国立感染症研究所

掲載日:2021年5月27日

第36回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年5月26日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第36回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

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直近の感染状況等

全国の新規感染者数は、報告日別では、5月中旬以降減少に転じ、直近の1週間では10万人あたり約26人となっている。発症日別エピカーブでも減少傾向にある可能性。横ばいあるいは減少傾向となる地域がある一方で、依然として増加傾向となっている地域もあり、予断を許さない状況が続いている。重症者数、死亡者数は増加傾向が続いていたが、直近では高止まりとなっている。

特に、首都圏や関西、愛知といった大都市圏では、各種対策による人流の減少がみられたが、英国で最初に検出された変異株(B.1.1.7)への置き換わりが進む中で、その後の新規感染者数の減少につながるまで、以前よりも長い期間を要している。こうした中で、各地で直近では人流の増加が見られており、新規感染者数の動きも含め留意が必要。

実効再生産数:
全国的には、1前後で推移しており、直近(5/9時点)で0.95と1を下回る水準となっている。

感染状況の分析【地域の動向等】

※新規感染者数の数値は、報告日ベースの直近1週間合計の対人口10万人の値。実効再生産数は、1週間平均の直近(5/10時点)の値

①関西圏
  • 大阪、兵庫、京都では、緊急事態措置の開始から4週間経過。新規感染者数は、それぞれ約30、22、24。大阪、兵庫では、新規感染者数の減少傾向が継続、京都でも減少の動きが見られるが、大阪では依然として25を超える高い水準。
  • 大阪では、夜間滞留人口・昼間滞留人口とも2回目の宣言中最低値より約30%低い水準を維持。兵庫、京都も夜間滞留人口は2回目の宣言中最低値より低い水準を維持。大阪、兵庫、京都の実効再生産数は0.69、0.64、0.85で、今後も新規感染者の減少が見込まれるが、感染状況の改善による滞留人口の動向とともに注視が必要。
  • 大阪、兵庫を中心に、医療提供体制や公衆衛生体制の非常に厳しい状況が継続。大阪では宿泊療養者数、入院者数、重症病床使用率が減少・低下傾向だが、兵庫では宿泊療養者数は減少傾向で、その他は横ばい。新規感染者数の減少に伴い改善に向かうと見込まれるものの、一般医療を制限せざるを得ない状況が続いている。また、高齢者施設等でのクラスターも継続。
  • 滋賀、奈良、和歌山でも、新規感染者数は減少傾向で、約19、18、8。
②首都圏(1都3県)
  • 東京では、緊急事態措置の開始から4週間経過。埼玉、千葉、神奈川では、重点措置の開始から5週間経過。新規感染者数は、いずれも、5月中旬以降横ばいから減少傾向で、それぞれ約31、16、13、20。20-50代が多数を占めている。先週今週比は直近では1以下。一方で、GWに伴う感染者数の変動の影響も考えられ、この点を踏まえれば今後について、楽観視できない。
  • 東京では、夜間滞留人口・昼間滞留人口が増加しており、2回目の宣言中の最低値のレベルとなっている。埼玉、千葉、神奈川では横ばい。東京でこのまま人流の増加傾向が続くとリバウンドの可能性があり、警戒が必要。
③中京圏
  • 愛知では、緊急事態措置の開始からは2週間経過。新規感染者数は急速な増加が見られていたが、5月中旬以降高止まりで、約48。20-30代が多数を占めている。医療及び保健所への負荷が続き、病床使用率も高い水準で医療提供体制が厳しい状況が継続。
  • 夜間滞留人口は小幅な減少で2回目の緊急事態宣言時の最低値付近で推移。昼間滞留人口は緊急事態宣言後減少。滞留人口の減少から5週間以上経過しており、新規感染者数が減少に転じるか注視が必要。
  • 岐阜、三重では、重点措置の開始から2週間経過。岐阜では、5月半ば以降新規感染者数の減少が続き、約30。夜間滞留人口・昼間滞留人口とも減少が続いており、今後も新規感染者数の減少が見込まれる。三重でも減少の動きが見られ、約12。静岡では、新規感染者数の増加が続いていたが、5月半ば以降減少がみられ約13。今後の動向に注視が必要。
④九州・沖縄
  • 沖縄では、重点措置の開始から6週間経過。5月23日から緊急事態措置を適用。那覇市をはじめとした都市部と八重山地域で20-30代を中心に現役世代で新規感染数者の急増が続き、約93と非常に高い水準。県外からの渡航者の感染も見られている。病床使用率も上昇しており、感染者の増加により、更なる医療提供体制への負荷の増大が予想される。現状では60代以上の割合は低いものの、高齢者に感染が波及することにより、重症者の増加が懸念される。
  • 重点措置後減少していた夜間滞留人口は、GW中に増加し、その後の減少も小幅にとどまっており、今後も感染者数増加の継続が予想される。
  • 福岡では、緊急事態措置の開始から2週間経過。20-30代を中心として新規感染者数の急増が続いていたが、5月中旬以降減少に転じ、約44。先週今週比も直近で1以下となったが、感染者数は依然として非常に高い水準で、病床の占有率も高まっており、医療提供体制への負荷が大きい状態が継続。
  • 実効再生産数は1以下で、新規感染者数の減少が見込まれるが、夜間滞留人口は、緊急事態措置後も小幅な減少で2回目の緊急事態宣言時の最低値水準には届いておらず、注視が必要。
  • 熊本では、重点措置の開始から1週間経過。新規感染者数は、5月中旬から減少に転じ、約26。
  • その他の九州各県でも、減少傾向となっているものの、佐賀、大分では、約20、24と15を超える水準。先週今週比は低下傾向で1を下回っており、減少が続くと見込まれるが、引き続き注視が必要。
⑤北海道
  • 重点措置の開始から2週間、緊急事態措置の開始からは1週間経過。新規感染者数の増加傾向が続いており、約78と非常に高い水準。札幌市は約127とより高い水準。病院や福祉施設でのクラスターも継続して発生。緊急事態措置後に夜間滞留人口、昼間滞留人口とも減少しているが、先週今週比の低下傾向は見られるものの1を超えており、今後も増加が継続する可能性もある。札幌の医療提供体制は厳しい状況で、病床使用率が高い状況が続いており、市外への広域搬送事例も見られている。
⑥その他の緊急事態措置地域(岡山、広島)
  • 岡山、広島では、緊急事態措置の開始から1週間経過。新規感染者数は、岡山では5月中旬以降減少に転じており、広島でも減少の動きが見られるが、それぞれ約35、43と非常に高い水準。両県ともに病床使用率が高い水準。両県とも、夜間滞留人口・昼間滞留人口の減少傾向が続き、先週今週比は直近で1以下となっており、減少傾向が継続するか注視が必要。
⑦その他のまん延防止等重点措置地域(群馬、石川)
  • 群馬、石川では、重点措置の開始から1週間経過。両県とも新規感染者数は、5月中旬から減少傾向で、約17、27(石川では学校関係のクラスターで足下で増加)。両県ともに実効再生産数は1を下回り、先週今比も1以下が続いており、今後も減少が見込まれるが、その傾向が継続するか注視が必要。
⑧上記以外の地域
  • 青森、富山、山口、高知では新規感染者数が15を超えており、それぞれ約16、22、21、20。山口は減少の動きが見られ、青森は横ばい傾向だが、富山、高知では増加傾向が続いており、今後も注視が必要。

<変異株に関する分析>

  • B.1.1.7の割合が、スクリーニング検査では、全国計で約8割となり、一部の地域を除き、従来株からほぼ置き換わったと推定される。また、B.1.617(インドで最初に検出された変異株)については、国内では海外渡航歴のない者から感染が確認される事例も生じている。
  • また、B.1.1.7による重症化リスクが高まっている可能性も想定して、医療体制の整備や治療を行う必要がある。
  • 併せて、 B.1.617については、海外で置き換わりが進んでいるという報告もあり、また、 B.1.1.7 よりも更に感染・伝播性が強い可能性も示唆されており、引き続き、分析を進めていくことが必要。

今後の見通しと必要な対策

首都圏や関西では減少傾向が続く可能性があるが、人流の動きもあり留意が必要。愛知では明確に減少に転じるか注視が必要。沖縄では増加の継続も予想される。全国的にB.1.1.7株へほぼ置き換わり、拡大時の速度が以前よりも速く、収束時はより長期化する傾向が見込まれる。また、重症者数は増加または高止まりの地域が多く、感染者数増加の抑制は引き続き求められる。

人流の減少が新規感染者数の減少につながるまで、以前よりも長い期間を要している。一方、緊急事態措置区域及び重点措置区域では、市民や事業者の協力により、減少や上げ止まりの動きが見られる地域があり、その効果も現れている。しかし、増加が続く地域や減少に至らない地域では、GWの影響もあったとみられ、対策の効果はまだ限定的である。多くの地域で、ステージⅣ相当の新規感染者数が発生し、医療提供体制の厳しい状況が続いており、必要な対策の継続が求められる。

これまでの取組の結果や、現在の感染状況、医療提供体制の状況、B.1.1.7およびB.1.167により、これまでより感染拡大が速く進む可能性も踏まえ、各自治体において、地域の専門家の入った会議体などで感染状況・医療提供体制などを分析し、必要な対策をタイムリーに実施していくことが求められる。

今回の流行拡大における重点措置及び緊急事態措置のタイミングや対策の内容とその効果については分析・評価をおこない、今後の運用に活用していく必要がある。また、各地域において、抗原定性検査を活用した検査戦略や医療提供体制の強化は第33回ADB資料や第5回基本的対処方針分科会での議論を踏まえ進める必要がある。

ワクチンについて、その効果に関する報告がなされている。ワクチン接種が広く 進め ば、重症者数、さらには感染自体が抑制されることも期待される。大規模集団接種会場における接種も始まったところであり、国と自治体が連携して、可能な限り迅速・効率的に多くの人に接種を進めることが必要。

一部地域でマスクの効果に関する分析がなされているが、このような結果も踏まえれば、会食時を含め会話の際にマスクの着用を徹底することは重要。地域での取組も踏まえ、引き続き、職場や学校を含め、日常生活の様々な場面で、マスクの正しい着用等基本的な感染予防対策を行うことの重要さを発信することが必要。一方、マスクさえすれば大丈夫というメッセージとならないようにすべきであり、遵守の徹底が難しいことにも留意が必要。

一部の地域を除き、従来株から B.1.1.7へ概ね置き換わったと推定される中で、新たな変異株への対応も強化するため、ウイルスゲノムサーベイランスによる実態把握に重点をおいて対応を行うことが必要。特に、VOCと位置づけられたB.1.617については、ゲノムサーベイランスにより全国的な監視体制を強化するとともに、積極的疫学調査等により、国内における感染拡大を可能な限り抑えていくことが必要。また、水際措置の強化が行われてきているが、これまでの水際対策を検証し、今後も、国外及び検疫での発生状況やこれまでの対策の効果等も踏まえて、迅速に対応することが必要。

 

感染状況分析・評価グラフ等 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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