の国を除き、概して非常に低かった。A(H3N2) 亜型ウイルス〔以下、A(H3N2)〕は、ヨーロッパ、アメリカ大陸や北アフリカの多くの国々、アジアの一部の国々で、優勢であった。B型ウイルス(以下、B型)は、世界の多くの地域で活動性が報告され、一部の国々で優勢な型となっていた。

動物由来のインフルエンザウイルス〔A(H5N1), A(H3N2) variant (v), A(H1N1)v, A(H1N2)v〕感染:2011年9月20日~2012年2月21日に、A(H5N1) ウイルスのヒト感染例が、カンボジア、中国、エジプト、インドネシア、ベトナムから21例(うち死亡15例)報告された。2003年12月からの累計では、15カ国から585例(うち死亡346例)が報告されている。

2011年9月以降、米国ではA型ウイルス変異型〔variant; (v)〕の散発ヒト感染例が報告されており、その内訳はA(H3N2)vが8例、A(H1N1)vとA(H1N2)vが各1例である。

なお、2011年9月20日~2012年2月21日にA(H9N2) ウイルスのヒト感染例の報告はなかった。

最近の分離株における抗原性および遺伝子学的特徴
A(H1N1)pdm09:2011年9月~2012年2月に世界中で検出されたA(H1N1)亜型ウイルスのすべてがA(H1N1) pdm09であった。免疫フェレット血清を用いたHI試験では、抗原性は均一であり、ワクチン株であるA/California/7/2009に類似していた。HA遺伝子配列の解析では、抗原的に区別できない少なくとも8つのグループに分けられた。

A(H3N2):2011年9月~2012年1月に収集されたウイルスの多くは、HI試験による抗原性がワクチン株であるA/Perth/16/2009に類似していた。しかし、2012年に分離されたウイルスは、A/Perth/16/2009との反応性が低下したものの割合が増加していた。最近の分離株のHA遺伝子は、A/Victoria/361/2011 (グループ3)とA/Brisbane/299/2011(グループ6)の2つのグループに分かれ、大多数は前者のグループに含まれていた。これら最近の株は、HI試験、中和試験いずれにおいても、A/Perth/16/2009よりも両グループの株に対して高い反応性を示した。

B型:B/Victoria/2/87 (Victoria系統)とB/Yamagata/16/88(山形系統)の両方が流行しており、山形系統が増加しつつある。しかし、中国(香港を除く)ではVictoria系統が優勢である。HI試験では、山形系統ウイルスの大多数は過去のワクチン株であるB/Florida/4/2006と抗原性は異なり、B/Wisconsin/1/2010、B/Hubei-Wujiagang/158/2009、B/Texas/6/2011に類似していた。Victoria系統ウイルスの大多数は、現在のワクチン株であるB/Brisbane/60/2008と抗原性が類似しており、HA遺伝子配列の解析でも多くがB/Brisbane/60/2008のクレードに分類された。

抗インフルエンザウイルス薬への耐性:
ノイラミニダーゼ阻害薬:A(H1N1)pdm09では、大多数がオセルタミビル感受性であり、耐性ウイルス(H275Y変異)も少数検出されていたが、これらすべてはザナミビルに感受性であった。A(H3N2) およびB型は、すべてがオセルタミビルとザナミビルに感受性であった。ペラミビルとラニナミビルに対しては、少数の株が検査されたが、すべて感受性であった。

M2阻害薬:A(H1N1)pdm09とA(H3N2) のM遺伝子配列の解析では、アマンタジンやリマンタジンといったM2阻害薬への耐性に関与するM2蛋白のアミノ酸置換(S31N変異)が、検査されたウイルス株のうちA(H3N2)1株を除いたすべてに認められた。

不活化インフルエンザワクチンに関する調査研究:最近の分離ウイルス株に対する抗体保有状況ついて、現行のワクチン株を含む3価不活化インフルエンザワクチンを接種された小児、成人、高齢者由来の血清を用いて、HI試験〔A(H3N2) については中和試験も〕により測定した。

A/California/7/2009 抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株によるものと最近のA(H1N1)pdm09株によるものの多くが同等であった。

A/Perth/16/2009抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株によるものと比較して、最近のA(H3N2) 株によるものの多くが低下しており、マイクロ中和試験でも同様な結果であった。

B/Brisbane/60/2008抗原を含むワクチンにより誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株によるものと最近のVictoria系統株によるものの多くが同等であった。一方、最近の山形系統株に対しては、最近のVictoria系統株によるものと比較して低かった。

2012/13北半球インフルエンザシーズンに推奨されるワクチン株:
 A/California/7/2009 (H1N1)pdm09類似株
 A/Victoria/361/2011 (H3N2)類似株
 B/Wisconsin /1/2010(山形系統)類似株

(WHO, WER, 87, No.10, 83-95, 2012)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan