国立感染症研究所

黄熱に対するワクチンと予防接種-2013年WHO 方針 

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黄熱に対するワクチンと予防接種-2013年WHO 方針

(IASR Vol. 34 p. 240-241: 2013年8月号)

 

この黄熱に対するワクチンと予防接種のWHO 方針は2003年の方針の改訂である。

背景:黄熱は現在アフリカと南米の44カ国で蔓延している。予防接種キャンペーンが中止され、予防接種率が維持されなくなった地域では、予防接種未接種者の間で黄熱がまた流行し始め、一度は根絶されたと考えられた地域(アルゼンチン北部、ブラジル南部、パラグアイ、カメルーン南部、中央アフリカ共和国、ウガンダ、スーダン等)でも大規模な流行が起こるようになった。患者の90%はアフリカで発生しており、2013年にアフリカでは8.4~17万人の重症患者と 2.9~6万人の死者が発生していた。

黄熱には患者の年齢、性、職業の分布から3つの異なる伝播サイクルがある。野生生物型はヒト以外の霊長類に感染し、ジャングルの林冠にいる蚊(Haemago-gusAedes)により媒介され、ヒトへの感染は偶発的に起こる。南米で多く、70~90%の感染者は森林近くで働いている若年男性である。2つ目の中間型は荒地や人家近くでAedes が吸血できるアフリカの湿潤地域で認められ、ヒト以外の霊長類とヒトどちらにも感染する。3つ目の都会型は、黄熱に対する免疫が乏しいヒトが密集していてネッタイシマカが活発な地域に感染者が移動し、ウイルスがヒトからヒトへ運ばれて大規模な流行を起こす。

黄熱ウイルスはフラビウイルス属の1本鎖RNAウイルスである。感染すると無症候の場合もあるが、通常ウイルス曝露後3~6日で発症し、発熱、筋肉痛などの非特異的症状が急激に始まる。一時緩解した後15%のヒトでは2~24時間後に症状が再燃し、腎不全、黄疸、出血傾向、心筋障害が起こる。肝腎不全に至ると20~50%が通常発症から7~10日で死亡する。診断は血清IgMやIgG の検出によるが、IgMは他のフラビウイルスへの既感染があると上昇せず、逆に罹患や予防接種後は数年にわたり上昇する。IgG は少なくとも35年または生涯上昇したままとなる。特異的な治療法はない。

現在の17D 系からの弱毒生ワクチンは、1927年にガーナで分離された野生株に基づき鶏胎児胚細胞で増殖させて作られており、蚊では媒介されない。ソルビトールやゼラチンが安定剤として使われているが保存剤は含まれず、凍結乾燥されている。保管は-2~-8℃として、使用直前に溶解液で戻した後は氷上で遮光保存し、1~6時間で破棄する。接種は 0.5mlを皮下注または筋注する。健常人では10日以内に80~ 100%、30日以内に99%が中和抗体を獲得する。HIV 感染者では接種1年後の抗体価上昇が83%(65/78)であり、HIV 非感染者の97%(64/66)より有意に低かった。また、妊婦では妊娠第3期の接種で39%、妊娠第1期の接種で95%の抗体獲得率という報告がある。

頭痛や局所違和感などの軽度副反応は25%で報告され、重度副反応は3つに分類される。1つ目のアナフィラキシーは0.8/10万で発生し、卵やゼラチンアレルギーの人で多い。2つ目のワクチン関連神経疾患は、脳炎、髄膜炎、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎等で 0.25~0.8/10万で発生する。3つ目のワクチン関連多臓器不全は60歳以上で多く、0.25~0.4/10万で発生し、致死率60%以上である。妊婦の接種は、自然流産が増えるという報告と主だった奇形や死産の増加はないという報告があり、メーカーは禁忌としているが、流行時には保健当局の指示に従い接種可能である。同時接種に関しては、多くのワクチンで同時接種は安全だが、MMRと一緒に接種した場合、黄熱、風疹、ムンプスの抗体価が有意に上昇しなかったという報告がある。

WHO の声明
黄熱ワクチン使用の一般的目的と戦略:黄熱予防接種は、蔓延または流行地域の人を守る、それらの地域への旅行者を守る、ウイルス血症を起こした旅行者からのウイルスの国際的伝播を防ぐ、という3つの目的から行われる。すべての蔓延国で1回の黄熱ワクチンを定期接種に組み込むことが推奨される。

スケジュール:蔓延国では黄熱ワクチンは9~12カ月に麻疹ワクチンとの同時接種が推奨される。また、導入期限が設けられるべきである。予防接種率が低い場合には大規模予防接種キャンペーンの施行が推奨される。患者報告地域では9カ月以上の全員に予防接種の機会が提供されるべきである。黄熱の危険地域に旅行者が出入りする場合、ワクチン未接種の9カ月以上の人では予防接種が薦められるべきである。他のワクチンとは同時接種が可能である。

特別な対象と禁忌:CD4 細胞数 200個/mm3以上で無症状のHIV 感染者は接種が薦められる。臨床的に元気な小児にはHIV 感染症の有無にかかわらず接種してもよい。妊婦と授乳中の女性は予防接種の利益と危険とが検討されるべきであり、カウンセリングが行われるべきである。黄熱蔓延地域または流行中は、胎児や新生児へのワクチン株感染の危険より母親の予防接種での利益が大きく、予防接種を受けた授乳中の女性では授乳での利益が大きい点が助言されるべきである。妊婦や授乳中の女性が黄熱蔓延地域に行く必要がある場合は黄熱の予防接種を受けるべきである。黄熱予防接種は6カ月未満の乳児では禁忌であり、6~8カ月の幼児では黄熱が流行中で罹患する危険が高い場合を除き薦められない。

重度の卵アレルギーや重度の免疫不全(原発性免疫不全、甲状腺疾患、CD4陽性T細胞が200未満で症状のあるHIV感染者、化学療法中の悪性新生物、最近の造血幹細胞移植、免疫抑制剤や免疫に影響を与える薬物、免疫細胞を標的とした放射線治療)では禁忌である。60歳以上の人では副反応のリスクが増すため、黄熱に罹患するリスクと予防接種後副反応のリスクとを評価検討すべきである。

サーベイランスと研究の優先度:黄熱コントロール戦略には、疾患とワクチン副反応に関する検査機関の協力に基づくサーベイランスが含まれるべきである。HIV陽性者での免疫持続、MMR等の他の弱毒生ワクチンとの同時接種、妊婦と60歳以上の高齢者での黄熱ワクチンの安全性や免疫原性を評価するための質の高い研究が必要である。

 
(WHO, WER, 88, No.27, 269-283, 2013) 

最終更新日 2016年8月24日(水曜)13:10

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