エボラ出血熱とは

(2019年03月27日改訂) エボラ出血熱はエボラウイルスによる感染症であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱等とともに、ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)に分類される一疾患である。エボラ出血熱患者が必ずしも出血症状を呈するわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)と呼称され...

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ラッサ熱とは

 ラッサ熱は西アフリカ一帯にみられる急性ウイルス感染症であり、いわゆるウイルス性出血熱4疾患の一つである。“ラッサ”とは1969年に最初の 患者が発生した村の名に由来する。ラッサウイルス(Lassa virus)はアレナウイルス科に属し、自然宿主は西アフリカ一帯に生息する野ネズミの一種であるマストミス(Mastomys natalensis) である。

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クリミア・コンゴ出血熱とは

(IDWR 2002年第31号掲載)  クリミア・コンゴ出血熱(Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever :CCHF)は、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによる急性熱性疾患であり、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、ラッサ熱とともにウイルス性出血熱 (Viral Hemorrhagic Fever :VHF)4 疾患のひとつである。この疾患はダニ(Hyalomma 属)が媒介する。上記4 疾患の中ではラッサ熱についで多く、アフリ...

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マールブルグ病とは

2023年6月30日現在国立感染症研究所(2023年6月30日 更新) マールブルグ病はマールブルグウイルスを原因とするウイルス性出血熱のひとつであり、別名ミドリザル出血熱(Vervet monkey hemorrhagic fever)とも呼ばれる。1967年、西ドイツ(現ドイツ)のマールブルグとフランクフルトおよびユーゴスラビア(現セルビア)のベオグラードで、ポリオワクチン製造用および実験用として...

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 エルシニア感染症は腸内細菌科に属するYersinia 属菌を原因菌とする感染症の総称である。Yersinia 属には現在11菌種が分類されているが、ヒトに対して病原性を示すのはYersinia pestisYersinia pseudotuberculosis およびYersinia enterocolitica である。エルシニア感染症という呼称は一般的に、下痢などの食中毒様症状を主徴とするY. enterocoliticaY. pseudotuberculosis による感染症を示す。

疫 学
 Y. enterocolitica による感染症としては、1972年に散発下痢症患者から初めて本菌が分離されてから現在までに、14例の集団食中毒の発生が確認されている。患者数が最も 多かったのは1980年に発生した沖縄県の事例で、1,051名の報告がなされた。最近では1997 年に、徳島県の病院や学校の寮で患者数66 名の発生があった。起因菌のほとんどが血清型O3、生物型4であることがわが国における特徴である。しかし、1980 年代を境に、散発事例から分離される血清型O3菌の生物型は3 に移行している。また、1987 年以降青森県を中心に東北地方各地で、病原性が強いとされる血清型O8、生物型1の菌株による散発事例が多く報告されている。
 一方、Y. pseudotuberculosis による感染は、わが国では1973 年に虫垂炎患者から証明された。そして、1977年に初めての集団発生が確認されてから、15 例の集団感染が報告されている。1991 年には青森県で、患者数732名の世界的にも希有な集団発生が報告された。原因菌の血清型は多岐にわたっているが、血清型4bと5a菌による事例が多いの がわが国における特徴である。また、散発例では血清型1a 菌以外のすべての血清型菌による感染が報告されている。
 北米を中心に発生したY. enterocolitica 感染はほとんどがO8 菌である。1982 年には血清型がO13a、13bのきわめてまれな菌種による感染が報告されたが、これ以後報告されていない。また、ヨーロッパではわが国と同様にO3菌に よる感染が多いが、集団例はほとんどなく、散発例としての報告が多い。スカンジナビア諸国では血清型O9菌による感染が比較的多く、感染後の関節炎が問題 となっている。

病原体

 Yersinia 属菌はグラム陰性の桿菌で腸内細菌科に属しており、冷蔵庫内温度である4 ℃でも発育できることが、サルモネラや大腸菌などの他の腸内細菌科に属している菌とは異なる。菌体は小さく、その形態は桿状(図1)あるいは球状で、培地上では比較的小さな集落を形成する。Yersinia 属菌の生化学性状の多くは培養温度に依存し、通常25〜30 ℃で実施される。Yersinia 属には現在11菌種が分類されているが、ヒトに病原性を示すのはY. enterocolitica 、Y. pseudotuberculosis およびY. pestis である。Y. enterocolitica は生物型と血清型で分類され、ヒトに病原性を示すのは特定の組み合わせに限られている。

図1. Y. enterocolitica の電子顕微鏡写真

Y. pseudotuberculosis は現在までに8つの血清型に分類されているが、ヒトの感染症と明確に関連づけられている菌型は1a、1b、2a、2b、2c、3、4b、5aと5bである。
 これら3菌種の病原性発現は約70kbのプラスミドに支配されており、37 ℃で培養するとプラスミド依存性の様々なタンパクを発現する。
 Y. enterocoliticaY. pseudotuberculosis の感染サイクルは自然界ではほぼ同様であると考えられている。野生動物における感染あるいは発症は、健康保菌獣の糞便とともに排出された菌が感染源とな り、汚染された飼料を感受性動物が摂取した場合に感染、発症が自然に繰り返される。ヒトの感染様式も動物と同じであり、保菌獣から直接に、あるいは飲食物 を介して経口的に感染する。これまでの動物における保菌実態から、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミが最も重要である。

臨床症状

 Y. enterocolitica 感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩である。患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられ、乳幼児では下 痢症が主体であり、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相 を呈する傾向がみられる。発熱の割合は高いが、高熱者は少ない。症状の中で最も多いのが腹痛である。特に、右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する 割合が高く、 虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もある。腸管感染であるにもかかわらず、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状を伴う割合が比較的 高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともある。

図2. 自己凝集性試験
BHIB に接種した病原株(左)と非病原株(右)

  Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぐ。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観 察される。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大、少数例には心冠動脈の拡張性変化 のほか、二次的自己免疫的症状として、関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑などが見られることもある。

病原診断
 エルシニア感染症の確定診断には、糞便からのY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis の検出が必要である。分離培養には直接分離と増菌分離とがあるが、下痢便には多くの菌が存在するので、選択培地で直接分離することが可能である。分離培地 にはSS 寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用いる。また、菌数の少ない材料では、リン酸緩衝液を用いた低温増菌法を併用することが望まれる。
 Y. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis と同定された菌株については、市販の診断用血清で血清型を決定する。分離当初に菌株をBHIB (brain heart infusion broth)などで37 ℃培養する自己凝集性試験を行うことにより、病原株であるかどうかの判定が迅速に行える(図2)
 患者の初期血清と回復期血清でY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis に対する抗体価を測定することは、本感染の裏付けとなる。菌の分離ができず、抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われる。しかし、Y. enterocolitica 血清型O9 とブルセラ(Brucella abortus)とは抗原交差があるため、抗体価から血清型O9 感染と診断した場合には、ブルセラ感染も疑うべきである。

治療・予防
 Y. enterocolitica およびY. pseudotuberculosis は通常使用されている抗菌薬に対して高い感受性を示す。しかし、Y. enterocolitica はβ−ラクタマーゼ活性があるため、アンピシリンなどに対しては感受性が低い。また、Y. pseudotuberculosis はマクロライドを除いて高感受性である。抗菌薬投与に関しては、その種類、投与方法、投与期間などはいずれも確立されていないが、治療に抗菌薬を使用しなくてもおおむね予後は良好である。
 なお、米国CDC では、重篤な症状や合併症のある場合はアミノグリコシド系、ドキシサイクリン、フルオロキノロン系、ST合剤などの使用が有用であるとしている。

食品衛生法における取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24 時間以内に最寄りの保健所に届け出る。


【文 献】
1)Zen‐ Yoji H, Maruyama T.:The first successful isolations and identification of Yersinia enterocolitica from human cases in Japan.Jpn J Microbiol 16:493‐500,1972
2)Sato K, Ouchi K, Taki M:Yersinia pseudotuberculosis infection in children,resembling Izumi fever and Kawasaki syndrome.Pediatr Infect Dis 2:123‐126,1983
3)Wauters G, Kandolo K, Janssens M.:Revised biogrouping scheme of Yersinia enterocolitica.
Contrib Microbiol Immunol 9:14‐21,1987
4)Kaneko S, Maruyama T.:Pathogenicity of Yersinia enterocolitica serotype O3 biotype 3 strains. J Clin Microbiol 25:454‐455,1987
5)東出正人、行方千佳、金子誠二:糞便由来Yersinia enterocolitica 血清型O3菌の各種性状.日本臨床微生物学雑誌.8:16‐20,1998.
6)Ohtomo Y, Toyokawa Y, Saito M, Yamaguchi M, Kaneko S, Maruyama T.:Epidemiology of Yersinia enterocolitica serovar O:8 infection in the Tsugaru area in Japan. Contrib Microbiol Immunol 13:48‐ 50, 1995
7)Zink DL, Feeley JC, Wells JG, Vanderzant C, Vickery JC, Roof WD, O'Donovan GA.:Plasmid‐
mediated tissue invasiveness in Yersinia enterocolitica. Nature 283:224‐226,1980
8)Cornelis GR, Boland A, Boyd AP, Geuijen C, Iriarte M, Neyt C, Sory MP, Stainier I.:The
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9)Aleksic S. Bocemuhl J.:Yersinia and Other Enterobacteriaceae.In Manual of clinical
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Press, Washington, 1999
10)Sazama, K.:Bacteria in blood for transfusion.A review. Arch Pathol Lab Med 118:350‐ 365, 1994.

(東京都立衛生研究所生活科学部 金子 誠二)

ウイルス性出血熱とは、エボラ出血熱,マールブルグ病,ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱の4種類をさします。個々の疾病については、以下のメニューから選ぶことができます。

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