国立感染症研究所

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長期化した大規模なラッサ熱アウトブレイクへの対応(ナイジェリア, 2019年1月1日~4月28日)

(IASR Vol. 40 p146:2019年8月号)

ナイジェリアでは, ラッサ熱はエンデミックであるが, 患者数は2016年以降増加し続けており, 2018年には最多の633例を記録した。2019年1月1日(第1週)~4月28日(第17週)ナイジェリア37州のうち21州で554例が検査診断され, 124例が死亡した。ナイジェリア疾病対策センター(NCDC)は2019年1月22日に公衆衛生上緊急事態を発令した。

現在のラッサ熱アウトブレイクとサーベイランス

2016~2018年の, ナイジェリアの年間ラッサ熱報告数は, それぞれ177例, 312例, 633例であった。さらに, 2019年1月1日~4月28日のラッサ熱発症者数は, 確定例, 疑い例ともに前年の同時期を上回っている。疑い例はすべて採血後RT-PCR法にてラッサ熱の検査を受けており, 疑い例の検査陽性率は24%で例年と大きな変わりはない。

ラッサ熱のリザーバーは主にげっ歯類で, 感染げっ歯類や排泄物への接触でヒトに感染するが, ヒト―ヒト感染も報告されている。2019年に回収された検体のウイルスゲノムシークエンス分析では, 主な感染源はげっ歯類からの分泌物であった。

2011年NCDCが設立され, ラッサ熱を含む感染症サーベイランスシステムが強化された。NCDCはラッサ熱の患者数増加を受け, 2019年1月22日アウトブレイクの緊急事態を宣言し, 国, 州レベルで公衆衛生担当者に対してサーベイランストレーニングが行われた。ラッサ熱を疑う感度を上げるために, 医療従事者向けにはワークショップが開催され, 一般向けにはラジオ, テレビ, ポスター, SNSといったメディアでの啓発が行われた。検査室と検体搬送システムを強化し, ラッサ熱検査ネットワークを構築することで, 症例の探知と報告が促進された。

臨床対応とガイドラインの改訂

2019年, 確定例の死亡率は22%(124/554)であった。国および地域レベルで, ラッサ熱患者に対する臨床対応に関するワークショップがアウトブイレク対応の一環として実施された。2018年11月に改訂された国家のラッサ熱治療ガイドラインには感染予防・管理, 治療法, 合併症(敗血症, 腎障害など)への対応が記載され, 合併症が死亡の重要なリスク因子と述べられている。

残念なことに最近3年間で死亡率の改善はみられていないが, 医療従事者に新しいガイドラインを周知し, 早期診断と治療をすることで, 予後と死亡率が改善されるだろう。

感染予防・管理が遵守されなければ, 医療関係者には感染リスクがある。2019年1月1日~4月28日の間, 18人の医療従事者が感染している。ガイドライン上, 医療従事者は, ラッサ熱が疑われるすべての患者に直接触れる場合, フルセットの個人防護具が推奨されている。ナイジェリア国内の通信や物資輸送のシステムが改善し, 2019年には, ラッサ熱に対応できる病院に十分な医療物資が提供可能となった。しかし, リソースが十分でない流行地域においては, その継続性に課題が残る。

緊急事態を捉える閾値の設定

ラッサ熱はナイジェリアでエンデミックであり, 毎年報告されている。流行状況の変化や, 報告数増加のモニタリングが大切であることから, 統計学的にナイジェリアでラッサ熱患者数の期待値を求め, 緊急事態と考える閾値を設定した。過去3年間の各週の確定例数を参照し(2019年の閾値を求める場合は2016~2018年), 閾値を求めたい週の前後2週間の症例数の平均値に2SD(標準偏差)を足した値を超えた場合とした。この手法には, 降雨, げっ歯類の生息状況等の環境要因は加味されていないが, 季節性の変動は反映されている。

国内外での感染拡大の現状とリスク

2019年の確定例の多くは, ラッサ熱に対応できる病院のある, 3つの州(Ebonyi, Edo, Ondo)から報告されている(396/554例, 71%)。これらの3つの州でラッサ熱の有病率が本当に高いのか, あるいはサーベイランスが強化されているためか, もしくはそのどちらもなのかは, はっきりしない。興味深いことに, 2019年はBauchi, Plateau, Tarabaといった他の州でも患者数が過去最大となっており, 緊急対応を考慮しなければならないかもしれない。

ラッサ熱の発生はその疫学から経済・社会を崩壊させる可能性が有るため, 国際保健規則(IHR)の報告疾患に含まれている。2018年ベニンで確定診断された3例は, 診断直前にナイジェリアから移住した移民であった。2019年は, 今のところ輸出例の報告はないが, ベニン, カメルーン, ニジェールに隣接するナイジェリアの州で確定例が報告されている。

ナイジェリアからヨーロッパへの主な渡航先はフランス, 英国であり, 英国からナイジェリアへの渡航者は150,000人/年で, ニジェールの次に多い。ナイジェリアからヨーロッパ等アフリカ大陸以外へラッサ熱が輸出される可能性はあるが, 世界保健機関(WHO)は現在得られる情報をもとに, ナイジェリアへの渡航や貿易規制を行っていない。

ナイジェリア以外の医療従事者は, ラッサ熱を思わせる臨床症状や, ナイジェリア内の流行地の渡航歴のある患者の受け入れ時には, 現在のナイジェリアの状況を認識しておく必要がある。

 

(Euro Surveill. 2019; 24(20): pii=1900272)
(抄訳担当:厚生労働省感染症危機管理専門家(IDES)
養成プログラム 匹田さやか
感染研感染症疫学センター 松井珠乃)

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